レッドブル・ホンダは勝てるのか? 2019年の開幕前テストの全日程が終了したが、我々がもっとも知りたいその疑問に対し、レッドブル・ホンダは明確な答えを提示することのないまま、バルセロナを後にした。開幕テストでは目立ったタイムを記録する…

 レッドブル・ホンダは勝てるのか?

 2019年の開幕前テストの全日程が終了したが、我々がもっとも知りたいその疑問に対し、レッドブル・ホンダは明確な答えを提示することのないまま、バルセロナを後にした。



開幕テストでは目立ったタイムを記録することなく終わったレッドブル・ホンダ

 8日間にわたって目立ったラップタイムを記録することもなく、タイムシート上の順位でも上位に名を連ねることはほとんどなかった。テストが本格化した後半4日間の総合タイムでも、ピエール・ガスリーが11位、マックス・フェルスタッペンが17位という結果だった。

 しかし、レッドブル・ホンダに勝つチャンスがないわけではない。

「ロングランのペースを見れば、僕らも有望だ。車体とパワーユニットのパッケージはとてもうまく機能して、僕らは満足している。気持ちよくドライブすることができているし、レッドブルとホンダの共同作業のスムーズさもすばらしいので、とてもポジティブだよ」(ガスリー)

 ライバルたちがもっとも柔らかいC5タイヤで予選アタックを行なうなか、レッドブル・ホンダは自分たちのテストプログラムに集中し、淡々とロングランを続けていた。

 テスト1週目はマシンの基礎データ収集に専念し、2週目に入ってからはさまざまなセッティング項目をセミロングランでチェックしつつ、マシン開発の方向性を見極める作業を続けてきた。目立ったタイムを出していないのは、そのためだ。

 だが、残り2日でフルレースシミュレーションと予選シミュレーションを行なおうとしたところで、問題が起きた。テスト第2週3日目の午後、レースシミュレーションを開始して第2スティントに入ったばかりのタイミングで、ガスリーが激しいクラッシュを喫してしまったのだ。

 7速をほぼ全開で走る右の高速コーナーのターン9。その進入でわずかにタイヤをアウト側の縁石に乗せてしまい、ターンインした瞬間にコントロールを失ってスピンし、後ろ向きにバリアに激突した。

「残念だよ、僕のミスだ。ほんの少し、10cmか15cmだけワイドに入っていってしまった。それでターンインした瞬間、リアを失ったんだ。ものすごく大きな衝撃だったし、僕が今まで経験したなかでもっとも大きなクラッシュのひとつだったと思う」

 昨年スペインGPの土曜フリー走行で、トロロッソ・ホンダのブレンドン・ハートレイが犯したものとまったく同じミスだったが、ダメージは今回のほうがはるかに大きかった。

「先週(のガスリーの事故)よりもひどいダメージでした。去年ハートレイがクラッシュした時のような、(車体に対して)真っ直ぐに力が入る形ではなくて、真っ直ぐと斜めと全部入ってしまったような感じです。ギアボックスをテコにして(増大した)力が加わったので、ギアボックスに(ICE側が)曲げられてしまうような形になったんです」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 パワーユニットはテスト第1週2日目のクラッシュで交換し、残り6日間はそれで最後まで走り切る予定だったが、再びここで交換を余儀なくされることとなった。

 しかし、それよりも痛かったのは、マシンの最新空力パーツとギアボックスを失ってしまったことだった。

 レッドブルは、事前ベンチテストの段階からギアボックスにトラブルを抱え、テストが始まってからもマイナートラブルが続いていた。テスト2日目にはレースシミュレーションの途中でフェルスタッペンのギアボックスに問題が起き、第3スティントに入って5周目の段階で走行を断念せざるを得なかった。

 そして、前週のクラッシュに続き、3日目のクラッシュでさらにもう1基を失ってしまった。最終日に向けてチームは夜通しの作業でマシンを修復し、朝9時半にコースへと送り出すことに成功したが、29周を走行した時点で再び問題が発生。パーツはすでに底を突いており、それ以上の修復は不可能だった。

 これによって、レッドブルは本格的なレースシミュレーションはおろか予選シミュレーションもできず、目立ったラップタイムを記録することなく、後半4日間のテストも早期終了することになってしまった。

 クラッシュによる影響もさることながら、ギアボックス自体が抱える問題も、やや不安が残る。テクニカルディレクターのピエール・ヴァッシェは言う。

「2日目のトラブルは、外部からの衝撃によってダメージが加わったようだ。詳しい原因はまだ究明できていないから、これからしっかりとその原因を突き止めて、対策を施さなければならない」

