2016年3月、ルートインBCリーグ(BCリーグ)はアシックスジャパン株式会社(アシックス)との複数年でのオフィシャルパートナーシップ合意を発表した。「用具提供だけではなく、マーケティングパートナーとして相互のブランド価値向上、共同でのライ…
2016年3月、ルートインBCリーグ(BCリーグ)はアシックスジャパン株式会社(アシックス)との複数年でのオフィシャルパートナーシップ合意を発表した。「用具提供だけではなく、マーケティングパートナーとして相互のブランド価値向上、共同でのライセンスビジネスを拡大しさらなる成長を図っていくもの」というパートナーシップはどのようなものなのか、アシックスジャパン株式会社ベースボール事業部マーケティング部部長の和田竜路氏と、BCリーグを運営する株式会社ジャパン・ベースボール・マーケティングのリーグ事業部長梶原駿氏に話を聞いた。
お二人のキャリア、現在のお仕事について教えてください。
和田:学生時代ずっと野球をしていました。卒業後、スポーツ用品メーカーに就職してシューズの生産開発の仕事に携わった後、野球スパイクの企画担当に。その後別のメーカーへの転職を経て、2015年にアシックスに入社しました。2016年1月からベースボールのプロモーションを管轄し、3月からプロモーションとマーケティングを管轄しています。
梶原:大学まで野球に取り組み、スポーツビジネスを専攻していました。国内大手IT企業に就職後、2015年にジャパン・ベースボール・マーケティングに入社し、リーグ全体の価値向上に取り組んでいます。スポンサーセールス、マーケティング、イベント運営、広報など幅広く担当しています。
アシックスさんのベースボール分野の戦略、取り組みについて教えてください。
和田: 2013年に「ASICS BASEBALL」を立上げ、その際のコンセプトが「最新・最速」です。ランニングやサッカーの用品は技術革新が進んでおり、例えばスパイクには革よりも優れた素材が使われていたりしますが、野球は昔ながらの用品がまだまだ多い。ライバル社との差別化のためにも、科学に裏打ちされた道具を作ることを打ち出しました。
「最新・最速」はギアであり、考え方であり、道具の選び方であり、プロモーションやマーケティングである、というのが今のアシックスの考え方です。以前であれば消費者はスポーツ用品店に行って商品の情報を得ていましたが、今は携帯、スマホで情報を得てから店舗へ行きます。モノ作りだけでなく、こういう時代に合った情報の出し方なども含めて「最新・最速」を出していきたいと考えています。
今回の契約の経緯を教えてください。
梶原: 2016年にBCリーグが10周年を迎えるにあたり、観客動員の底上げや今後の戦略を検討する中で、これまでのスポンサー様との関係を見つめ直しました。これまでは野球用品メーカーさんが単にスポンサー、サプライヤーとしての存在だったので、ここを大きく変えようと考え、様々なメーカーさんと話をしました。
その中でこだわったのは、スポンサーではなくパートナーシップであることです。われわれBCリーグ単体では、リソースなどの面でこの先の道のりは厳しい。BCリーグをどう変えていくか、野球界をどう変えていくかということを、ステークホルダーの皆さんと一緒に考えるということを念頭にしました。その中でいちばん共感いただいたのがアシックスさんだったというのが、契約に向けた出発点でした。
BCリーグに対して魅力に感じていただいたことが3点あると考えています。まずは8球団、そして今後球団数が増える見込み(6月末、2017年シーズンより10球団化が正式決定)であるという、リーグとしての市場拡大が見込める点。2つ目は地域性。他社の牙城である北信越地域中心において知名度のあるBCリーグというコンテンツを使ってマーケティングをしていただけると考えました。3つ目は、株主、スポンサーといったステークホルダーや、少年野球教室など、BCリーグに関連するマーケットです。
和田:BCリーグさんとのパートナーシップの話を聞いた時、これはいい取り組みだと思いました。まずは、スピードが速い。それから、8球団、10年という規模で継続している点。そして、多くのスポンサーが協賛しておりビジネスの発展可能性があると言う点。われわれも企業なので、利益追求も取り組みの際には必要な条件です。
あとは、巨人の三軍と試合をしたり、選手の行き来があったりと、プロに対してもある程度のポジションを取っている点はすごく魅力でした。BCリーグは、独立リーグの中でも一番手であると考えていましたから。
BCリーグさんとの取り組みは、野球界にどう新しい風を吹かせるか、これまでとは違った形の取り組み方やアウトプットの出し方という点でビジネススキームの1つの新しい形だと考えています。スポンサーとコンテンツホルダーというのは、上下関係ではなく、永続的にビジネスを続けていくパートナーと捉えています。今回BCリーグさんの提案はその点に共感できたので合意することができました。
具体的なアクティベーションの内容を教えてください。
梶原:提案に行った時点で、野球をしていた僕から見ても、アシックスってスパイクしかイメージがないと思っていました。用品の認知を上げるために、地域のシンボルでありローカルでの露出もあるBCリーグというコンテンツをフックに、地元のヒーローである選手が使っている用品という認知、またそれを体験してもらえるイベントを行いたいと考え、第1弾として7月30日から「アシックスデー」を開催します。
