男子バスケがようやく『夜明け』を迎えた。 2月21日と24日に中東のイランとカタールで開催されたワールドカップ最終予選。アウェー2連戦を制した日本はグループ2位に浮上し、アジアで7位までに与えられるチケットを手にした。開催国枠で出場した2…

 男子バスケがようやく『夜明け』を迎えた。

 2月21日と24日に中東のイランとカタールで開催されたワールドカップ最終予選。アウェー2連戦を制した日本はグループ2位に浮上し、アジアで7位までに与えられるチケットを手にした。開催国枠で出場した2006年大会以来13年ぶり、自力出場では1998年大会以来、実に21年ぶりの悲願達成だった。



アウェーでも、安定したプレーでW杯出場を手にした男子バスケ日本代表

 ワールドカップは2019年大会から、出場枠が24から32に拡大することを受け、予選方式も大きく変更した。これまでのアジア選手権での争いから、1年3カ月の長きにわたり、6回の会期(Window1~6)にてホーム&アウェー方式で争うシステムとなったのだ。ワールドカップのホスト国である中国を加えれば、アジアには8枠もの出場権があり、以前の3枠に比べれば、決して到達できない目標ではなかった。

 だが、選手時代に自力で出場権をつかんでいる佐古賢一コーチは「今の予選方式のほうが数倍過酷」だと話す。「オセアニア勢が加わったこと、アウェーへの移動が大変なこと、シーズン中に戦う疲労、常にセレクションにかけられる競争など、(選手たちは)1年以上まったく気が抜けなかった」からだ。そんな修行のような予選を終えて特筆すべきは、いきなりの4連敗後に8連勝を遂げてグループ2位まで躍進した『成長』にある。4連敗を喫した1年前にはここまでの躍進は想像できなかったことだ。

 男子バスケはこの1年で何が変わったのだろうか--。

 これまでの男子バスケは、とにかく打たれ弱く、アジアの中でも勝ち切れずにいた。目の色を変えてくるライバルたちの前に受け身になり、フィジカル面で抑え込まれ、試合終盤に作戦を変えてくる戦法にも対応ができなかった。2015年に指揮を執った長谷川健志HC(ヘッドコーチ)時代には、戦う集団と化してアジアでベスト4に躍進もしたが、それもまた、国内リーグに戻ると国際大会での強度を忘れてしまうことを繰り返してきた。

 プロであるBリーグができて2年目から3年目にかけて行なわれたこの予選は、苦しみながらも経験を積み上げていく鍛錬の場となった。そんな中で日本は、目に見えて大きな2つの進化を遂げている。ひとつは支える組織が一丸体制になったこと。もうひとつは選手個々が自信を得たことである。

 長期にわたってホーム&アウェーで争うこのシステムは、シーズン中ゆえに、どこの国もベストメンバーを招集することや、万全の強化体制で臨むことが難しく、いわば国の総合力が問われた。現にチャイニーズ・タイペイ、カザフスタン、カタールなどは予選中にHCが交代し、イランはこれまで核となっていたベテラン勢が抜け、カタールは予選の終盤は強力な帰化選手を招集できず、両国ともに世代交代期に突入していた。フィリピンは乱闘事件を起こして主力が出場停止処分を受けるなど、みずからの首を絞める事件もあった。

 そんな中で日本は、4連敗中でも打開策に動いていた。もともと、準備そのもののスタートは早かった。シーズン中の11月と2月に予選が開催されることを睨み、2016年11月には台湾遠征を行ない、2017年2月にはイランを招聘して親善試合を開催。また、シーズン中に短期合宿を繰り返すなど、強化については他国よりも綿密に計画を遂行していった。さらに、2018年4月にはニック・ファジーカスが日本国籍を取得。アメリカで活動する八村塁と渡邊雄太に関しては所属チームとの交渉を続け、八村が4試合、渡邊が2試合の出場にこぎつけている。

