競泳の日本選手権3日目までが終了した。 ここまで決勝種目が13種目行なわれ、個人種目で国際大会への派遣標準記録を突破したのは3人と苦戦が続いている。あまり言葉にしたくないが、決して流れがいいとは言えない。 選手は頑張っている。ただ、オ…
競泳の日本選手権3日目までが終了した。
ここまで決勝種目が13種目行なわれ、個人種目で国際大会への派遣標準記録を突破したのは3人と苦戦が続いている。あまり言葉にしたくないが、決して流れがいいとは言えない。
選手は頑張っている。ただ、オリンピック前年の日本選手権としては、正直寂しい結果である。
女子400m自由形で優勝した難波実夢(中央)
初日は決勝が3種目行なわれたが、いずれの種目も派遣標準記録に届かず、喜びなき優勝インタビューとなった。
しかし、男女400m自由形ではともに若手が台頭してきたのは明るいニュースだ。
男子400m自由形で初優勝した吉田啓祐は今大会初めて日本代表を狙って挑む大会となる。
400m自由形決勝では緊張もあるなか、落ち着いたレース展開を見せ強烈なラストスパートでリオ五輪銅メダリストの江原騎士を逆転した。
レース前、指導する竹村知洋コーチは最初の100mを53秒、200m通過を1分50秒〜1分51秒でターンするという指示を出していたというが、実際にはそれよりも100mで1秒、200mで約2秒遅れる展開となった。
竹村コーチは、「記録を狙うというよりは、江原について行ってラストでかわす、という勝ちに行くレースとなってしまった」と話してくれた。
実際レース後の吉田も「騎士さんについて行って300の時点で余裕があったので300~350mで詰めて、ラストで交そうと思った」と語った。
ラストの50mのラップタイム26秒99は素晴らしいが、そこまでに少し余力を残しすぎだと私も感じた。
それでも、18歳が落ち着いたレース展開で日本選手権を勝ち切ったことには価値がある。
これからは日本選手権の決勝、そして世界の舞台で、自分でレースを組み立てられるようにならなければならない。本人の言葉にもあるように、今年なんとしても日本代表に入ることが重要だ。3日目に行われた200m自由形決勝でも派遣標準記録に及ばなかったが、残りの800m決勝に懸けてほしい。
女子400m自由形で初優勝した難波実夢選手も今後が楽しみな選手だ。
168cmと大柄で、泳ぎのスケール感も大きく、ゆったりとしたテンポで泳ぐのが特徴だが、それを支えるのはキックを打ち続けられる下半身の強さだ。女子1500m自由形で優勝した大学一年生の小堀倭加ら同世代の選手と競り合いながら、今後自由形中長距離の中心選手として成長していってほしい。
2日目女子200m個人メドレーでは大橋悠依が2分09秒27で派遣標準記録を突破し3連覇、2着に入った大本里佳も派遣標準記録を突破し代表入りを決めた。
レース前から日本記録の更新を目標としていた大橋悠依はレース後涙する場面も見られた。レース後大橋は、この日本選手権に向けて、以前ほどワクワク感が出てこないと語っていた。
自身のレベルが上がり、「代表入りはほぼ確実」という状況の中で、順調にトレーニングを消化してきたという大橋だが、モチベーションの面では国内に自身を脅かす存在がいないという意味で緊迫感を保つのは難しかったのかもしれない。
今、私もメディア側に立って選手には常に好記録、好成績を期待してしまうが、選手時代、私自身にも、「代表に入るのは問題ない」という時期があって、その時の日本選手権は通過点としか思えなかったし、メディアの方々に「日本記録更新の可能性は」などと聞かれ、口では頑張りますと答えていたが、内心「こっちは夏の国際大会に向けて調整しているんだ」と思っていた記憶がある。
また、大橋は平泳ぎに関して、上半身にパワーがついて、テンポを上げれるようになったものの、泳ぎの引き出しの幅が増えた分、レースに適切な泳ぎが分からなくなった、と話していた。選手は何かが成長、進化する度に適切なテンポ、ストローク、レース展開を見つけていかなければならないのだが、それはレースを重ねていくことでしか解消されない。
これは大橋がバイクトレーニングなども取り入れ、強化してきた下半身にも同じことが言える。今後大橋がレースを重ねていくごとに、今年の自分の身体の最適な泳ぎ、レースプランが見えてくることだろう。今大会残りの種目200mバタフライと400m個人メドレーもその指標となる。
今シーズン好調を維持してきた大本里佳は笑顔の代表決定、そして自己ベスト更新のレースだった。持ち前のスプリント力と前半から攻める積極的なレースに磨きがかかってきており、今シーズン100m自由形でも好タイムを出している。100m自由形でも4×100mフリーリレーの代表権を狙う。
3日目男子200m自由形決勝では、昨シーズン一気に自由形の中心選手になった松元克央が1分45秒63の自己ベスト、日本歴代2位の好タイムで優勝、派遣標準記録を突破した。
昨シーズン大活躍した松元だが、今シーズンは肩を痛め本格的なトレーニングを再開できたのは12月末だった。リハビリ中は本当に治るのか心配になっていたというが、リハビリ担当者の言葉を信じて、地道なリハビリを乗り越えた。リハビリを通して泳ぎのフォームも肩に負担のかからないものに改良を行なった。
元々ストロークに左右差があった松元だが、リハビリを通して、痛めた右肩に大きく負担のかかる泳ぎになっていたことが分かったという。右手のキャッチを少しゆっくりにする代わりに、左手をこれまでよりも強くかくようにすることで、右肩への負担を減らしたそうだ。結果的に泳ぎの左右差がなくなり、以前よりもテンポが一定の泳ぎになった。
また、肩が痛い時期は下半身を中心にトレーニングを行なったことで、下半身の強化にも繋がり、足をレース後半まで打ち続けられるようになったこともパフォーマンスの向上と、肩の負担軽減に繋がったという。
準決勝までの泳ぎは周りを見すぎてペースが上がらなかったが、準決勝後に鈴木陽二コーチに「お前はお前なんだから思い切って行け」と言われ、決勝では自分のペースで思い切りのいい泳ぎを見せ150mまでは日本記録を上回るハイペースで飛ばし、好記録、自己ベストにつなげた。
今後、松元には萩野公介の持つ日本記録の更新、さらに1分44秒台に突入できれば、競争の激しいこの種目で世界の舞台で個人種目でのメダル獲得も見えてくる。
競泳の日本選手権は残り4日間。決勝種目はあと21レース。一人でも多くの選手が派遣標準記録を突破してほしい。そして、少し重たい会場の雰囲気を一気に変える、そんなレースにも期待したい。