4月2日から1週間にわたって行なわれた競泳の日本選手権が閉幕した。 7月の韓国 光州世界選手権の選考会も兼ねるこの大会、日本水泳連盟が定める派遣標準記録を突破し、個人種目において代表内定者は男子7名、女子3名だった。男子自由形50m準決勝…
4月2日から1週間にわたって行なわれた競泳の日本選手権が閉幕した。
7月の韓国 光州世界選手権の選考会も兼ねるこの大会、日本水泳連盟が定める派遣標準記録を突破し、個人種目において代表内定者は男子7名、女子3名だった。
男子自由形50m準決勝で日本新のタイムを出した塩浦慎理
リオ五輪金メダリストの萩野公介、アジア大会6冠の池江璃花子の欠場があったとは言え、派遣標準記録突破者が少なかったのは寂しいところだ。
選手の時はあまり感じなかったし、自分のレースに集中するために感じないようにしていたのかも知れないが、取材する側として大会全体を見させてもらうと、「流れ」ってあるんだなと痛感させられた。
自己記録では派遣標準記録を上回る選手が、決勝で突破できない。1位の選手が派遣標準記録を突破しても、2位の選手がもう少しのところで突破できない。そんなレースが続くなかで、重い空気が会場に漂ってきた。
大会終了後、平井伯昌ヘッドコーチは、「近年の大会では池江璃花子選手が日本記録で泳ぎ、その勢いが周りの選手にも伝播し、全体の勢いに繋がっていたのだと感じた」と話した。
そんななかで今大会勢いをつけてくれたレースとして渡辺一平が自身の世界記録へ挑戦したレースがあった。
大会6日目男子200m平泳ぎ決勝。日曜日で満員の会場は、大会前から世界記録更新が目標と公言していた渡辺一平が出場する最終種目に向けてボルテージは高まっていた。
最初の50mは世界記録とほぼ同じタイムで入り、100mターン時には世界記録を0秒54上回った。150mでも0秒59上回っている。このままいけば記録更新、しかし最後の50mは疲れが見えて従来の世界記録時のラップタイムより0秒8遅い記録となり、2分07秒02でゴール。世界記録には0秒35及ばなかった。
しかし、150mまではみごとな泳ぎだった。
レース前、渡辺を担当する奥野景介コーチに話を聞くことができた。
奥野コーチはリオ五輪以降、トレーニングは継続して来たが、東京五輪までの4年間を考えた時に、最初の2年、つまり2017年・2018年の2シーズンは、「リオまでとは違うやり方での強化」をするように心掛けて来たという。それは新たな方法にチャレンジすることでもあるが、一方でリオ五輪で見えた「結果の出る方法」を温存することでもある。
4年という時間を考えた時に、同じ練習を4年続けることは選手のメンタル的にも負担になる。例えば50m×20回や100m×20回オールハードなど、古典的でトレーニング負荷も高く、精神的な負担も大きいトレーニングなど、やった方がいいが、やること自体が大変なトレーニングは避けて来たという。
そんな新たな可能性を探る2年間をすごし、今シーズンは前述したような泥臭い練習も再び取り入れ強化して来たそうだ。いよいよ五輪前年となり、強化が本格化してきたということだ。
渡辺も150mまで記録を上回れたことによって、「ラスト50mの強化」という課題が明確になった。夏までの時間でその課題を克服する時間は十分にあることだろう。本気モードに入ってきた渡辺の泳ぎから今後も目が離せない。
もう一つ会場を盛り上げたのが、男子50m自由形の塩浦慎理だ。
準決勝で従来の記録を0秒20上回る、21秒67で日本新記録更新。翌日の決勝は記録更新こそならなかったが、21秒73で泳ぎ「これくらいのタイムならいつでも出せると実感できた」と1段階レベルが上がったことを本人が実感し、周りにも示した。
塩浦は昨シーズン終了後、喉の病気で約3ヶ月入院し手術もした。
しかし、3ヶ月の入院生活が自身の水泳の取り組みを見直すきっかけになったという。
入院生活で過去最高で98kgあった体重は86kgまで落ちた。
どうせ体重が落ちたのならと、これまでパワーに頼っていた泳ぎを見直し、コンパクトな身体づくりをしてきたという。
以前はトレーニングの比率が水中練習3:ウエイトトレーニング7だったのが、水中練習7:ウエイトトレーニング3に変更した。さらに親交のある柔道の羽賀龍之介に減量方法のアドバイスをもらうなどして食事の管理も徹底し、主に脂質の量をコントロールして、コンパクトな体づくりを進めてきた。
その結果、今大会時の体重は89kg。以前の体より約10kg軽いニュー塩浦慎理が完成した。
実際の50mのレースでは、今まではなかった30m過ぎからの伸び、動きのキレを見せた。以前と比べて筋量がどの程度変化したかは分からないが、仮に少し筋量が減っていたとしても、約10kg軽い身体は以前よりも少ないパワーで泳げるだろう。
コンパクトな身体の効果はレースのパフォーマンスだけでなく、レース後のダメージも少なくなったという。
オリンピックや世界選手権では大会期間が1週間強ある中で、自由形短距離選手は個人種目に加え、リレー種目もあるので沢山のレースを泳がなければならない。その1レース1レースがダメージとして体に蓄積されて行くわけだが、1レースあたりのダメージが減れば当然身体の回復も速くなるし、結果的に大会を通してのパフォーマンスが上がることになる。
塩浦はレース後、「今は夏に向けてのトレーニングが楽しみと思えている。こんな気持ちになるのは初めてだ」と語ってくれた。
入院したことで生まれたニュー塩浦だか、入院したため日本選手権までの準備期間が短くなったのも事実だ。7月の世界選手権までの期間で、今回の50mの勢いを100mまで伸ばして、個人種目そしてリレー種目でも日本代表チームに貢献してほしい。
今大会で代表権を獲得した選手たちは、すぐに代表合宿に入り、選ばれなかった選手は、追加選考の大会であるジャパンオープン(東京辰巳国際水泳場、5月30日〜6月2日)に向けてもう一度強化して行くことになる。
平井ヘッドコーチはジャパンオープンに向けて、「今回内定した代表チームも含めて、他の選手の頑張りを自分の力に変え、応援できるような雰囲気をつくっていきたい」と語ってくれた。
今回は自分のベストパフォーマンスに届かない選手が多かったが、ジャパンオープンでは一人でも多くの選手が自身の最高のパフォーマンスをして、世界選手権に出場できるようになることを願っている。