3時間を超える激戦に終止符を打ち、日本生命レッドエルフをTリーグ初代女王に導いた早田ひなは、試合終了の瞬間に歓喜の涙を流した。Tリーグのプレーオフ・ファイナルで2勝を挙げた早田 3月17日、Tリーグのプレーオフ・ファイナルが両国国技館…

 3時間を超える激戦に終止符を打ち、日本生命レッドエルフをTリーグ初代女王に導いた早田ひなは、試合終了の瞬間に歓喜の涙を流した。



Tリーグのプレーオフ・ファイナルで2勝を挙げた早田

 3月17日、Tリーグのプレーオフ・ファイナルが両国国技館で開催され、女子はシーズン2位の日本生命と、同1位の木下アビエル神奈川の対戦になった。第1マッチのダブルスは、日本生命の中国人ペアが石川佳純、木原美悠ペアを破って木下を一歩リードする。しかし第2マッチではエースの平野美宇がフルマッチの末に杜凱琹(ドゥ ホイカン)に惜敗。その後も、お互い一歩も引かない展開で試合は進んでいく。

 第3マッチは、早田が袁雪嬌(エン シュエジャオ)を相手に、セットカウント2-2から最終ゲームで6度のマッチポイントをしのぎ、19-17で粘り勝ち。王手をかけられ後がなくなった木下だったが、エース石川が第4マッチで貫禄を見せつけて前田美優に完勝し、マッチカウント2-2でヴィクトリーマッチに突入した。

 1セットで勝負が決まる決戦の舞台に指名されたのは、早田と袁雪嬌。奇しくも、第3マッチと同じ顔合わせとなった。

「絶対に勝ち切ってみんなの笑顔が見たいと思っていた。相手の攻め方はわかっていたので、気持ちの勝負でした」

 その言葉どおり、早田は強気の試合運びで袁を上回る。得意のフォアハンドからクロスに打ち込み、勝負どころではロングサーブを効果的に使うなど得点を重ねていった。そして、自らのマッチポイントで袁のボールがネットにかかった瞬間、重責から解き放たれた早田はコート上で崩れ落ちた。

「先を考えずに、とにかく一本一本に集中していました。『ここへ来たら、こう返そう』という、次の1点しか考えていませんでした」

 試合後、早田は『一本を大切に』『一本の難しさ』という言葉を何度も繰り返していた。それは報道陣へ向けた言葉というより、自身への戒めだったのかもしれない。

 勝敗の明暗を分けた第3マッチ、早田の脳裏によぎったのは2週間前の試合の記憶だった。

 3月2日に行なわれたジャパントップ12(世界選手権の代表選考会)の準決勝。同世代の加藤美優との対戦は、マッチカウント3-3で最終ゲームにもつれる試合になった。先にマッチポイントを掴んだのは早田だったが、10-4からまさかの逆転負け。個人戦の出場権を逃した世界選手権にはダブルスのみでの参加となり、東京五輪の選手選考に関わるポイントが得られないことになった。

 日本生命の村上恭和総監督は、その後の早田の様子についてこう述べた。

「あの負け方は、生涯に一度あるかないかという逆転負け。世界選手権の出場がかかっていた選手にとってそのダメージは計り知れません。早田もショックを引きずっており、沈み込んでいた。ただ、その状態から見事に立て直し、(Tリーグのファイナルでは)チームを勝利に導いた。あの負けも含め、早田はこの1年で本当に大きく成長を遂げました」

 ファイナルは「本調子ではなかった」という早田だが、ジャパントップ12での反省が生きた。強打の一辺倒ではなく、ロングサービスやチキータを効果的に織り交ぜ、袁をリズムに乗らせなかった。早田はこう振り返る。

「今日は『この調子でどう戦うか』を意識していました。選考会では同じことをして負けた後悔があったので、『何か違うことをしよう』と」

 ファイナルで見事な対応力と修正力を見せた早田は、Tリーグがスタートしてからの半年間で大きく成長を遂げた。リーグ戦では連勝街道をひた走り、全日本選手権のシングルスでは、伊藤美誠には敗れたものの石川を破って準決勝に進出。伊藤と組んだダブルスでも2連覇を果たしている。さらに、国際大会で海外の強豪を次々と撃破するなど、パワー型の貴重なサウスポーとして存在感を増していった。

 木下の邱建新(チュウ ジェンシン)監督は、対戦相手として見てきた早田の成長をこう評価する。

「ウチの木原(美悠)も経験を積んで伸びたし、石川(佳純)も熟練さが増した。ただ、客観的にもっとも成長したのは早田でしょう。彼女は、Tリーグ開幕当初はそこまで目立つ存在ではなかったと思います。しかしその後、リーグで試合を重ねるごとに成長していった。結果的に、(2月の)ポルトガルオープンで中国の劉詩文(リュウ シブン)に勝つまでの選手になりましたからね」

 早田自身も、Tリーグでの経験が自身に変化をもたらしたと自覚している。

「去年からサーブとレシーブを重点的に強化してきたんですが、練習だけでは『どのタイミングで、どう使うか』が理解しきれませんでした。でも、Tリーグが開幕して試合数が増えたことで、徐々に感覚を掴むことができたんです。サーブ、レシーブを効果的に使えるようになったことで戦術の幅が広がり、成長できたのは間違いないと思います」

 終わってみれば、ファイナルでの2勝を含め、シーズンでシングルス13戦無敗。圧倒的なスタッツを残したが、早田は喜びに浸ることなく来年の大舞台を見据えている。

「Tリーグのシーズンは終わりましたが、私の試合は続いていきます。これからは東京五輪の代表争いが激しくなっていくので、気持ちを切り替えないといけない。Tリーグを戦う中で、日本で大勢のファンの前で試合ができるすばらしさや、『私は団体戦が好きなんだ』ということにも気づきました。そんな経験を次の舞台に繋げていきたいです」

 現在、世界ランキングで日本人10位の早田だが、来年1月に発表される東京五輪代表3人の中に入る可能性はある。世界ランキング上位の選手が選ばれる2枠は、石川、伊藤、平野の壁が高い。それでも、今後の国際大会で結果を残していけば、ダブルスの相性などが加味される3人目の選手として名前が挙がることも十分にあり得る。

 逆境に打ち勝ち、初代のシーズンMVPを獲得した早田は、慢心することなく東京五輪への道を着実に歩み続けていく。