北海道札幌市のどうぎんカーリングスタジアムで開催された第36回 全農 日本カーリング選手権は、2月17日に決勝戦が行なわれ、中部電力が平昌五輪銅メダルのロコ・ソラーレを破って、2年ぶり6度目の戴冠を果たした。日本選手権で6度目の優勝を飾っ…

 北海道札幌市のどうぎんカーリングスタジアムで開催された第36回 全農 日本カーリング選手権は、2月17日に決勝戦が行なわれ、中部電力が平昌五輪銅メダルのロコ・ソラーレを破って、2年ぶり6度目の戴冠を果たした。



日本選手権で6度目の優勝を飾った中部電力

 ラウンドロビン(※総当たりの予選リーグ)では、初日にロコ・ソラーレとの対戦でエキストラエンド(※延長戦)までもつれる接戦を制すと、以降、富士急、北海道銀行フォルティウスらの強豪ライバルからも白星を重ねていった。

 その快進撃に「ラウンドロビンがピークになってしまうのでは?」と懸念する声も囁かれたが、無傷の8連勝で予選リーグ首位通過を決めた直後、中部電力のサード・松村千秋は「まだ上があると思っている」ときっぱり。そしてその言葉どおり、プレーオフ初戦のロコ・ソラーレ戦でも2度のビッグエンドを記録して、V候補を再び撃破した。

 さらにロコ・ソラーレと3度目の対決となった決勝戦でも、キーショットをしっかりと決め、中盤以降はゲームの主導権を握る。結局、11対3という大差をつけて全勝で優勝を飾った。

 周囲の不安をよそに、中部電力のパフォーマンスは落ちるどころか、プレーオフに入ってからギアを上げた印象すらある。

 そのショットの冴えに関しては、ロコ・ソラーレの藤澤五月が「(中部電力は)ドローショットが初日からずっと安定していた」と言えば、北海道銀行の吉村紗也香も「(中部電力は)石を残したい場所に、しっかりポイントで置けている」と語るなど、上位チームのスキップたちも舌を巻いた。

 では、なぜ今季、中部電力が世界ランキング上位のロコ・ソラーレや北海道銀行といった格上チームとの撃ち合いを制することができたのか。

 まずは、新コーチの存在抜きには語れない。

 平昌五輪の男子代表、SC軽井沢クラブのスキップだった両角友佑(もろずみ・ゆうすけ)である。彼が昨秋、中部電力のコーチに就任。チームはその直後から、男子の世界クラスのスキップと1対4のトレーニングマッチをこなし続けた。

 戦績は「連勝中です」と両角コーチ。「僕も負けず嫌いなので、そんな簡単には勝たせたくないっすよ」と言って笑うが、彼がハウスに石をためるハイリスク・ハイリターンの”攻撃的カーリング”を仕掛けることで、どちらかと言えばシンプルなショットを選択してきた、昨季までの中部電力のスタイルに変化を促した。

 特筆すべきは、ジュニア時代からテイクショット(※ハウス内の相手のストーンを弾き出すショット)の技術には定評があったフォース・北澤育恵の進化だ。これまでなら、本人が得意とするテイクショットを選択する場面でも、ドロー(※狙った場所にストーンを止めるショット)を選ぶなど、戦術の幅が広がった。

 その結果、相手との駆け引きのレベルが上がって、北澤にテイクとドローのどちらを投げさせるか、対戦相手のチームが迷っている場面が大会中、何度か見られた。

 ドローでハウス内に石を次々に送り込んで、複数得点やスティール(※不利な先行時に得点すること)の契機を探り、相手に隙が見えたら、北澤のテイクで仕留める--ロコ・ソラーレとの決勝で明暗を分けた第5エンドは、まさにそのパターンだった。

 ほぼノーミスでショットをつなぎ、相手のミスに乗じて大量4点を獲得。試合後、「両角コーチに教わったことを全部、出せました」と勝因を語った北澤にしてみれば、してやったりの展開だったのではないだろうか。

 また、両角コーチは大会中、その日の最終試合終了後の「ナイトプラクティス」というシートを公式に使える時間に、フィフスでマネジャーの清水絵美とともにアイスに乗っていた。そこで両角コーチは、ストーン固有のクセを把握する作業を「命をかけてやりました」と言う。

 両角コーチがこのストーンチェックを担うことで、詳細なストーン情報がチームにもたらされ、同時に選手の疲労軽減にもひと役買っていた。そうした献身も、チームの高いパフォーマンスにつながったのだろう。

 そしてもうひとり、メンタル面でチームに刺激を与えた人物がいる。

 2002年ソルトレークシティ、2006年トリノ、2014年ソチと、3度の五輪に出場している”元祖カーリング娘”の小笠原歩だ。

 昨年9月、中部電力の要請に応じる形で小笠原は軽井沢を訪れ、チームとの特別ミーティングに参加した。

 小笠原本人は、「たいしたことは言っていないので(ミーティングの内容は)秘密です」と言って笑ったが、戦術面でのアドバイスから、トレーニングへ向かう姿勢、勝利への執着など、長年世界と渡り合ってきた彼女なりの経験と実感をチームに伝えたようだ。

 大先輩からのアドバイスに、松村は感謝の言葉を口にする。

「他のチーム(の選手)からどんなふうに見られていたのか、客観的に話を聞くことができましたし、(チームや選手に対して)あそこまでストレートに厳しく言ってくれる人はこれまでいなかった。貴重なミーティングになりました」

 国内トップへ、さらには世界に挑む”新生”中部電力のメンタルの基礎は、シーズン冒頭、小笠原によって植えつけられたものかもしれない。

 日本選手権を制した中部電力はこのあと、デンマーク・シルケボーで開催される世界選手権(3月16日~24日)に日本代表として参加する。チームとしては、2013年のリガ大会(ラトビア)以来、6年ぶりの世界選手権出場で、松村と清水以外は選手として初めて世界のアイスに乗ることになる。

 両角コーチは言う。

「今回は、ポイントポイントでしっかりキーショットを決めることができたけれど、技術的にはまだロコ(・ソラーレ)のほうが上。彼女たちとまたいいゲームができるように、(中部電力の選手には)高い目標を持って世界選手権に挑んでほしい。僕もできるだけのサポートはしていきます」

 中部電力は6年もの長い間、世界のアイスから離れていた。その間に2度の五輪が行なわれており、その主役は他のチームだった。それでも、中部電力の選手たちは腐らず、前だけを向いて地道に強化を続けてきた。

 彼女たちの努力の上に、会社のサポートをはじめ、新コーチの献身、先駆者のアドバイスなど、多くのものが積み上げられて、今回の優勝が実現した。新たなスタイルを確立した中部電力が、世界でどれだけ通用するか。多くのファンが注目している。