マスターズ1000シリーズのマイアミオープンはロジャー・フェデラーの101回目のツアー優勝で幕を下ろした。レジェンドの偉業と共に強い印象を残したのが、Next Genの活躍、とりわけ10代選…

 マスターズ1000シリーズのマイアミオープンはロジャー・フェデラーの101回目のツアー優勝で幕を下ろした。レジェンドの偉業と共に強い印象を残したのが、Next Genの活躍、とりわけ10代選手の飛躍だった。

 19歳のデニス・シャポバロフ、18歳のフェリックス・オジェ アリアシムと、10代選手が二人も準決勝に進出した。マイアミで10代選手が二人、準決勝に残ったのは、2007年以来だという。12年前の二人とは、ノバク・ジョコビッチとアンディ・マレーだ。

 18歳の選手がマスターズ1000シリーズで4強入りしたのは2年ぶり。2年前、17年のモントリオールで準決勝に進んだのが、実はシャポバロフだった。その前はというと、2005年にラファエル・ナダルがモンテカルロ、ローマで優勝、マイアミで準優勝というところまでさかのぼらなくてはならない。

 今季最初のマスターズ1000、インディアンウェルズでは25歳のドミニク・ティームが同シリーズ初優勝を飾ったが、個人的には、ティーンエイジャーたちによるマイアミからの衝撃波の大きさは、それをはるかに超えた。

 実際、ティームの優勝にも大きな意義があった。アレクサンダー・ズベレフが17年のローマで同シリーズ初優勝を遂げてから2年足らずの間に、マスターズ1000で初めてタイトルを握った選手はティームで早くも7人になった。四大大会に次ぐ格付けの同シリーズのタイトルは、つい数年前までフェデラーとジョコビッチ、ラファエル・ナダル、マレーのBIG4がほぼ独占していた。その勢力図が変動しはじめたことが、ティームの初優勝で明確になった。

 22歳のボルナ・チョリッチ、21歳のフランシス・ティアフォーを含めた若手4人の8強入り、さらにシャポバロフらの4強入りは、近い将来、勢力図がさらに大きく書き換えられることを予感させる。

 シャポバロフ、オジェ アリアシムの共通項は、カナダ出身、早熟という点だけではない。超攻撃型のプレースタイルだ。

 この二人には、ネットでフィニッシュする形が頻繁に見られる。フェデラーとの準決勝を前にシャポバロフは、ATPワールドツアーの公式動画サイト、テニスTVでみずからのスタイルについて話している。

「僕はロジャーを見て育ったんだ。彼のようにアグレッシブにプレーしようとした。どんどんネットに出るようにしたんだ。彼はジュニアの選手たちはあまりネットに出ないと言っていた。でも僕はネットに出ているし、彼みたいにやろうと思っている」

 お手本となったフェデラーは、シャポバロフについてこう語った。

「彼のウィンブルドンジュニアでの試合はテレビで見たよ。だいぶ若い頃だね。数年前にはトロントで一緒に練習した。左利きの練習相手が必要だったんだ。彼はビッグショットと滑るサーブを持っていて、様々なショットを操ることができた。彼のそういうプレーを見るのは好きだね」

 ジョコビッチやナダル、マレーは守備力の土台を生かして勝ち星を重ねた。一方、フェデラーは攻撃的なテニスの孤塁を守ってきた。シャポバロフはそのフェデラーのスタイルを受け継ぎ、さらに個性を加えた攻撃スタイルを追求する。オジェ アリアシムも同様に超攻撃的なテニスを指向している。ジョコビッチが先導した守備力重視の男子テニスに、二人は攻撃的なテニスで切り込もうとしているように見える。

 ネットに出ると言っても、一か八かの勝負をかけるのではない。ビッグサーブで攻撃態勢に入り、ラリーの3本目、5本目でネットをとって、時間をかけずに仕留めようという、力強いアタッキングテニスだ。

 シャポバロフがティアフォーを破った準々決勝のスタッツを見てみよう。サービスエースはシャポバロフの7本に対しティアフォーが5本と大差はない。だが、ファーストサーブのポイント獲得率では76%:63%と大きな差が見られる。セカンドサーブのポイント獲得率でも64%:61%とシャポバロフが上回った。

 オジェ アリアシムとチョリッチとの準々決勝でも似たような数字が残っているのが興味深い。エース本数はオジェ アリアシムが8、チョリッチが7と拮抗したが、ファーストサーブのポイント獲得率では73%:64%とオジェ アリアシムがまさり、セカンドサーブでは61%:42%とさらに大きな開きがあった。

 シャポバロフとオジェ アリアシムが、サーブ力を生かした効率的な攻めを展開したことが読み取れる。

 そうしたスタイルに、結果も伴ってきた。二人の活躍は、男子テニスが大きく変わる前の胎動のように思える。

 さて、気になるのは、本来なら気力、体力とも充実期を迎えた20代後半の選手たちだ。マイアミの決勝は37歳のフェデラーと33歳のジョン・イズナーの対戦となり、20代は4強に一人も残れなかった。8強を見ても20代後半の選手の名前はなく、22歳のチョリッチから30歳のロベルト・バウティスタアグートまでの間がすっぽり抜け落ちている。

 期待されながら頂点が遠い錦織圭やグリゴール・ディミトロフ、ミロシュ・ラオニッチの世代を「ロストジェネレーション」と呼ぶ意地の悪い見方があるが、この大会に限っては、まさに20代が失われた世代となってしまった。(秋山英宏)

※写真は10代のカナダ選手(左から)シャポバロフ(Photo by Julian Finney/Getty Images)とオジェ アリアシム(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)