苦手意識を抱くインディアンウェルズ(BNPパリバ・オープン)は、今年も錦織圭に厳しい結果を突きつけた。「体調はすごくいい」と表情も明るく挑んだ大会だが、3回戦でフベルト・フルカチュ(ポーランド)に、6-4、4-6、3-6で敗れ、終焉を…

 苦手意識を抱くインディアンウェルズ(BNPパリバ・オープン)は、今年も錦織圭に厳しい結果を突きつけた。

「体調はすごくいい」と表情も明るく挑んだ大会だが、3回戦でフベルト・フルカチュ(ポーランド)に、6-4、4-6、3-6で敗れ、終焉を迎えた。



ミスを連発して顔をしかめる錦織圭

 第1セットは本人も、「ボールはしっかり跳ねていたし、リターンも返せて、ほぼ全部よかった」と語るとおり、錦織が圧倒した。相手のファーストサーブの確率が低かったことも、攻勢に立つ一助となる。リターンを返し、ストローク戦に持ち込めば、錦織が打ち合いを支配した。

 対戦相手のフルカチュは、今回がBNPパリバ・オープン初参戦の22歳。この大会に入る直前にキャリア最高ランキングである67位に達したばかりの、フレッシュなニューフェイスだ。

 しかも、この長身(193cm)で物静かなポーランド人選手に勢いと自信を与えたのは、錦織だとも言える。2週間前のドバイ選手権2回戦で、フルカチュは錦織から「キャリア初の対トップ10プレーヤー勝利」を得ていたのだ。

 戦うたびに自信と勝利を得る術(すべ)を獲得する成長株は、錦織にとっても叩いておきたい相手だったはず。立ち上がりの緊張感に満ちたプレーは、そのような錦織の想いを映していた。

 一方のフルカチュは、2週間前に対戦した時と異なる錦織のプレーに、戸惑いを覚えたという。

「コンディションや環境が違うこともあるが、今日の彼はアングル(コートの左右幅を活用する、浅くて角度のついたショット)を使ってくるなど、前回とは戦い方を変えてきた」

 その錦織の変化に、立ち上がりのフルカチュは「なかなか適応できなかった」。そこで第2セットに入る前には、「多くの球種を使っていくこと」、そして何より「すべてのボールに食らいついていくこと」を考えたと言った。そして、その決意を支えたのは、前回の対戦での勝利だったという。

「前回の対戦がヒントとなり、長いラリーでも負けないとの手応えがあった」

 高速サーブと強打の印象が強いフルカチュだが、フットワークも軽快で、球際の強さと長い手足はディフェンスにも大いに生きる。第2セット第9ゲームでは錦織が2本のブレークポイントを掴むが、この局面でフルカチュはエース級のサーブを連ねてきた。

 その直後のゲームでは、ラリー戦で錦織のミスがかさむ。第2セットの総獲得ポイント数は、錦織が「26」で、フルカチュが「28」。2本の差が、そのままセットの行方を決した。

 第3セットは、錦織が最初のゲームをブレークする好スタートを切るが、続くゲームでは、錦織のボールがラインを割る場面が目立つ。

 以前より、ボールが飛びすぎるこの大会の環境に悩まされてきた錦織は、苦手意識もあったか、ネガティブなしぐさも増えていく。ゲームカウント2-3のサービスゲームでは、ダブルフォルトを2本重ねて、敗戦へと大きく傾くブレークを許した。

 もっとも、相手にサービスゲームをキープされれば敗れるという状況は、錦織は今大会の2回戦でも経験している。その時は、プレッシャーを感じた相手がダブルフォルトなどのミスをしたため、助けられた側面もあった。

 しかし、今回の相手がその時と違ったのは、わずか2週間前、錦織との接戦の末に勝った実績と自信があったこと。

「あの勝利は大きな助けになっていた。最後のゲームでは、最初のポイントが重要だと思っていた」

 その「重要」なポイントを、錦織はフレームショットで与えてしまう。最後は、バックのスライスの打ち合いから、勝負に出た錦織のフォアがラインを割った。

「自分のサーブは悪くなかったですが、ファイナルセットのダブルフォルトだったり、大事なところでミスが出てしまった。大事なところで攻められたり、取り切れなかったりというのが、(試合を勝利で幕を)閉めきれなかった部分だと思います」

 試合後の錦織の口を突いたのは、自分のプレーが取り立ててよくも悪くもないなかで、勝つべき試合を逃したというもどかしさだった。

 対するフルカチュが口にしたのは、「次の試合も戦えるのがうれしい」と言う言葉。ひとつの勝利が未知のステージへの扉を開き、新たな大勝負に挑めるという、若さの特権的な高揚感だ。

 29歳の錦織がこの先も直面していくのは、彼らのような急成長の時を謳歌する者たちの、むき出しの野心と無垢な向上心だろう。

 ランキングなどの表層的な数字だけでは、コート上での優劣は測りきれない。流動的な勢力図の渦中に、今の錦織はいる。