元テニスプレーヤーから世界的に有名なスポーツ心理学者に転身したジム・レーヤー氏は、スポーツの質の向上に欠かせない実践的な要素を数々の著書にまとめている。ジョンソン・エンド・ジョンソンのヒューマ…

元テニスプレーヤーから世界的に有名なスポーツ心理学者に転身したジム・レーヤー氏は、スポーツの質の向上に欠かせない実践的な要素を数々の著書にまとめている。ジョンソン・エンド・ジョンソンのヒューマン・パフォーマンス研究所を共同設立した実績を持つ彼が紹介するポイントからいくつかを見てみよう。

♦︎16秒回復:ポイント間に実践できる4つのステップ

優れたプレーヤーたちに共通する習性を発見したレーヤー氏は、そのポイントを基に「16秒回復(16 Seconds Cure)」という独自のメソッドを開発した。ポイント間の限られた時間で使える実践的なメンタル回復法だ。

その要点を紹介したドイツのテニススクール「Rope Tennis Education」の動画によると、初めの3〜5秒間は、ポジティブ・フィジカル・レスポンスという行動に充てる。ミスで失点したなら、コート外へ振り向き、ラケットを反対の手に持ち替え、そして威厳ある姿勢でベースラインの外まで退出しよう。自信のなさが相手に伝われば、さらに立場が追い込まれるためだ。逆にポイントを得た場合は、「よし!」などと叫んで一層自信をつけるのも良い。敵が良いショットを打ったなら、素直に拍手などで認めることも大切だ。

次のステップはリラクゼーション・レスポンスと呼ばれるもので、6〜15秒が必要となる。ガットを調整したり汗をタオルで拭ったりしながら、落ち着きを取り戻そう。そして3つ目のステップ「プリパレーション・レスポンス」で、3〜5秒を使って簡単に戦略を立て直す。

最後の仕上げは、5〜8秒を使ったオートマチック・リチュアル・レスポンスだ。サーブまたはリターンに向けて精神を整えるため、決まった回数だけボールを地面にバウンドさせたり、対戦相手をまっすぐ見据えたりするなど、自分なりの決まったルーティーンを実践する。ここまで来ればプレーヤーは「自動操縦モード」に入り、迷いなく試合を続行できるだろう。

♦︎タフネス・トレーニング:日頃の練習で活かせる5つのメンタル管理法

ストレスと上手く付き合うことは、練習の段階でも大切だ。レーヤー氏は、トレーニング段階での秘訣を著書『Toughness Training for Life』にまとめている。その内容はメンタル指導者のブライアン・ジョンソン氏の動画でも詳しく紹介している。動画の内容をまとめて紹介しよう。

・適切なレベルのストレスを受ける

ジョンソン氏は1点目のコツとして、適切なレベルのストレスを受けることを勧めている。現状維持レベルよりは強く、かつ過度のストレスとなる未満のトレーニング強度が最適だ。これは「順応可能なストレス」と呼ばれ、能力を高める近道となる。

・高いストレスとポイント間の回復を交互に繰り返す

続く2点目のコツは、先ほどあげた「16秒回復」と関連する。高いストレスとポイント間の回復を交互に繰り返すように、意識的に緊張と緩和を反復することで、能力を効果的に伸ばすという取り組みだ。

・ウルトラディアンリズムを活用する

3点目は、ウルトラディアンリズムを活用すること。ウルトラディアンリズムとは、短い周期を刻む体内時計のことだ。このリズムに従い、90〜120分間の集中と15〜20分間の休憩を繰り返すことで、過度の疲労や気分の落ち込みなどを避けることができる。

・基礎的な環境を整える

そして4点目は、基礎的な環境を整えること。疲労や空腹などが集中を邪魔する状態では、より高次元の進展は望むことができない。

・自身の感情と向き合う

関連して5点目は、自身の感情と向き合うこと。疲労感などで十分に集中できないときは一旦トレーニングを中断し、その原因を探り解消することがかえって充実したトレーニングに結びつくようだ。

以上、16秒という短いサイクルのメソッドと、日頃の練習に活かせる長期的な秘訣の2タイプの取り組みを紹介した。心理学者がプロ選手を観察して生み出したというメンタル管理法を参考に、同じトレーニング時間でより高い効果を手に入れよう。

また、元々これらメンタル管理法を編み出した背景としてトップ選手達の試合中の行動観察が原点になっている事から、現在のトップ選手達がどの様なメンタルコントロールを実践しているかをチェックするのも、よりテニスを面白くする見方のひとつといえるであろう。(テニスデイリー編集部)

※写真はテニスのイメージ(ESBuka / Shutterstock.com)