「ASICS DAY〜夏休み親子でグラブ作り体験〜」のお知らせ
和田:アシックスデーでは、「ベースボールラボ」といって、研究所が使っている機器をコンパクトにしたものをスタジアムに持ち込み、参加者の数値を測定します。スイングのスピードやバットがボールに当たる角度を知れば、バットの選び方が変わります。子どもは見た目で用品を選びがちですが、合わないバットやスパイクは野球を下手にするし、怪我をします。科学的知見をもって用品を選ぶという、「最新・最速」を伝える取り組みです。
梶原:また、ステークホルダーを巻き込んだBtoBのアクティベーションをどう行っていくか、ということも検討しています。
和田:今後BtoBというのは大きなキーになると考えています。BtoBで商談することにより市場及びユーザーの嗜好変化に瞬時に対応し成約率及び顧客満足を飛躍的に高めたいので、BCリーグさんにハブになっていただき、ダイレクトマーケティングの仕組みを考えたいと思います。
パートナーなので「最新・最速」を伝えていただかないといけない。逆に我々はBCリーグの理念を伝えないといけない。そのためにどういうアクティベーションをしていくかは双方の課題です。お互いに課題を持っていないと、関係性は永続しません。
梶原:スポンサー企業に対しても、ただロゴや看板が出ているだけではなくBCリーグを支援することが社員の満足につながる提案したいと考えています。例えばその企業だけの応援ウェアを作成するなど、できることは色々あると思います。
今後についてはどうお考えですか。
和田: 2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック、パラリンピックで日本は大きく変わります。シドニーとアテネのオリンピックも体験した事があるのですが、街がすごい盛り上がりになっています。開催地や合宿候補地など、日本各地がスポーツに関わることになった時、ファシリティのある地域には大きな優位性があると思います。ファシリティ、スキーム、人材が、将来に向けた鍵になります。
人材の面では、BCリーグには野球への情熱を持ったまま退団する選手もいます。アシックスでベースボールのスペシャリストを養成して、ベースボールラボを運営する人材として活躍してもらうことなど、野球を職業に出来る仕組みが発展には必要と考えています。
野球はランニングのように、社会人になって始める人はあまりいないと思います。野球という市場が縮小傾向の中で、指導者の人材不足は大きな課題となっています。サッカーにはライセンス制がありますが、野球にはありません。人材を育てる仕組みを作り、選手にとってのキャリアも創出する。2020年にオリンピック、パラリンピックで盛り上がった後、その盛り上がりをいかに継続していくかは、BCリーグさんと一緒に考えていく大きなビジョンの1つです。
梶原:こうしたビジョンや野球界の課題を踏まえて、野球に対するアプローチの視点を変えましょう、ということを体現した1つが、「アシックスデー」です。
「アシックスデー」では親子でのグラブ作り体験もできます。まだ野球を始めていない子との接点であり、BCリーグの「地域と地域の子どもたちのために」という理念を表現する活動です。こういうことを草の根でやっていく、その中でアシックス製品を体験してもらうことで、この地域ではやっぱりアシックスだよね、というシナリオが描けたらと思います。
和田:見たことのないラボで「最新・最速」を確認していただくのも、同じです。理念を確認しながら活動をやっていく、ということですね。
効果測定はどのように行われるのでしょうか。
和田:現時点で数値やKPIは立てにくいのですが、初年度は仕掛ける回数だと考えています。アシックスの仕掛け、BCリーグさんの仕掛け、それからBtoB。この3つの仕掛けが全くなかったら、なんで契約したの?となりますから。
梶原:3年契約なので、活動をする中で新たな指標がきっと出てきます。またアクティベーションの中で満足度調査、ブランドイメージ調査は行いたいと考えています。
3年後にどういうパートナーシップを実現していたいと考えますか。
梶原:今後3年あるいは5年で、野球界における独立リーグの立ち位置が大きく変わると考えています。その中で、この3年に関しては、アシックスさんとの関係によって我々の財政基盤強化や地方から野球人気の高まりを実現したい。その上で、先ほど和田さんのお話にもありましたが地方におけるプロ野球独立リーグの存在価値やビジョンを一緒に考えたいです。
和田:BCリーグさんとの取り組みのゴールは2つあると考えています。
1つは、コンテンツマーケティングのモデルとなること。アシックスと組むとすごくいいんだという実例を示したいと思っています。
それから、狙いたいのは野球のグローバル化です。中国にも韓国にも台湾にもプロ野球があるので、まずアジアを拠点に野球の発展を組み立て、リーグをしっかり作り、これらの国、コミュニティを作る。3年後にはその土台ができていることを目指しています。野球発展の範囲を広げることを、BCリーグと一緒にやっていきたい。そのためにも、コンテンツとして成功させてパッケージにする、収益にこだわって成果を出す、ということに、スピード感を持って取り組みたいです。
文:畔柳 理恵