ホンダがインディカー・シリーズのマニュファクチャラー・タイトル連覇に向けて着々と歩を進めている。 開幕戦セントピーターズバーグこそ、シボレーエンジンユーザーのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)が優勝したが、その後の3レース…

 ホンダがインディカー・シリーズのマニュファクチャラー・タイトル連覇に向けて着々と歩を進めている。

 開幕戦セントピーターズバーグこそ、シボレーエンジンユーザーのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)が優勝したが、その後の3レースでホンダ勢はコルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)によって3連勝。しかも、多くのドライバーたちが上位フィニッシュしたことでポイント争いで優位に立っている。



第4戦ロングビーチで優勝したアレクサンダー・ロッシ。ホンダはこれで3連勝

 インディカーのマニュファクチャラー・ポイント・システムでは、ポールポジション(PP)獲得に1点、優勝すると5点が与えられるが、それより大きいのは、それぞれのエンジンユーザーの中で上位フィニッシュした2人のポイントがカウントされる点だ。そちらはドライバーチャンピオンシップと同スケールのポイントになっているため、勝てば50点、2位なら40点で、1-2フィニッシュすれば90点が稼げる。

 2019年のホンダは開幕戦で敗れたが、2位と4位を確保してダメージを小さく収め、第2戦は優勝+3位、第3戦は1-2-3フィニッシュ、第4戦は優勝+3位と、3連勝に加えて多くの上位フィニッシュを実現した。第3戦を例にとると、ホンダがマックスの50点+40点+PPの1点+優勝の5点と、96点も加算したのに対し、シボレーは4位の32点と9位の22点で合計54点。この1戦だけで42点も差が開いた。

 ホンダがインディカー・シリーズで持つアドバンテージは、彼らが誇りを持って開発しているエンジンのパフォーマンスにももちろんあるが、2004年の参戦開始以来、アメリカで長年かけて育んできたホンダというブランドに対する大きな信頼感にある。

 2012年にシボレーが復活してきた際、ホンダは有力チームを囲い込まず、むしろシボレーにチーム選びを優先させた。その結果、しばらく苦戦が続いたが、7年間、ライバルが不在だったホンダは競争する相手が登場してくれたことを歓迎。黙々とエンジンの競争力を高めることに努め、ユーザーチームへのサポート体制を少しずつ強化し、若い才能の起用にも積極的に取り組んだ。ここにきて、その成果がようやく表われたように見える。

 シボレーは2014年から3年間、チーム・ペンスキーとチップ・ガナッシ・レーシングという強豪2チームによって勝利を重ねた。しかし、2016年限りでガナッシはよりよいサポートが受けられるホンダ陣営に戻った。2017年はシボレー10勝、ホンダ7勝でシボレーの優位は残ったが、2018年にはホンダ11勝、シボレー6勝と立場が逆転した。

 この2シーズン、シボレーユーザーで優勝したのはチーム・ペンスキーだけだが、ホンダは2年続けて、レギュラー5チームすべてが1勝以上を挙げている。今年新たにホンダユーザーとなったハーディング・スタインブレナー・レーシングも、2戦目で早くも優勝を記録した。

 ユーザーチームが粒揃いになったことで、2019年シーズン序盤のホンダは、シボレー勢で上位フィニッシュとなるドライバーの順位を低くすることに成功。獲得ポイントを349点に伸ばし、シボレーの278点を大きくリードしている。

 開幕戦セントピーターズバーグと第4戦のロングビーチはストリートレースで、第2戦、第3戦は常設のロードコース型サーキット。2タイプのコースでホンダがアドバンテージを得たのは、エンジンのパワーバンドの広さにもあったようだ。低速から高速までコーナーがあるコースでは、どこからでもパワーのツキがいいエンジンの方が有利。扱いやすいエンジンはドライバーの負担を減らすため、予選でもレースでもアドバンテージになる。

 次の第5戦はインディアナポリスのロードコース。ホンダは快進撃を続ける可能性が高い。注目すべきは、その次の世界最大のレース、インディ500だ。

 2018年のインディ500は、シボレーが予選でポールポジションからのトップ4ポジションを独占。レースでもウィル・パワーが圧勝し、エド・カーペンターが2位と1-2フィニッシュを飾った。勝因は、超高速オーバルでもっとも重要な最大パワーで、ホンダに対してアドバンテージを持っていたことだったと思われる。

 もうひとつ。昨年はシャシーの空力が新しくされ、それに合わせた新ルールが導入されたが、これがレース中のオーバーテイクを非常に難しくしていた。レースをエキサイティングなものにするルールになっていなかったのだ。その点、今年は改善がなされ、オーバーテイクの頻度が去年より多い、スリリングなバトルが繰り広げられることが期待される。

 そうなった時、シボレーは去年のような優位を維持できるだろうか。それとも、ユーザー層の厚さも手伝ってホンダ勢が逆襲することになるのだろうか。

 インディ500でのシボレーの優位は、回転数上限で発生させているトップパワーの大きさだけでなく、そこから少し下がった回転域でのパワーの高さにもあるという指摘がある。

 インディアナポリスモータースピードウェイの長い直線で400km/h近い高速に達したマシンは、アクセル全開のままステアリングが切られることによってコーナーへ飛び込んでいく。だが、タイヤに舵角が与えられて抵抗が増えることで、若干のスピードダウンが起き、エンジン回転数は少しだけ下げる。そしてドライバーはアクセルを踏み込んだまま、バンクを利用してコーナーを立ち上がっていく。この時のスピードダウンをミニマムにして、力強くコーナーを脱出して行くためのパワー、つまりピーク回転数よりやや低いレンジでのパワーでシボレーはホンダに優っているというのだ。

 アメリカのメディアは去年、「パワーはシボレーの方が出ている」と書きたてた。インディ500においては、それが事実だったのだろう、予選結果に両者の差は如実に表れていた。しかし、レースで圧勝するほど、エンジンのパワーに大きな差があったとは考えられない。

 2012年からインディ500で2勝4敗とホンダに負け越していたシボレーは、アメリカの自動車メーカーのプライドを懸けて、アメリカを代表するレースでの勝利にそれまで以上にこだわり、より狭いバンドでのパワーを絞り出すための開発を行なったのだろう。

 ホンダは今年のインディ500でのリベンジに燃えている。

 インディカー・シリーズは、2021年にまったく新しいエンジンを採用することを決定しており、それまでは現行エンジンに毎年ごく限られた範囲での開発、設計変更しか行なえないルールになっているが、ホンダには、ロード/ストリートコースで発揮しているドライバビリティの高さというアドバンテージがある。

 超高速コースで使われる回転域でも、それが得られるよう、カリフォルニアにあるアメリカン・ホンダのレーシング・アーム、ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(HPD)は、日本の研究所と協力して開発作業を休まず続けている。ルールで許される範囲内で、小さな改良をいくつも積み重ね、インディ500での打倒シボレーを目指している。一新されたシャシーの空力解析でも、ユーザーチームへのサポートを続けている。

 ホンダの掲げている目標は、第一にインディ500優勝、そしてマニュファクチャラー・タイトルの防衛、さらにはホンダドライバーをチャンピオンの座に就けることだ。ユーザー層を厚くしたホンダになら、2019年、これらの目標をすべて達成することは十分に可能だろう。