現地時間2月17日、ノースカロライナ州シャーロットのスペクトラム・センターで行なわれたNBAオールスターで、”怪童”ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)がまたも大きなインパクトを残した。  大舞台で放った最初の9本のシュートを…

 現地時間2月17日、ノースカロライナ州シャーロットのスペクトラム・センターで行なわれたNBAオールスターで、”怪童”ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)がまたも大きなインパクトを残した。 

 大舞台で放った最初の9本のシュートをすべて成功。絶好のスタートで勢いをつけた通称”グリーク・フリーク(ギリシャの怪物)”は、最終的にゲーム最多の38得点をマークした。迫力たっぷりのダンク10本を決めただけでなく、11リバウンド、5アシストもマークするなど、その万能ぶりを存分にアピール。チームが逆転負けを喫したのは残念だったが、勝っていれば間違いなくMVPに輝いていたはずだ。

「アメリカ以外の出身でMVPを受賞した選手がいないことは知らなかった。自分はとにかくハードにプレーしようとしたし、楽しもうと思った」

 試合後の本人の言葉どおり、アデトクンボはMVPを狙ってアグレッシブに攻めたわけではないだろう。普段と同じようににエネルギッシュに躍動する姿は、とくに試合の前半は緊張感に欠けがちなオールスターの舞台でも際立っていた。

 特筆すべきことがもうひとつある。25歳とまだ若手の部類に入るアデトクンボが、今回のオールスターではレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)とともにキャプテンを務めたことだ。

「クレイジーだよ。僕は今、ロッカールームで”チーム・ヤニス”の選手たちと食事をシェアしている。自分がリーダーになって、レブロン・ジェームズと一緒にチームの選手たちを選んでいる。6年前に尋ねられたら、自分がこんな位置にいるなんて絶対に思わなかったはずだ」




オールスターでキャプテンを務めたレブロン(左)とアデトクンボ(右)

 試合を前に、本人はそんな初々しいコメントを残してはいたが、アデトクンボが”チームの顔”になったことに異論がある選手はほとんどいなかったはずだ。ファン投票でイースタン・カンファレンス1位の票を集めただけでなく、選手間投票とメディア投票でもトップ。こういった数字が示すとおり、アデトクンボはNBA6年目にしてトップスターのひとりになったのである。

「リーグのベストプレーヤー争いは接戦になっていると思う。レブロンはずっとその座を保持してきた。しかし、ヤニス、ジェームズ・ハーデン(ヒューストン・ロケッツ)、それからケビン・デュラントとステフィン・カリー(ともにゴールデンステイト・ウォリアーズ)。こういった選手たちのおかげで、競い合いがより楽しいものになっている。互いに刺激しあって向上を続けているからね」

 オールスター前日のメディアセッション時、デトロイト・ピストンズのブレイク・グリフィンがそう述べていたのも印象的だった。

 これまで”リーグ最高の選手”の称号はレブロンが欲しいままにしてきた。今でも攻守両面でハイレベルな”キング・ジェームズ”は、依然としてナンバーワンプレーヤーと目されてしかるべきだ。しかし、レブロンも34歳を迎え、そろそろ下降線をたどることになっても驚くべきではない。
 
 レブロンに続く存在としては、デュラント、カリー、カワイ・レナード(トロント・ラプターズ)、ラッセル・ウェストブルック(オクラホマシティ・サンダー)、アンソニー・デイビス(ニューオリンズ・ペリカンズ)といった名前が挙げられることが多かった。ただ、グリフィンの言葉が象徴するとおり、ここに来てアデトクンボが急速に株を上げている感がある。

 過去5年間は1試合平均得点を毎年アップさせ、今季も前半戦の平均得点、リバウンド、アシスト、FG成功率はすべてキャリアハイ。周囲をワクワクさせるスケールの大きさも健在だ。とくに今季は、所属するバックスをここまでリーグ最高勝率に導いていることから、アデトクンボは現時点でシーズンMVPの最有力候補だろう。

 こんな足跡を考えれば、グリフィンが「レブロンの後継者争い」でアデトクンボの名前を真っ先に挙げたのも納得できる。レブロン、アデトクンボの2人がキャプテンとして名を連ねた2019年のオールスターは、後にターニングポイントのひとつとして振り返られるかもしれない。
 
 もっとも、「アデトクンボがレブロンとの差を詰めている」と聞いたら、現時点では抵抗感を覚える人も少なからずいるはずだ。”キング・ジェームズ”と”グリーク・フリーク”の最大の違いは、プレーオフでの実績にある。レブロンが昨季まで8年連続でファイナルに進出し、3度の優勝経験があるのに対し、アデトクンボはプレーオフのシリーズを制したことが一度もない。

 昨季もポストシーズンには進んだが、第1ラウンドでボストン・セルティックスに3勝4敗で惜敗。多くのヤングタレントを擁したバックスは「ブレイク候補」と喧伝(けんでん)されながら、結局は2年連続でのプレーオフ初戦敗退となった。とくに昨春は、セルティックスがカイリー・アービングを欠いていたことから「有利」と目されていただけに、その敗戦はアデトクンボにも重くのしかかったに違いない。

“センセーション”から”真のスーパースター”に飛躍するには、個人記録を充実させるだけでは足りない。プレーオフでチームを勝利に導くことは必須。そういった意味で、現時点でのアデトクンボはまだレブロンはおろか、デュラント、カリーとも並べ立てるべきではない。

 前述どおり、今季のバックスは快調にイースタンのトップを走っている。プレーオフでも本命視されることが濃厚で、それは必勝の重圧が大きくなることも意味する。ここまで飛ぶ鳥を落とす勢いで駆け上がってきたアデトクンボは、おそらくNBA入り以来初めて、大きなプレッシャーを背負うことになるだろう。

「(オールスターのキャプテンを務めることは)難しいことではなかった。チームのリーダーになるのは、チームメイトのおかげで思ったよりも大変ではなかった。みんなが僕を後押ししてくれたんだ。おかげで真剣に向き合えたし、勝利に向けてハードにプレーできた。だから簡単だったよ」

 アデトクンボはオールスター後にそんな屈託のないコメントも残していたが、プレーオフではそうはいかない。”チーム・ヤニス”ではキャプテンでありながらベテランスターたちの”弟分”でいられたが、バックスでは絶対的な大黒柱。そんな立場になって迎えるプレーオフでは、チームを上位進出に導かなければならない。

 NBAにおいて、自由奔放にバスケットボールの楽しさを表現するアデトクンボは貴重な存在であり続けてきた。そんな怪童はハイスピードでリーグの顔のひとりになり、まもなく真の勝負の時を迎える。

 今後、どこまで駆け上がるのか。オールスター後のリーグ後半戦も、”レブロン以降”のトップランナーになりそうなスーパースター候補から目が離せない。