専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第197回 当コラムでときどきイジッている名門倶楽部ですが、今回はしっかり正面から見据えて、その価値を探りたいと思います。 まず、何をもって「名門」と言うかですが、倶楽部の歴史…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第197回

 当コラムでときどきイジッている名門倶楽部ですが、今回はしっかり正面から見据えて、その価値を探りたいと思います。

 まず、何をもって「名門」と言うかですが、倶楽部の歴史、メンバーの質、コース設計、会員権価格、ビッグトーナメントの開催など、さまざまな要因が複雑に絡み合って「名門倶楽部」という呼称が形成されます。

 たとえばゴルフ場の歴史で言うと、東日本においては、戦前からある”関東七倶楽部(※)”が断トツのクオリティです。西日本では、関西の廣野ゴルフ倶楽部(兵庫県)がズバ抜けて素晴らしく、トータルで日本一じゃないかと思います。
※埼玉県の東京ゴルフ倶楽部、霞ヶ関カンツリー倶楽部、東京都の小金井カントリー倶楽部、千葉県の我孫子ゴルフ倶楽部、鷹之台カンツリー倶楽部、神奈川県の相模カンツリー倶楽部、程ヶ谷カントリー倶楽部。

 廣野GCは、設計者チャールズ・ヒュー・アリソンが世界有数のゴルフ場のエッセンスを集めて、師匠のハリー・コルトのために造った”集大成”的なコースと言われています。たとえば、世界一の称号を長らく維持しているパインバレーゴルフクラブ(アメリカ・ニュージャージー州)の14番ショートホールと、廣野GCの13番ショートホールは酷似しているとかね。

 そうやって、世界の有名コースのエッセンスが組み込まれた廣野GCは、世界ゴルフ場ランキングでも常に上位に名を連ね、ゴルフ博物館(JGAゴルフミュージアム)も併設してあります。廣野GCは日本のゴルフの歴史そのもの、というわけで、他のコースとは格が全然違ってきます。

 もちろん、メンバー同伴が必須ですし、一般的なアマチュアゴルファーはなかなかプレーできません。ミュージアムなら入場料200円で見学できますから、手始めにそちらから勉強がてらに行ってみますかね。

 で、そうした名門倶楽部の半数は、そもそも会員権相場表に価格が載っていません。最低でも入会金が1000万円以上して、さらに1000万円ぐらいの寄付も付いて、しかも一代限り、というのが多いです。

 つまり、メンバーが亡くなったら、会員権はコースに戻す、と。そういうことも含めて、会員が減ったら、コース側は補充の告知をするだけ。でも、ウエーティングの方々がすでに何十人もいるので、告知した段階ですぐに会員は埋まってしまいます。

 いやはや、子どもに資産として残せない高額の会員権を、しかも60歳ぐらいになって購入してメンバーとなり、いったい何回ラウンドするのよ。生涯100回ラウンドできたとしても、2000万円払ったなら1回20万円!?って、アホかもう!

 とはいえ、名門倶楽部のロッカールームで着替えていると、財政界の重鎮で、しかも経済番組などで拝見する方々を普通に見かけます。

「これは、○○自動車の○○さんじゃないですか」「そういうおたくは、○○銀行の○○さん」といった具合で、そこで大きな商談が決まったりすることも……。まさに日本の歴史は”名門倶楽部のロッカールームで作られる”と言っても過言ではありません。

 こうして、2000万円以上を払って入会しても、200億円ぐらいの取引が成立するので、十分に元が取れるんですね。

 そうなると、某名門カンツリー倶楽部の理事という名刺が、どこぞの東証1部上場企業の社長の名刺よりも、上の扱いを受けます。

 そんなですから、某名門倶楽部では、理事長選挙が日本の企業の覇権争いにまで発展した、という話が飛び込んでくることもあります。銀行・金融派が推す理事長候補と、IT・製造業派が推す理事長候補との一騎打ちが繰り広げられたとか。

 ここまでエスカレートすると、ゴルフをやっているんだか、派閥闘争をやっているんだか、わからなくなってきますね……。



名門倶楽部の世界って、どれだけすごいんでしょうか...

 とまあ、名門倶楽部の理事長選は雲の上の話なのでこれくらいにして、今度はコースの話に切り替えましょう。

 名門倶楽部は、コースにおいても有名設計家に依頼したものが多く、なかなか戦略的で、プロのトーナメントなどでもよく使われます。

 それにも増して、開場から数十年も経っていますから、樹木がうっそうと茂り、その佇まいが何ともたまりません。まるで太古の昔から生えていた原生林のなかにゴルフコースがあるような錯覚。それが、魅力的です。

 けど、実は人工的に植えた樹木がほとんどですけどね。たとえば、明治神宮の森や、軽井沢の別荘地の森などもそうです。

 ゴルフ場の多くは、細長い木から何十年という時を経て、重厚な森を形成し、俗に言う「名門の風格」を醸し出すのです。

 こうなってくると、名門倶楽部に入会できなくても、一度はゲストでいいからプレーしてみたくなるでしょ? 私もそう思っていくつかラウンドさせていただきましたが、感動した部分もありつつ、がっかりした部分もありました。そこら辺の話を最後にしていきたいと思います。

●暖炉が素晴らしい
 実際に使う機会は少ないのですが、名門倶楽部には立派な本物の暖炉があるところが多いです。その近くにあるチェアに座って、マイボトルのブランデーをグビッと飲みながら、鼻歌で『マイウェイ』を歌うなんて素敵じゃないですか。

 ちなみに、名門倶楽部は銀座の高級クラブのようにボトルをキープできます。そこで、レミーマルタン ルイ13世をキープ、なんてたまりません。

 酔ったら、車で帰れないじゃないか。そうおっしゃるあなた、心配はご無用です。みなさん、運転手付きのハイヤーに乗って来ていますから、お気遣いなく、ですよん。

●グリーンは日陰が増える
 あまりの名門コースでは、樹木が生えすぎて日陰が増えて、芝の育成が悪くなるという弊害が出ています。そこで、今の流れは開業当時の設計に戻す風潮で、バッサリ木を切って風通しをよくする――そっちのやり方に向かっています。

 そんななか、「名門」という名前に胡坐をかいているコースもチラホラ見受けられます。そのため、グリーン周りのラフでは芝付きが悪く、ベアグランドになっている箇所もあります。そういうのを見ると、がっかりですね……。

●ブラインドテスト
 テレビのバラエティー番組などで、1000円のワインと10万円のワインを使って、目隠しをして飲み比べるといった企画をやっているじゃないですか。

 それと同様のことをゴルフ場でやったら、どうなるか。たとえば、会員権価格2000万円の名門コースと、200万円ほどの中堅コースに目隠しをして連れていって、どっちが名門か? というクイズをやったら、正解率はかなり低くなりそうです。

 会員権価格200万円のコースだって、名匠・井上誠一設計の素晴らしいコースがありますから。私も正解できるかどうか、自信はないです。

 ゴルフコースってワインと似ていて、10倍の価格の差があるから10倍おいしいかっていうと、そうでもないですよね。1.2倍くらいはおいしいと思いますけど、そのほんのわずかの差に、10倍のお金を払うんですよ。だから、ゴルフは「道楽だ」と言いたいわけです。

 道楽から文化が生まれる考えは否定しません。そういう余裕のある方は、10万円の高級ワインを飲んで、会員権価格1000万円の名門コースで遊んでください。

 われわれ庶民は、安くて美味しい1000円のチリワインを飲んで、会員権価格100万円くらいで、ビジターも歓迎してくれるコースで遊ぶとしますかね。