ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。し…

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が10年以上にわたりトップクラスを誇る一方、台頭する若手の少なさが憂慮されていた男子テニス界。しかし、その状況はようやく変わりつつある。着実に成長している若手選手を、その生い立ちや人となりも合わせて紹介していこう。

今回取り上げるのは、ここ半年ほどで若手の筆頭候補に躍り出たステファノス・チチパス(ギリシャ)。

1998年生まれで2016年にプロ入りしたチチパスは、今から約1年前の2018年2月の時点では世界82位と期待の若手の一人に過ぎなかった。だが、同年8月の「ATP1000 トロント」で「ウィンブルドン」を制した直後のジョコビッチらを撃破して準優勝すると、10月の「ATP250 ストックホルム」でツアー初優勝を飾り、翌月の「Next Gen ATPファイナルズ」では5戦全勝で戴冠。2019年に入るとその勢いはさらに加速し、「全豪オープン」ではフェデラーらを破ってベスト4進出、2月の「ATP250 マルセイユ」で2度目の優勝を成し遂げ、3月頭には自身初の世界ランキングトップ10入り(10位)も果たした。

ロシア人の母親が元テニス選手、ギリシャ人の父親はテニスコーチで、2歳下の弟ペトロスもテニス選手というテニス一家で育ったチチパス。急成長の要因について本人は、「2018年から大きく試合の仕方やパフォーマンスを改善させた」と説明する。両親から教わるほか、セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)のコーチとして知られるパトリック・ムラトグルーのテニスアカデミーでも学び、技術やフィジカルに磨きをかけてきた。193cmと長身の割に動きが機敏で、粘り強く球を拾い、コースを突けるオールラウンドプレーヤーで、ジョコビッチとのロングラリーでウィナーを決めることもできる。元世界1位のレイトン・ヒューイット(オーストラリア)を彷彿とさせると言えるかもしれない。

そんなチチパスに先輩たちも賛辞を惜しまない。「全豪オープン」で12回のブレークチャンスをすべてしのがれて敗れたフェデラーは、「いい仕事をして(ブレークチャンスを)うまく防いだ」と20歳を称賛。ナダルも「(チチパスの「全豪オープン」ベスト4入りは)驚きじゃない。トップ10に入ってくると、僕はシーズン前に予想していたからね」と語る。選手により選出される2018年度の「最も上達した選手」も受賞したチチパスはファンにも認められ、2019年の「ATPファイナルズ」に出場する選手予想で、ジョコビッチやフェデラー、錦織圭(日本/日清食品)らに次いで6番目に多い票を獲得した。

「負けるのは大嫌い。負けると、この世の終わりみたいな気分になる」と、トップアスリートに欠かせない資質と言える負けず嫌いな性格も持ち合わせているチチパス。子ども時代は試合に負けると車の陰に隠れて1時間以上出てこないこともあったそうだが、当時すでにトップの座にいたフェデラーやナダルを見ながら育ってきたため、彼らのように振る舞う大切さも理解している。プロとなった今はコート上で紳士的な態度を崩さず、ファンへのサービスも忘れない。「様々な経験を通して、試合だけでなく、練習への臨み方やコートの上での振る舞い方、自分をより追い込む方法などについて学んだ」と本人も成長を口にする。

かつて活躍したギリシャ系の選手としては、グランドスラム優勝14回を誇るピート・サンプラス(アメリカ)や元世界8位のマーク・フィリポーシス(オーストラリア)がいたものの、ギリシャ人としてトップ100の壁を破り、ツアー優勝を果たしたのはチチパスが初。同国人としての記録を次々に更新する20歳は、「非常に光栄。国を率いることにプレッシャーを感じることは決してない」と語り、「僕の血管には(ナショナルカラーである)青い血が流れている」とギリシャ人であることに誇りを持っている。英語だけでなく親戚のいる日本の言葉でもメッセージを発信するなどしていてもギリシャへの愛は変わらず、SNSやYouTubeチャンネルを通じて故郷の魅力を積極的に紹介。2018年に約100人の犠牲者を出す山火事が発生した際には支援を呼びかけた。

2019年の3つの目標、世界トップ10入り、「ATPファイナルズ」出場、グランドスラムでの準決勝進出のうち2つを早くも達成。20歳168日でのグランドスラム準決勝進出は、20歳の選手としては2007年「全米オープン」のジョコビッチ(20歳110日)以来の快挙だった。「王冠」という意味の名前(ステファノス)を持ち、ファンから「偉大なるステファノス」と呼ばれる若者は、そう遠くない未来、その呼び名にふさわしい活躍を見せてくれるに違いない。(テニスデイリー編集部)

※写真は2018年「Next Gen ATP ファイナルズ」で優勝したチチパス(Photo by Julian Finney/Getty Images)