オーストラリア政府は社会環境改善の施策として、テニスなどスポーツに注目しているようだ。今年4月にはテニスなどへの参加促進を目的とした9億円規模のプログラムを公表したほか、昨年には高齢者へのスポ…

オーストラリア政府は社会環境改善の施策として、テニスなどスポーツに注目しているようだ。今年4月にはテニスなどへの参加促進を目的とした9億円規模のプログラムを公表したほか、昨年には高齢者へのスポーツの普及のため約18億円を投じると発表していた。公的施策の拡充で、女性や高齢者などを取り巻くスポーツ環境の改善を見込む。

♦︎参加促進から指導者育成までをカバー

オーストラリア保健省は今年4月、民間スポーツの振興を促進するための施策を発表した。テニスのほか、バスケットボールに似たネットボールという競技が対象となっており、おもに女性の参加促進を目的としている。とくに貧困地域で重点的に実施し、テニスをプレーする機会の提供、能力の開発、女性コーチの育成加速に加え、ひいては将来的にテニス界を担えるような女性の人材開発を促す。女性の社会参加を促し、スポーツ界における男女平等を推進するという社会的役割も期待されている。

計画では個人ごとに専用の訓練プログラムを策定するほか、コーチングやスポーツの運営・実施に職業として携わるためのキャリアパスの個別相談などを実施する。プログラムは早ければ今年中にも始まる予定で、2022年ないしは2023年までの期間中に1200万豪ドル(約9億6000万円)の投入を予定している。

♦︎首相肝いりのプロジェクト

この計画には、オーストラリア首相の個人的な思い入れもあるようだ。発表にあたりスコット・モリソン首相は、「二人の娘を持つ身として、少女たちがスポーツを続けることを難しくしている障壁に取り組みたい」「テニスに情熱を燃やす女性たちをもっと助けたい」と意気込みを語った。

Ministry of Sport誌によると具体的には、

▽個別の能力開発プログラムに3000人の少女の参加

▽スポーツのリーダーや助言者を育成するプログラムに少女および成人女性1000人の参加

▽女性のコーチ数の10%増加

▽草の根スポーツの男女の参加率のギャップを現行の12%から縮小

▽競技への女子参加率を現行の37%から45%に向上

などを見込む。

テニスにおいては年少期の参加率は男女ほぼ等しいが、ほかのスポーツの例に漏れず、12歳を超えたあたりから女子の参加率が落ち込むという。計画では女性がスポーツを継続できるようサポートを行ってゆく。

♦︎取り組みは昨年にも

以上は今年発表された内容だが、スポーツ普及の試みは昨年にも行われている。オーストラリアの政府組織であるスポーツ委員会は昨年9月、シニア層のスポーツ促進に向けて2290万豪ドル(約18億4000万円)を投じると発表した。65歳以上のオーストラリア国民の数は、高齢化により今後40年間で倍増することが予想されている。すでに同委員会はThe Move It Ausという全国民対象の運動促進キャンペーンを実施しているが、高齢者に特化した施策をこれに追加し、人口構成の変化に備える狙いだ。高齢層には若年者とは違ったスポーツプログラムが求められるが、現状このようなプログラムは広く提供されているわけではない。補助金を通じ、スポーツクラブなどが適切な運動プログラムを開発できるよう促す。

プロジェクトを支援する元プロ選手のジョン・フィッツジェラルドは、「テニスは生涯スポーツでどのレベルの人もプレーできる。健康を維持し、社会的なつながりを保つために最適」とテニスを推奨する。

女性や高齢者などは従来、スポーツを行う意思があっても適切な場が少なく、参加・継続を断念せざるを得ない事情があった。豪政府はこうした状況を認識しており、プログラムを通じて女性の社会進出や高齢化社会への対応などを進めたい考えだ。(テニスデイリー編集部)

※写真はテニスをする女性のイメージ(Gianni Caito / Shutterstock.com)