大学で4年間活躍し、6フィート9インチ(206cm)の長身で、左利き。オールラウンドなスキルを持ち、ディフェンス力もありながら、ルーキーシーズンにはほとんどプレータイムを得られなかった選手……。 渡邊雄太が所属…

 大学で4年間活躍し、6フィート9インチ(206cm)の長身で、左利き。オールラウンドなスキルを持ち、ディフェンス力もありながら、ルーキーシーズンにはほとんどプレータイムを得られなかった選手……。

 渡邊雄太が所属するメンフィス・グリズリーズのフロントには、渡邊と共通点が多く、似たような経験をしている元NBA選手がいる。現在グリズリーズでGM特別補佐を務めるテイショーン・プリンスだ。



グリズリーズではベンチを温めることの多い渡邊雄太

 名門ケンタッキー大を卒業し、2002年NBAドラフトの1巡目23位でデトロイト・ピストンズに指名されてプロ入り。2年目の2004年には優勝に貢献する戦力となっていたプリンスだったが、そんな彼でも1シーズン目は82試合中42試合しか出場できず、ベンチから試合を見る日が多かった。

 大学時代にはオールアメリカンのセカンドチームに選ばれるなど、プリンスの実績は低くなかった。だが、それでもドラフト前やルーキーシーズンは、その能力を疑問視する声があった。

 現在、渡邊はグリズリーズのツーウェイ契約選手という立場で、Gリーグ(※)のメンフィス・ハッスルとNBAのグリズリーズを行ったり来たりするルーキーシーズンを過ごしている。1月27日時点で、ハッスルでは20試合・平均33.9分出場しているのに対し、グリズリーズでは20試合でベンチ入りしているものの、実際に試合に出たのはそのうち8試合で平均6.5分。大半が勝敗の決着がついた後の出場で、ベンチから見るだけの試合が続いている。

※Gリーグ=NBAゲータレードリーグの略称。将来のNBA選手を育成する目的で発足。

 もちろん、当時のプリンスと今の渡邊では、立場も実績も比べものにならない。それでも、かつての自分と共通点が多い渡邊のことを、プリンスは「応援している」と言う。グリズリーズのフロントとしてだけでなく、自分の能力を周囲から評価してもらえなかった経験を持つ元選手として、自身の体験談やアドバイスを語ってくれた。

── 今シーズン、ここまで渡邊選手を見てきて、どんな印象を持っていますか?

「彼はとても賢い選手で、判断力に優れている。ディフェンスがとてもいい。他の新人選手より少し年が上なこともあって──ほとんどの選手は19、20歳ぐらいでリーグに入ってくるからね──彼はより成熟しているし、それは見ていればわかる。

 正しいプレーの仕方をよく知っているし、チームとして彼のことは評価している。コート上での経験をもう少し積む必要があるけれど、時間が経てばすばらしい選手になるだろう」

── 長身で手足が長く、ディフェンスに強いということで、あなたと比べる人もいますが、ご自身も似ているところがあると思いますか?

「僕らは身長が同じで、どちらも体格が細いので、似ているところがあると思う。それだけでなく、賢いプレーをするという面も同じだね。とくにディフェンス面。彼は華やかなプレーをするタイプではないけれど、チームが試合に勝つために貢献する選手だ。それは、試合を本当に理解している人にならわかる。

 僕も選手のころはそういうタイプのことをやっていたから、彼のプレーを見たらわかるし、僕自身を見ている気にもなる。とても練習熱心な努力家で、私たちが求めることはすべてやっている。このまま成長し続けることを願っているよ。彼にとって一番重要なことは、Gリーグの試合で成長し続け、その経験を積み重ねること。そうすれば、NBAで試合に出るようになったときに、その成果が出てくる」

── あなたも体格が細いということで、周囲から「NBAでどれだけできるのか?」と疑問視されたことがありますか?

「そうだね。それがNBAドラフトで順位が落ちた理由のひとつだったかもしれないと思っている。多くの人は僕の総合的なスキルは評価してくれていたけれど、一方で、十分な力強さがあるか疑っていた。

 僕にとって、それは驚きだった。だって、僕が行っていた高校(ロサンゼルス郊外のドミンゲス高校)は全米でも常にトップチームのひとつだったし、大学バスケットボール界でもトップのプログラム(ケンタッキー大)で4年間プレーした。そういったことを考えれば、疑問に思うわけがないと思うのだけれど、それでもそういう声はあった。今では、物事は理由があって起こると思っているけれど。

 彼についても、疑っている人は間違いなくいる。でも、一番大事なのは、正しい方向に進み続けること。他の人が言うことは気にせず、努力し続けること。グリズリーズのコーチなど経験のある人たちから、できるかぎりの情報を得ること。そうすれば、彼はこの先も上達し続けるだろう」

── 彼にはどんなアドバイスをしていますか?

「彼によく言っているのは、シーズン中には波があるだろうし、いい試合と悪い試合もあるけれど、一番重要なのは、そこからどうやって上達するかを理解すること。それは経験によって身につくものだ。だから最初のうちは、彼がある種のミスをしてもプレーさせるようにしている。

 一方で、それと同時に彼を助けようともしている。コーチングスタッフは一緒に試合の映像を見てサポートしている。あとは彼に対して、常に『正しいことをやるんだ』と言い続けることも大事だ」

── グリズリーズの試合でベンチ入りしても、今はまだあまり多くのプレータイムを得ることができていません。ベンチから試合を見ることで学べることは何でしょうか?

「試合の流れを見ること、試合のペースを見ること、チームメイトたちが何をしているかを見ること。自分が試合にインパクトを与えるために何ができるかを見ることだ。

 あとはチームの戦いから、何がうまくできているか、何がうまくいっていないかを見て、その解決策を考えること。そうすることで、試合に出る機会が巡ってきた時、どういう分野でチームを助けられるかがわかるだろう。彼は賢い選手だから、そういったことを見て判断することができる。プレーが実際に起こる前に、流れを読むことができる選手だからね。

 それは、僕も最初の年に経験したことのひとつだ。最初のシーズンは、ほとんどプレーしなかった。でも、試合を観察して学ぶことで得ることができたので、自分の番号が呼ばれて試合に出られるようになったとき、チームをすぐに助けることができたんだ」

── 今の渡邊選手は主にパワーフォワードでプレーしていますが、NBAでも今後、大学時代のようにウィングでプレーする可能性はあると思いますか?

「コート上で経験を積むことによって、どのポジションが彼に向いているのかがはっきりしてくると思う。今は4番(パワーフォワード)だったとしても、それが彼のポジションだと決定したわけではない。3番(スモールフォワード)でプレーすることもあるだろう。

 5、6年前に3をやっていた選手が、今は4をやっているケースは多々ある。以前より試合はずっと速くなったし、サイズの小さな選手が4をやるようにもなった。そのうち、いくつか複数のポジションをやることもあると思うし、今はポジションをひとつに固定する時代でもない。

 彼が他の選手に比べてユニークなのは、どちらのポジションもプレーするだけの総合的なスキルを持っているということだ。最近の4番は、かつての3番と同じぐらい外でプレーすることが増えてきた。唯一違うのは、4番だとピック&ロールのディフェンスをすることが多いということ。彼はそれをする能力もある。

 時間が経てば、彼のポジションがどこなのかはわかってくる。きっと、両方のポジションでプレーする機会が与えられるはずだ」