2019年シーズンの開幕を前に、世間では「フェラーリ圧倒的優位」の下馬評で持ちきりだ。果たして開幕戦オーストラリアGPでは、フェラーリが独走で勝利を収めるのか?バルセロナでの開幕前テストで好タイムを記録したフェラーリ バルセロナ合同テ…

 2019年シーズンの開幕を前に、世間では「フェラーリ圧倒的優位」の下馬評で持ちきりだ。果たして開幕戦オーストラリアGPでは、フェラーリが独走で勝利を収めるのか?



バルセロナでの開幕前テストで好タイムを記録したフェラーリ

 バルセロナ合同テストでは、たしかにフェラーリが速さを見せた。セバスチャン・ベッテルが総合トップタイム1分16秒221を記録し、新加入のシャルル・ルクレールも0.01秒差で続いた。両者ともにフルプッシュはせず、燃料もやや重めに積んでの走行で、まだまだ速さは隠していると見られている。

 一方、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンは、0.003秒差のタイムを記録してはいる。だが、「現時点ではフェラーリが最速だ。彼らとは0.5秒くらいの差があると思う。僕らにとって、これまでで最大のチャレンジだ」と本音を吐露した。

 たしかに、両者のオンボードカメラの映像を見れば、その違いは明らかだ。ベッテルはアタックラップであることがわからないほど、スムーズでゆったりとしたステアリングさばきを見せているのに対し、ハミルトンはほとんどのコーナーでターンインした後にマシンがふらつき、ステアリングの修正を重ねていた。

 また、フェラーリSF90は初日の走り始めから「マシンバランスが取れていて、ドライバーが自信を持って攻めることのできる運転のしやすいクルマだった」(マティア・ビノット代表)のに対し、メルセデスAMGは「速度域によってダウンフォースの前後バランスが異なり、マシンバランスに問題を抱えている」(バルテリ・ボッタス)と対照的な状況だった。

 フェラーリはテスト前半から同じ空力パッケージで8日間走り続け、セッティングを熟成していった。それに対してメルセデスAMGは、テスト前半はコンサバティブな空力パッケージでメカニカル面の確認に専念し、テスト後半では「本当にパワーユニットが入っているのか?」と目を疑うほどコンパクトな開幕仕様の空力パッケージを投入して性能面の引き出しに移る、例年どおりのプログラムをこなした。

 しかし、空力規定が変わった今年はこれが災いした。

 テスト前半で抱えていたバランスの問題が、本番仕様パッケージを投入しても「ダウンフォースは増えたし、基本的なバランスはよくなったけど、まだ大幅なステップが必要」(ボッタス)という状態だった。新空力規定の評価という意味では、メルセデスAMGのアプローチは間違いだったかもしれない。

 燃料搭載量のごまかしがきかない66周を連続周回するレースシミュレーションのタイム推移を見れば、フェラーリとメルセデスAMGの間には0.3~0.5秒ほどのタイム差がある。前出のハミルトンのコメントは、これを元にしたものであることが推察できる。

 フェラーリはどのセクターでも安定して好タイムを記録しているが、メルセデスAMGは中高速コーナーの多いセクター2で苦戦し、低速コーナーの多いセクター3が速い。空力性能が問われる前者ではフェラーリが優るが、メカニカル性能がモノをいう後者ではメルセデスAMGも十分な速さがある。

 ということは、メルセデスAMGが空力面の問題を解決すれば、フェラーリとのギャップを縮めることは不可能ではないということだ。

「低速コーナーの性能は、昨年型よりもいいんだ。マシンバランスの変化のせいで本来の速さが発揮し切れていないけど、伸びしろはいろんなところにあるし、チームが解決してくれると信じている」(ボッタス)

「このクルマには進歩する潜在能力がある。今まででもっとも厳しい戦いになると思うけど、僕らはチャレンジが大好きだ」(ハミルトン)

 そしてレッドブルは、前回のコラムで解説したとおり、フェラーリから0.2~0.3秒の差をつけられている。メルセデスAMGよりもやや前にいそうだが、こちらも空力性能が期待したほど突出したものではなかったことと、2度のクラッシュによるテストプログラムの遅れが気になるところだ。彼らもバルセロナで収集したデータを元に、開幕戦までにどれだけ分析と対策を施してくることができるかが勝負のカギになりそうだ。

