破竹の快進撃――。そんな表現がふさわしい。 日本がアジアカップ決勝で対戦するカタールは、これが初の決勝進出である。これまでにアジアカップではベスト8が最高成績で、ワールドカップに出場した経験もない。 それゆえ、アジアにおける序列では、…
破竹の快進撃――。そんな表現がふさわしい。
日本がアジアカップ決勝で対戦するカタールは、これが初の決勝進出である。これまでにアジアカップではベスト8が最高成績で、ワールドカップに出場した経験もない。
それゆえ、アジアにおける序列では、日本、韓国、オーストラリアなどのワールドカップ常連国に次ぐ第2グループの印象もあるが、今大会で見せている躍進は、決して伏兵の番狂わせではない。
「決してミラクルではない。この偉業は自分たちの手で成し遂げたものだ。それに値するプレーをピッチ上で見せていると思う」
チームを率いるフェリックス・サンチェス監督も、そう話しているが、3年後に控えた自国開催のワールドカップへ向け、これまで進めてきた育成・強化が実を結んだ必然の結果と考えていいだろう。むしろ、W杯ロシア大会ではアジア最終予選に進出しながら、出場権争いからは早々に脱落してしまったことのほうが、不思議なくらいだ。
事実、年代別代表では、2014年アジアU-19選手権で優勝するなど、すでにその成果は表れていた。今大会の登録メンバーを見ても、5年前のアジア制覇で中心的存在だった”黄金世代”をはじめ、1996年以降生まれの若い選手が11人も名を連ねている。
今大会では、グループリーグから準決勝まで6戦全勝。しかも、そのなかにはサウジアラビアや韓国という、昨年のワールドカップ出場国を下しての勝利も含まれている。堂々たる勝ち上がりは、一時的な幸運や勢いで成し遂げられたものではなく、実力でつかみ取った初の快挙である。
ベースとなるフォーメーションは、4-3-3。サンチェス監督をはじめ、スペイン人スタッフが育成・強化に当たってきたチームは、ポゼッションスタイルを志向する。
彼らがどんなサッカーを追求しているか。それが最もわかりやすく表れているのが、センターバックの人材だ。
背番号4のタレク・サルマン、背番号15のバッサム・アルラウィは、前者が身長179cm、後者は174cmと、ともにセンターバックとしては小柄な部類に属する。高さや強さを売りにするタイプではない。
だが、その一方で、ボールを扱う技術に長けており、キックの精度は高い。彼らには、自分でボールを前に持ち出し、効果的な縦パスを入れるなど、ビルドアップの起点としての役割が強く求められているのだ。
決勝トーナメント1回戦イラク戦では、バッサムが切れのある右足のキックで直接FKを決めていることからも、彼の武器が何であるかをうかがわせる。
バッサムが累積警告による出場停止だった準決勝UAE戦では、中盤で自在性を発揮する背番号16のMFブアレム・フーヒを代役として起用するあたりにも、スペイン人指揮官が、センターバックにどんな役割を期待しているかが表れる。
今大会、すでに8得点を挙げているアルモエズ・アリ
また、言うまでもなく、カタールの前線には優れたタレントがそろっている。
まずは、準決勝までに8ゴールを記録し、1大会での個人最多得点記録に並んだ、背番号19のFWアルモエズ・アリ。高い身体能力とシュート技術は特筆に値する。
そして、センターフォワードのアルモエズとともに3トップを形成するのは、左の背番号11、FWアクラム・アフィフと、右の背番号10、FWハサン・アルハイドス。アフィフは、スピードあるドリブルと意表を突いたパスを武器に、自由奔放なプレーを見せ、キャプテンでもあるアルハイドスは、全体のバランスを取りながら、プレーメイカーとウイングのふたつの役割をこなす。
加えて2列目には、パワフルなプレーで攻撃に推進力を与える、背番号6のMFアブデルアジズ・ハティムが控え、強力3トップを後方から支える。準々決勝で韓国を奈落の底に突き落すミドルシュートを叩き込んだのは、彼の左足だ。彼ら強力なアタッカー陣は、成長著しいカタールの”顔”役と言ってもいい。
しかしながら、それはいわば、表向きの看板だ。彼らが生きるかどうかは、センターバック次第。中盤の構成力はそれほど高くないこともあり、攻撃のカギはセンターバックが握っている。対戦相手である日本側から見れば、彼らを楽にプレーさせないことが、カタール封じのひとつのカギとなるだろう。
ただし、カタールが本来のポゼッションスタイルで、日本に真っ向勝負を挑んでくるかどうかは疑わしい。
というのも、準々決勝韓国戦では5バックで最終ラインをガッチリと固める、5-3-2のフォーメーションで、守備的な戦術を採っているからだ。
サンチェス監督が試合後、「DFラインの中央を固めたかった。選手は戦術を理解してよくやってくれた」と語ったように、カタールはショートパス主体のコンビネーションで攻め込んでくる韓国に、ボールポゼッション率では圧倒されながら、決定機をほとんど与えなかった。
だが、その代償としてと言うべきか、自分たちもまた、それまでの試合のようにはチャンスを作れなかった。いかに能力の高いFWとはいえ、韓国を相手に、アルモエズとアフィフの2トップだけで崩し切るのは至難の業。さすがの大会得点王最有力候補も、この試合では影が薄かった。
ハティムの決勝ゴールにしても、カウンターがハマったというより、左サイドで一度押し込み、完全にスローダウンした展開から生まれている。焦れた韓国が集中力を欠き、ボールへの寄せが甘くなったことで生まれたゴールとも言え、必ずしも守備的戦術が効果的だったわけではない。
結果的に勝利した以上、韓国との実力差を認めたうえで、うまく戦ったとも言えるが、裏を返せば、真っ向勝負を避けた分、本来の魅力は半減し、自らの首を絞めたとも言える。
はたして、サンチェス監督は日本に対してどちらの戦いを選択してくるのだろうか。
日本にとっては、どちらにも一長一短があり、一概にどちらが戦いやすいとは言えないが、カタールの選択次第で、おそらく試合展開は大きく変わる。
優勝の行方を占ううえで、まずはカタールの出方に注目である。