日本企業のNTTが冠スポンサーについた今年のインディカー・シリーズ。全17戦のチャンピオンシップは、セント・ピーターズバーグのダウンタウンで幕を開けた。シーズン最初のレースに集まったのは24台のインディカー。シャシーは全員ダラーラを使…

 日本企業のNTTが冠スポンサーについた今年のインディカー・シリーズ。全17戦のチャンピオンシップは、セント・ピーターズバーグのダウンタウンで幕を開けた。シーズン最初のレースに集まったのは24台のインディカー。シャシーは全員ダラーラを使用し、エンジンはホンダユーザーが14台、シボレーは10台という内訳だった。



開幕戦で、一時は8位まで順位を上げたものの、リタイアに終わった佐藤琢磨

 予選は今年も3段階で争われ、トップ6によるタイム・アタック合戦でポールポジションを獲得したのは、2014年チャンピオンのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)だった。

 トップ6のうち4人がホンダエンジン搭載だったが、2位にはジョセフ・ニューガーデンが入り、トップ2をシボレー搭載のペンスキー勢が占めた。彼らは、「シボレーエンジンのパワーバンドが広がった」と話していたが、ペンスキーのアドバンテージはそこにではなく、タイヤの使い方にあったように見えた。シボレーはユーザーに、”ドライバビリティが高まった”と言ってほしいようだが、ペンスキーの優位はソフト・コンパウンドのレッド・タイヤでの速さにあった。

 インディカーのストリート、ロードレースでは、ソフトとハード、2種類のタイヤが供給され、サイドウォールが赤くされているのでソフトがレッド・タイヤと呼ばれている。そのレッド・タイヤから、短時間に高いグリップ力を発揮するパフォーマンスを引き出すセッティングや走り、あるいは数周をこなした後、グリップが落ちているはずのタイヤの使い方で、彼らはライバルたちの知らないノウハウを持っているようだ。
 
 予選前の3回のプラクティスでは2位、1位、1位だった2012年チャンピオンのライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)は、予選5位という結果に、悔しさを隠さなかった。「レッド・タイヤでマシンがダメだった。特にユーズド・レッドでの走りが悪かった」と、彼は説明する。

 今回の予選では、3段階のうち、最初のセッションのグループ1で赤旗が続出。レッド・タイヤをほぼ使っていない状況で時間切れとなった。3セッションあるのに供給されるレッドは2セットのみ。ファイナルはユーズド・タイヤを使わねばならないのが普通だが、今回、グループ1を勝ち上がった面々は、Q2、Q3にレッドを1セットずつ持っているに近かった。

 しかし、パワーはユーズド・レッドで驚異的な走りを見せ、新品レッドでトップに立っていたニューガーデンのタイムを、最後のアタックラップで0.0976秒上回り、シーズン最初のPP(ポールポジション)獲得を果たした。これでパワーの通算PP獲得は55回に。67回というマリオ・アンドレッティによるインディカー最多PP記録を、抜くことになるかもしれない。

 2列目以降は、予選3、4位がチップ・ガナッシ・レーシングのフェリックス・ローゼンクビスト(ルーキー)とスコット・ディクソン(タイトル獲得5回)。予選5、6位はアンドレッティ・オートスポートのハンター-レイとアレクサンダー・ロッシだった。今年も3強チームの強さに変わりはないということだ。

 インディカー10年目、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに復帰して2シーズン目となる佐藤琢磨は、Q1のグループ2で5番手につけるタイムを出した。だが、その次のラップのブレーキングでバランスを崩してランオフエリアへ入り、イエローフラッグが出されたため、ペナルティを課せられて予選順位は20位となった。

 決勝は、3月初旬だというのに摂氏27度という暑さの下でスタート。レッド・タイヤの耐久性が心配された。

 インディカーには、レッドとブラック、両方のタイヤをレースで少なくとも2周は使わなければならないというルールがある。出場した全車がスタート時にレッドを装着したのは、早めにピットして、残りをブラックで戦い抜く作戦を採用したためだ。ところが、勝利を飾ったのはレース後半にレッドを投入したニューガーデンだった。

 ニューガーデンはスタートをユーズド・レッドでこなし、タイヤのラバーがのってグリップの上がったレース終盤に新品レッドを投入。グリップが高いうちに2番手以下との差を広げ、その後のラップタイムの落ち込みを小さく抑えたことで逃げ切りを成功させた。

 レース半ばに2番手に浮上していたディクソンは、最初のピットストップの後にブラックを3連投して全力プッシュしたが、逆に彼の方がラップタイムを落とす苦しい戦いを強いられた。

 ニューガーデンは開幕戦での勝利に、「ライバルとは異なる作戦で戦いたかった。それがユーズド・レッドでのスタートで、後半に新品レッドを入れたことでリードを広げることができた」と喜んだ。タイヤの準備、そしてタイヤを労わる走りが、勝因となった。

 2位はディクソン、3位には予選トップだったパワーが入り、元チャンピオン3人が表彰台に並んだ。

 開幕戦でシボレーは優勝と3位という好結果を残した。しかし、ライバルのホンダも、2位ディクソンをはじめ、トップ10に7人が入った。シボレーはシモン・パジェノーが7位で、チーム・ペンスキーの3人だけがトップ10フィニッシュという結果だった。

 佐藤琢磨はギヤボックスのトラブルでリタイアし、結果は19位だった。

 20番手の後方スタートから、一時は8番手まで浮上したが、マシンがコース上の破片か何かを拾い、ギヤボックスを冷やすためのダクトの口が塞がれてしまったのがトラブルの原因だった。

 琢磨は「最初のスタートと、レース中のリスタートで、数台をパスできました。それ以外でも、バトルのなかでザック・ビーチをオーバーテイクしました。8番手まで大きくポジションアップできたように、チームの戦い方はよかったと思います。マシンは最速と呼べるものではなかったけれど、セッティングのレベルは悪くなかった。トラブルによるリタイアは本当に残念。サーキット・オブ・ジ・アメリカス(COTA)での第2戦で頑張りたい」と語っている。

 コース前半が超高速、後半はタイト・コーナーの連続というユニークなレイアウトを持つCOTA。開幕前に行なわれたテストではホンダ勢(特にアンドレッティ・オートスポート勢)が速かったが、トップパワーの大きさも重要なカギを握る。ホンダ勢がアドバンテージを保つのか、シボレー勢がそこでも速さを見せるのかも楽しみだ。