アメリカのレースが目指しているのは高いエンターテインメント性だ。競争が激しく、どのレースも誰が勝つのかわからない、見る人がワクワクするバトルを披露するのが理想とされる。オープンホイールマシンによるアメリカ最高峰、インディカーシリーズは…

 アメリカのレースが目指しているのは高いエンターテインメント性だ。競争が激しく、どのレースも誰が勝つのかわからない、見る人がワクワクするバトルを披露するのが理想とされる。オープンホイールマシンによるアメリカ最高峰、インディカーシリーズは今年もそんな17レースを開催し、チャンピオンを決定する。

 開幕前の合同テストを見ても、チャンピオンの栄冠を狙うのに十分な戦闘力を持つドライバーが数多くいた。これほどコンペティティブなシリーズは珍しい。



今季もレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングから参戦する佐藤琢磨

 競争が激化しているのは、ホンダとシボレーが供給する2.4リッターV6ツインターボ・エンジンの実力が拮抗し、シャシーはダラーラのワンメイクとされているからだ。限られた範囲内でのマシンセッティング、ドライバーのスキル、チームの採用する作戦、さらにはピットクルーたちの作業によって小さな差が生まれる。それらを活かした戦いをハイレベルで完成させることのできたドライバー、そしてチームが勝利を収めるのだ。

 昨年、インディカーシリーズはマニュファクチャラー・エアロを廃止し、スペックエアロを採用した。マシンはハイダウンフォースからローダウンフォースへと性格が一変。このドラスティックな変化にベテラン勢が戸惑うなか、豪快なドライビングを見せるルーキーたちがシーズン序盤を席巻する。しかし、ベテラン勢もマシンの特徴をつかむのにつれて戦いぶりが安定した。

 第6戦のインディ500を終えて6月に入ると、トップ5は、2014年チャンピオンのウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シボレー)、2016年から参戦しているアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート/ホンダ)、2017年チャンピオンのジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)、2003、2008、2013、2015年チャンピオンのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)、2012年チャンピオンのライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)に。ロッシ以外はタイトル獲得経験者というメンバーによってチャンピオン争いが繰り広げられた。

 インディカーシリーズにはストリートコース、常設のロードコース、オーバルコースがあり、どのコースでも万遍なく速さを発揮するのが難しい。才能ある若手がスピードを見せつけて勝つこともあるが、豊富な経験を武器にベテランが勝利を収めることも少なくない。

 今年のインディカーのカレンダーからは、アリゾナ州フェニックスの1マイルオーバルと、カリフォルニアワインの産地ソノマのロードコースが消えた。シーズン序盤のフェニックスに代わってカレンダー入りしたのは、F1グランプリを行なってきたサーキット・オブ・ジ・アメリカス(COTA)。シーズン最終戦だったソノマは、同じサンフランシスコエリアのモンテレイにあるラグナセカ・レースウェイにとって代わられた。

 フェニックスが消えたことで、ショートオーバルはアイオワとセントルイスの2戦のみになり、重要性がダウン。逆に、常設ロードコースは17戦中6戦から7戦へと増えた。あとはストリートが5戦、1.5マイルオーバルが1戦、スーパースピードウェイが2戦というのが、今年のシリーズの内訳だ。

 開幕直前合同テストは、今年からカレンダーに加わったCOTAで2日間にわたって開催され、合計11時間の走行時間が用意された。

 このテストで安定した速さを誇ったのは、ルーキーのコルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング/ホンダ)、ロッシとハンター-レイ、さらにはパワー、シモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)といった面々だった。

 ハータは、アンドレッティ・オートスポートと共闘体制を組んでいるチームからの出場。先輩チームメイト4台と情報をシェアすることで、初テストの4セッションのうちの3回で最速ラップを記録。2日目午後のベスト(1分46秒6258)がテスト最速ラップとなった。このスピードを3月のレース本番でも発揮できれば本物だ。

 ロッシ、ハンター-レイは昨年もタイトルを争った実力派。アンドレッティ・オートスポートのロードコース用セッティングが非常に戦闘力の高いレベルに保たれていることが今回のテストで確認された。

 アンドレッティ軍団に対抗するのが名門チーム・ペンスキーだ。昨年はインディ500をパワーの手によって制したものの、タイトルは逃した。2014、2016、2017年のチャンピオン3人を擁する彼らは、この6年間で4回目の王座を目指す。そのためにポイントとなるロードコースでの速さはトップレベルにある。

 テストでは、パワーが1分47秒1044のベストで3番手、パジェノーは1分47秒2116で5番手、ニューガーデンは1分47秒6625で11番手だった。昨年、ダウンフォースの減ったマシンに馴染み切れず、優勝争いにほとんど絡めなかったパジェノーが、今回のテストで速かったのは大きなプラス要因だ。今年は3人で作業を分担し、マシンを進歩させることが可能となるからだ。

 昨シーズンは最終戦までもつれ込んだ混戦を制し、キャリア5度目のタイトル獲得という記録を打ち立てたのが、ニュージーランド出身のディクソンだ。チップ・ガナッシ・レーシングとしては12回目のチャンピオンシップ獲得だった。

 今年のディクソンのチームメイトは、27歳のフェリックス・ローゼンクビストに変更となった。F3のマカオGPで2勝しているスウェーデン出身のドライバーは、今回のテストではディクソンを上回るタイム(1分47秒2941)で総合6番手につけた。ルーキーイヤーにして初勝利を十分に狙えるドライバーだ。ディクソンは総合8番手のラップ(1分47秒3684)を記録した。

 テストの7番時計(1分47秒3662)は、グレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)だった。

 レイホールは2015、2016年と、2年続けてトップ5入りしたが、この2年間は6位、8位とランキングを落としており、2018年は優勝もなかった。だが、チームは昨シーズンから佐藤琢磨を迎えた2カー体制となって、ジワジワと成果を挙げており、今年は琢磨とともにトップ5、さらにはチャンピオン争いへと食い込んでいきたいところだ。

 今回のテストでは、走り出しのセッティングがいまひとつだったが、2人で別々のプログラムをこなしてセッティング向上のきっかけを発見。琢磨もテスト終了間際に1分47秒7183をマークし、13番手で走行を終えた。ストリートの速さはトップクラスで、ロードコースでのパフォーマンスも上向きの彼らは、エンジニアを補強したことによってスーパースピードウェイにおけるスピードアップも実現できつつある。

 琢磨は走行後、「最後の最後でしたが、マシンの状態をよくすることができ、それが好タイムを出すことにつながりました。ベテランエンジニアも新たに起用し、自分たちのチームはまた強化されています。タイトル争いを行なうためにも、開幕戦から思い切りいきます」と話していた。

 一方、ホンダ対シボレーのエンジン・バトルは2012年から2メーカーによる真っ向勝負が続いている。

 昨年はホンダがマニュファクチャラー・タイトルを獲得。今回のテストでもトップ10に8人が名を連ねており、2年連続タイトル獲得の可能性は高い。現行エンジンは基本部分を2020年まで保つと決められており、今季に向けて大きな設計変更は行なえない。ライバルに差をつけるには、小さな改良を数々積み重ねることでパワーを絞り出すしかない。

 もっともパワーが重要になるのは、世界最大のレースであるインディ500。全長2.5マイルの超高速オーバルで勝つのはホンダか、シボレーか。ビッグな賞金と栄誉をつかむのはどのドライバーとチームになるのか。これもまたインディカーシリーズの大きな見どころのひとつだ。

 開幕戦は温暖なフロリダ州の観光都市セントピーターズバーグで、3月8-10日に開催される。