すばらしい賞金額で夢を見させてくれるテニスの世界だが、そこに生きるプロ選手の生活は過酷だ。膨大な育成費用に加え、プロ入り後も維持費は莫大。ボランティアとの同宿制度や民泊を活用し、大会での滞在費を抑える涙ぐましい努力がコートの外にはある。◆育…

すばらしい賞金額で夢を見させてくれるテニスの世界だが、そこに生きるプロ選手の生活は過酷だ。膨大な育成費用に加え、プロ入り後も維持費は莫大。ボランティアとの同宿制度や民泊を活用し、大会での滞在費を抑える涙ぐましい努力がコートの外にはある。

◆育成コスト:不確かな将来への先行投資

一人のプロを育てる場合、家庭の負担はどれほどだろうか? 現在世界ランク152位のノア・ルビン(アメリカ)の事例を、Bloombergが紹介している。父・エリックは息子をトレーニングするため仕事を犠牲にしており、三度も職を失っている。1時間130ドル(約1万4000円)するレッスンを受けさせるため、借金もしたという。母・メラニーは息子がコートを使えるようにと、テニスクラブで無償奉仕。テニスを続けるにあたって特に父親が舐めた辛酸に、当人は気づいているようだ。ウィンブルドンで優勝できれば何よりも父への恩返しとなる、と2015年に当人は述べているが、2014年にジュニア・ウィンブルドンでは優勝しているが本戦への出場歴はまだない。

同記事によると、ルビンの両親は離婚している。テニスが直接の原因だったわけではないが、緊張の原因となっていたことは確かだ。当時のルビンは将来が約束されていたわけではなく、どれほど真剣に向き合うかについて意見の隔たりがあった。離婚後の調停でもテニスが主な争点となっており、選手育成の犠牲は小さくないようだ。

◆コーチング費用:デビュー後も続く毎週の負担

プロ入り後は高額賞金への期待が膨らむが、一方で年間の支出額も一段と増える。全米テニス協会の見積もりによると、「高い競争力」を維持するには約14万3000ドル(約1580万円)が毎年必要となる。約半分がコーチング費用だとBloombergは伝えている。

昨年引退したサム・グロス(オーストラリア)は、プロ選手の収支バランスの厳しさをSporting Newsに吐露。コーチング費用として週3100ドル(約34万円)とボーナスを支払ってきたほか、医療費や高率の税金なども負担となる。好調な年は心配する必要もないが、そうでない時期はコーチング費用の支払いもおぼつかない、とグロスは語る。次の一戦に勝たねば支払いができないという、極度のプレッシャーがかかった時期もあったようだ。

◆大会コスト:飛行機もホテルもほぼ自腹

グロスはSporting Newsに対し、プロ選手としての維持費は、年間25万から31万5000ドル(約2760万円から3480万円)に達していたと打ち明けている。大会は世界各地で開かれるため、自身とフィアンセ、そしてコーチのために、飛行機代、宿泊費、食費などの出費がかさんだ。

WTAランク140位のニコール・ギブズ(アメリカ)も、テニス選手の支出の多さを嘆く。自身の事例をBaselineに寄せた記事のなかで紐解き、チームスポーツではないテニスの世界では選手の個人負担が大きいと指摘。彼女の年間負担額は、切り詰めた上で年間20万ドル(約2200万円)以上だ。大会に関する諸費用が大きく、国際テニス連盟レベルの大会では、ホテル費用が全額自腹となる。場合によってはボランティアの家庭に宿泊できることもあり、不便を感じながらそれに甘んじる選手たちも。より大規模な大会、例えば全仏オープンでは、出場日数プラス2〜3泊の宿泊費が上限つきで支給される。しかし、実際には2日以上前に現地入りする選手が多く、しかもプレーヤーの家族やコーチなどが同伴。費用は上限額を大幅に超え、差額は自己負担となる。ギブズの場合、民泊サイトのAirbnbを利用し、会場から10キロ離れた宿を自分で確保することで凌いだという。

優勝すれば夢のような大金が手に入るプロの世界。しかし予選や下位ラウンドで去る選手たちにとって、ランク維持のための負担は切実だ。その切実な思いを持っている多くの選手達の激しい戦いを今後も見守りたい。(テニスデイリー編集部)

※写真はウィンブルドン優勝を目指すノア・ルビン(Bryan Pollard / Shutterstock.com)