 よって2019年シーズンは、現時点でフェラーリが先頭にいて開幕を迎えそうである。

 その一方、バルセロナで見えてきたもうひとつの今シーズンの特徴が、中団グループの速さだ。

 総合ベストタイムではルノーのニコ・ヒュルケンベルグがトップから0.622秒差を記録し、そこからトロロッソ・ホンダ勢とマクラーレンのカルロス・サインツが0.1秒以内にひしめいている。レースシミュレーションのタイムを見ると、ハースとアルファロメオが速い。

 昨年は3強とその他が大きく分かれ、1秒以上の差があることも少なくなかった。レースでは完全にふたつのグループに分かれ、同じコース上ではあっても別のカテゴリーのレースが混走しているような状態になっていた。

 しかし、今季は3強と中団グループとの差が小さく、0.5~1秒程度。両者のレースシミュレーションのペースが部分的に重なっている。つまり、レース展開によっては同等のペースで走れる場面が少なくないほど、中団グループが速さを増してきている。その筆頭が、ハースやアルファロメオだ。

 ルノーは本格的なレースシミュレーションを行なっていないために分析が難しいが、バルセロナで淡々と自分たちのテストプログラムに専念してきただけに、メルボルンでは速さを増してくる可能性は十分にある。開幕序盤に大型アップデートを持ち込むというレーシングポイントも、同様にケレン味のないテストで実力を隠していて不気味だ。

 いずれにしても、今年は中団グループ内の争いが激化するだけでなく、3強チームとてミスを犯せば中団グループに逆転されてしまうくらい、”近い場所”での戦いが展開される可能性は高い。そうなれば、昨年はアゼルバイジャンGPのセルジオ・ペレスの1回しかなかった3強以外の表彰台も増えるのかもしれない。アルファロメオに加入したキミ・ライコネンも、速さと経験を武器に活躍しそうだ。

 また、トロロッソ・ホンダも昨年型レッドブルRB14をベースに開発されたSTR15で好走を見せ、期待が集まっている。テストでは若いドライバーふたりがタイヤマネジメントを気にせず周回を重ねてデグラデーション(性能低下)を引き起こしていたが、実戦の中ですぐに改善していくだろう。

 純粋な速さで言えば、トロロッソはハースやアルファロメオに次ぐポジション。すぐに表彰台が獲得できる場所ではなさそうだが、それでも若いふたりが入賞圏を争うことはできそうだ。

 そして、今年のテストで見えたもうひとつの特徴は、各チームの信頼性が極めて高いことだ。

 今年はトラブルを抱えたり、コース上にストップするマシンが例年に比べて圧倒的に少なく、どのチームも連日100周を超える距離を走り込んでいった。距離を稼ぐためにドライバーの負担を減らそうと、午前・午後で担当を分けるメルセデスAMGの手法をマネたチームが増えたのも、そのためだ。おかげで年間110セットのうち85セットを持ち込んだにもかかわらず、「タイヤが足りない」という不満の声さえ上がったほどだった。

 今年は新規定が導入されたとはいえ、それは空力面に関してのことで、マシンの基礎的な部分は2017年から変わらないまま3年目を迎える。パワーユニットについてはすでに6年目を迎えるとあって、各チームの信頼性が極めて高くなってきており、トラブルによるリタイアなどの発生は少なくなりそうだ。それは、このバルセロナ合同テストの段階から予見できる。

 そこに、新空力規定によるオーバーテイク増加促進策や、ファステストラップポイントの導入(※)など、新たな要素も加わる。

※ファステストラップポイント=今シーズンよりファステストラップを記録したドライバーに1ポイントが加算される。ポイントの対象となるのは、トップ10でフィニッシュしたドライバーのみ。

 フェラーリを筆頭とした3強チームによるトップ争いがどうなるのか。そこに中団グループの誰がどのように絡んでくるのか――。開幕直前テストの走りを見るかぎり、2019年のF1はこれまで以上に質の高い戦いが繰り広げられそうだ。