 テスト3日目にガスリーはC5タイヤで予選シミュレーションを行なったが、セバスチャン・ベッテルの最速タイム1分16秒221から0.870秒遅れの総合11位。

 ただ、これは本気でフルアタックしたものではないと、ヴァッシェは語る。

「予選を想定したアタックは行なうけど、それはあくまでタイヤの反応を見るためのもの。本気で最速タイムを目指していくランではない。(空タンクではなく)燃料は搭載した状態での走行だよ」

 しかし、それを差し引いても、シャルル・ルクレールが記録した1分16秒173のトップタイムに届かなかっただろうと、ガスリーは語った。

「正直言って、無理だったと思う。RB15はいいクルマだし、僕らにもポテンシャルはあるけど、フェラーリはかなり速いように感じられる。だから、僕らもかなりのハードワークが必要になるだろうね」

 一方のフェルスタッペンは、最終日の予選アタックを行なう前にトップと1.488秒差のタイムをC3タイヤで記録している。C5と比べればタイヤの差は1.2~1.4秒だから、トップに肉薄する速さがあることはわかる。

 だが、フェルスタッペンもフェラーリを超えるのは容易でないと考えているようだ。

「間違いなく彼らは速い。メルボルンは、ここ(バルセロナ)とは違うコース特性・気候で戦うことになるので、アメイジングなレースにはならないかもしれない」

 セクタータイムで見れば、高速コーナーが多いセクター2はあまり速くない。つまり、レッドブル自慢の空力性能はそれほど高くないということだ。「その点は想定外の状況だった」とチーム関係者も漏らしている。それが、両ドライバーの歯切れの悪いコメントにつながっているようだ。

 途中で終わってしまったレースシミュレーションの走り出しのタイムを見れば、フェラーリとのタイム差は0.2~0.3秒ほど。両者ともにマージンを残したタイムではあるだろうが、これが現実的なトップとの差と言えるだろう。

 ホンダは8日間のテストで、レッドブル、トロロッソの両チームともに大きなトラブルもなく、膨大な距離を走り切った。とくに、トロロッソのほうは1基のパワーユニットで2週にわたって走行し、約5レース週末分にあたる距離を走破してみせた。信頼性は十分に確保できていると見ていいだろう。

「必ずやっておかなければいけないことは、ほぼ100%できました。テストで走って出てきた課題がありますから、下方修正して80%くらいの出来のイメージ。日本に帰ってからデータを確認してベンチテストを行ない、(使い方の)アップデートをするという項目が残っています」(田辺テクニカルディレクター)

 このテストで走ったRA619Hの基本仕様はそのままに、細かなアップデートと使い方の面でさらなる熟成を施し、開幕戦のオーストラリアに持ち込む。

 今回のテストで、フリー走行モード、予選モード、決勝モードを使い分け、それらのデータを蓄積してきたという。信頼性を損なわない範囲で、どのくらいのパワーを引き出すモードがどのくらい使えるのか、年間3基で戦うのか、4基もしくは5基を想定してパワー優先で戦うのか。その最終調整を行なうことになる。

 これまでルノー製パワーユニットを搭載していたレッドブルは、あらゆる箇所でトップスピードの伸びがなかった。しかし、今年のテストでのデータを見るかぎり、RB15はライバルたちと同等レベルにまで速度が伸びている。今年のホンダは少なくとも昨年のルノーを大幅に上回っていると、ヴァッシェは語る。

「フェラーリやメルセデスAMGに対し、どのくらい近づいたかはわからないけど、少なくともルノーよりは明らかに上。最高速の伸びは、今までの我々になかった強みだ。最高速で優れているなんて、これまでなかったからね!」

 田辺テクニカルディレクターは、「マシンパッケージ全体としてフェラーリに及ばないのではないか」という予想を否定しないものの、「手の届かない場所にいるわけではない」と冷静な見方をする。

「はっきりとした位置はまだわかりませんけど、どうにもこうにも追いつかない場所にいるわけではありません。しかし、それで喜んでいるわけにもいきませんからね」

 テストはあくまで、テストでしかない。内容もさることながら、開幕に向けた途中経過でしかない。開幕戦で勝てるかどうか、それはここから1週間の各チームの伸びしろ次第だ。

「ホンダがレースに出るからには、勝つことを目的としてやっていますから。それはいつも、心の中に持って戦っています」(田辺テクニカルディレクター)

 勝負は3月15日、メルボルンで始まる。