男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にして…

男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。

今回取り上げるのは、勝負どころを知る伏兵、スタン・ワウリンカ(スイス)。

スイスを代表するロジャー・フェデラー(スイス)の後輩である彼は、34歳になったばかり(1985年3月28日生まれ)。2017年夏に左膝を2度手術し、そこからの再起を目指しているところだ。

BIG3はそろって生涯グランドスラムを達成しているが、彼らに並ぶ可能性が最も高いのがワウリンカであることはご存知だろうか? 2014年に「全豪オープン」、2015年に「全仏オープン」、2016年に「全米オープン」で優勝し、残るは「ウィンブルドン」だけ。しかも、いずれの決勝でも第1シードであり苦手としているラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)を下しての堂々の戴冠だ。2017年の「全仏オープン」決勝でナダルに敗れたものの、それまではグランドスラムのファイナルで3戦3勝という効率の良さだった。

31歳で3度目のグランドスラム優勝を成し遂げた後、英エコノミスト紙に「遅咲きの王者」と呼ばれたワウリンカがテニスを始めたのは8歳の時。当初は3歳上の兄(こちらものちにプロ入り)に教わり趣味としてプレーしていたが、15歳からテニスに専念するようになり、2002年に17歳でプロ入り。2006年の「ATP250 ウマグ」で初タイトルを獲得するも、プロになって最初の11年間で通算優勝は4回にとどまっていた。しかし、元世界2位のマグヌス・ノーマン(スウェーデン)の指導を受けて技術、精神面で成長し、2014年からの3年間で3つのグランドスラムを含む11回の優勝を飾っている。

バックハンドの名手として知られ、重く正確な片手バックハンドでリターンエースを決めることもできる。キャリア初期は弱点と見なされたフォアハンドやネットプレーにも磨きをかけて多彩なショットを繰り出す。グランドスラム決勝で証明してきた勝負強さも特長の一つだ。

前述の手術により2017年後半からの約半年はまったく試合に出られず、キャリアハイで3位だった世界ランキングは一時263位までダウン。しかし2018年の「全豪オープン」でコートに戻ってくると、「ランキングやタイトルに対する目標は特に設定していない。僕が目指すのは、一日一日正しいことをやること。そうすれば結果はついてくるからね」という言葉通り、トレーニングや試合を通して徐々に復調し、37位まで持ち直してきた(2019年3月18日時点)。2019年2月の「ATP500 ロッテルダム」では錦織圭(日本/日清食品)を破り、復帰後初の決勝進出。結果は準優勝ながら、本人は確かな手ごたえを感じている。「術後初の決勝進出にすごくホッとしてるよ。トップクラスを相手に今もまだレベルの高いプレーができると示せたことは、僕にとって大きな意味を持つ。こういう手術の後は焦らず、少しずつ試合に勝って自信を取り戻していくことが必要だ。僕は心身両面でかつてのレベルに戻れたと思う」

長年の友人であり、2008年の北京オリンピックと2014年の「デビスカップ」で力を合わせて優勝を手にしたフェデラーも、ワウリンカの復調は近いと感じている。2019年3月の「ATP1000 インディアンウェルズ」で25回目の対戦を果たした後、「本人もわかっていると思うけど、彼がまた飛躍するのは時間の問題だよ」と述べていた。

ワウリンカは、ノーベル賞受賞作家サミュエル・ベケットの一節を左腕に入れている。そのタトゥーの内容は「どんなに失敗してもいいから、挑み続けろ。次は前よりうまく失敗すればいい(Ever tried. Ever failed. No matter. Try Again. Fail again. Fail better.)」というメッセージだ。「これは僕の人生に対する見方、特にテニスへの考え方と言える。なぜなら、どんなにいいプレーができても、トップ10に位置していても、負ける時はある。それを受け入れて、次に生かすんだ」

「この先も数年にわたり選手生活を続けるため」、32歳で膝の手術という大きな決断に踏み切ったワウリンカ。自らを追い込むのが好きで「上達するには練習あるのみ」と語る彼は、よりうまく失敗するべくこれからも挑み続け、ファンを沸かせてくれるのだろう。(テニスデイリー編集部)

※写真は2019年「ATP500 ロッテルダム」でのワウリンカ(Photo by Dean Mouhtaropoulos/Getty Images)