 また、アウェーに出向けばその差を切に感じるが、運営の面でも観客動員においても、日本のホーム開催はいつでも熱気に溢れていた。こうした日本代表を動かし、支える組織そのものが4連敗に陥っても信頼感を失うことなく、スローガンである『日本一丸』となれたことが、快進撃へとつながった要因だろう。そこで2017年にBリーグが設立されたことによるプロ意識の変化や、ファンからの熱い声援の後押しが加わったのだ。

 キャプテンの篠山竜青は言う。「Bリーグができる前と今とでは注目のされ方が全然違うので、選手たちはプロ意識が芽生え、この1年でメンタル的な成長ができました」

 ゲームの質も劇的に向上した。そのきっかけとなったのは、Window3以降に加わったニック・ファジーカス、八村塁、渡邊雄太がもたらした『高さと自信』であることは、選手の誰もが認めるところで、ファジーカスが加われば安定感が出て、八村と渡邊が加われば速さが格段に増している。フリオ・ラマスHCは常に『ゴールアタック』をモットーに掲げてきたが、「劇的に変化した要因のひとつにWindow4で渡邊が加入したことだと思う。ニックと塁の加入はもちろん大きいが、渡邊の攻める姿勢はBリーグの選手たちにもやれるというインパクトを与え、その影響力は大きかった」と振り返る。

 Window4の初戦はアウェーでのカザフスタン戦だった。この試合での渡邊は出足から攻め込む姿勢が凄まじく、後半は八村がゲームを動かしていた。彼らのボールを持ったら迷いなくプッシュする姿勢はBリーグでは見ることができない衝撃的なものがあり、これがNBAを目指す選手のプレーなのかと、全員が身をもって感じた瞬間だったのだ。ファジーカス、八村、渡邊が加入したWindow3以後の平均得点を比較すると、一試合平均得点は70.5→88.25点、速攻での得点は10.5→13.13点、ペイントエリアの得点は24→41点、セカンドチャンスの得点は6.75→10.13点と上昇している。ペイントエリアでは主にファジーカスや八村の得点が占めるのだが、彼らのマークを分散させるには、各選手がアタックをすることが必要で、それによりディフェンスにズレができ、攻めやすいスペースを生み出すことができる。

 以前は攻め込むことは比江島慎に偏っていたが、この予選を通じて、竹内譲次や田中大貴らもハードなディフェンスの役割のほかに隙あらば攻め込み、そして馬場雄大が速攻に走って勢いづける姿はもはや見慣れた光景になった。今まではあと一歩を踏み出す勇気がなかった男子のバスケに推進力が出てきた成長こそが、この予選で得た最大の収穫だろう。

「1年前に4連敗した頃は『自分が何とかしなきゃいけない』という思いでやっていて、最後には力尽きてしまうこともありました。でも今はラマスが求める『ゴールアタック』を全員ができるようになり、誰が出ても臨機応変に役割が果たせるようになったのが成長だと思います。自分は雄太と塁がいない時に点を取る役割は果たせました。次の課題は、雄太と塁が入ったときに自分の仕事を見つけてやることです」(比江島)

「これまでの自分は日本代表では思うようなパフォーマンスができず、モヤモヤした感じを引きずりながらやっていましたが、チーム(アルバルク東京)でハードな練習をしていることと、国際大会の経験を積んでいくことで、ようやく落ち着いてプレーできるようになった気がします。チームもオーストラリアに勝ったあとから自信が出てきたのだと思います」(田中)

「2006年のワールドカップでは『我』を出せなかった後悔があるので、今は目の前の試合に対して悔いを残さず戦いたい気持ちが強いです。自分のプレーで言えば、ラマスHCが信頼してくれるのと、すばらしいクラブ(アルバルク東京)ですばらしいコーチ(ルカ・パビチェビッチ)のもと、すばらしい指導を受けていることが、日本代表で出せている実感があります。リバウンドではまだ課題があるので、このチームはもっと伸びると思います」(竹内)

 世界への扉を開け、ようやく、ここからがスタートでもある。次なるステップは世界の舞台でも、あと一歩を踏み出すような勇気あるプレーを出していくことだ。夜明けのあとには日が昇る。その過程を、さらなる日本一丸の姿勢で向かっていきたい。