アジアカップでのカタールの躍進は目覚ましい。 グルーリーグでは、レバノン、北朝鮮、サウジアラビアを相手に3連勝し、首位通過。ノックアウトステージに入ってからも、伏兵イラクを破り、W杯出場常連国の韓国を下し、アルベルト・ザッケローニ監督…

 アジアカップでのカタールの躍進は目覚ましい。

 グルーリーグでは、レバノン、北朝鮮、サウジアラビアを相手に3連勝し、首位通過。ノックアウトステージに入ってからも、伏兵イラクを破り、W杯出場常連国の韓国を下し、アルベルト・ザッケローニ監督が率いる開催国UAEも一蹴し、日本との決勝戦に進んだ。

 6試合で無失点。その強力な”盾”が、”矛”の強さも高めたのか、16ゴールで大会最多得点も誇っている。



カタールをアジア杯決勝に導いたフェリックス・サンチェス・バス監督

 大会開幕前のカタールの評価は、「ダークホース」止まりだった。なぜ、カタールは快進撃を見せているのか?

 特筆すべきは、カタールサッカー界の育成、強化に2006年から10年以上も関わってきたスペイン人監督の存在だろう。

  カタール代表を率いるフェリックス・サンチェス・バス監督(43)は、決して有名な指揮官ではない。しかし、指導者として成熟してきた人物である。

 プロ選手の経歴はなく、20歳から指導者キャリアをスタート。バルセロナのユースで指導を始め、力をつけてきた。約10年、バルサのラ・マシア(育成組織)で経験を積み、セルジ・ロベルト(バルセロナ)、ジェラール・デウロフェウ(ワトフォード)など多くの逸材を育成した。

 そして2006年、カタールのアスパイア・アカデミーでディレクターをすることになったロベルト・オラベ(元レアル・ソシエダの監督などを務めた人物。現在のディレクターは同じくスペイン人のイバン・ブラーボ)に誘われる形で、海を渡ったという。

 フェリックスは、U‐15、U‐16、U‐17、U‐18と各年代別代表の選手たちを持ち上がりで指揮している。そして2014年にはアジアU‐19選手権で、同国史上初となる優勝を飾り、2015年のU‐20W杯出場を果たして、にわかに注目を集めるようになった。2016年のアジアU‐23選手権は4位となり、リオデジャネイロ五輪出場を逃したが(出場権は3位まで)、自らが手塩にかけてきた選手を率いて成長を示した。

 その結果、2017年7月から、ウルグアイ人監督ホルヘ・フォサッティに代わって、カタール代表を率いることになったのだ。

「バルサのラ・マシアはたくさんの地域から選手を集め、指導している。アスパイア・アカデミーはほとんどの少年がドーハ出身。センターの中に学校があるので、1日2回の練習が可能だ」

 フェリックスはスペインのスポーツ紙、マルカでそう語っている。アスパイア・アカデミーでは集中的なトレーニングによって、少数精鋭で選手たちを育てているという。同時に国内で進境著しい選手は、欧州で提携しているオイペン(ベルギー)、リーズ・ユナイテッド(イングランド)、ビジャレアル(スペイン)、オーゼール(フランス)といったクラブに”派遣”。積極的な武者修行で経験を重ねさせ、成長を促してきた。

 たとえば、アジアカップに参戦しているディフェンスリーダーのタリク・サルマン(アルサッド)は、アスパイア・アカデミーを”卒業”したあと、スペインのクラブを”放浪”している。アラベス、レアル・ソシエダのユースに所属したあと、スペイン3部(現在)クルトゥラル・レオネッサ(ではトップチームに合流。2017年には、4部アトレティコ・アストルガでリーグ戦にも出場した。

 アジアカップ最多得点のFWアルモエズ・アリ(レフウィヤ)もアスパイア・アカデミーで育ったあと、オーストリア1部のリンツに在籍後、クルトゥラル・レオネッサでプレー。2部昇格に貢献する決勝点を決めたこともある。現在の所属先は、大会メンバー全員がそうであるようにカタール国内のクラブだが、すでに海外での洗礼は受けているのだ。

 カタールでは、時間をかけた強化が実りつつある。タリク、アルモエズの他にも、意外性のある攻撃を仕掛けるFWアクラム・アフィフ、中盤で守備のフィルターになるアシム・マディボらは、それぞれUー19アジア王者のメンバー。いずれも、”フェリックス・チルドレン”だ。

 フェリックスが作り上げたチームは、戦術的にも実に柔軟。同じメンバーで長くプレーしていることもあるが、試合のなかで4-3-3、5-3-2と、システムを素早く変更することができる。それもアジアカップを勝ち抜いている理由のひとつと言えるだろう。

「すべて(DF、MF、FW)のラインで、チームとしてバランスが取れた戦い方をしなければならない。ソリッドなディフェンスで、相手が作るチャンスを最小限にする。その方向性で戦い続けることが大事だ」

 フェリックス監督は、堅実な戦い方を明確に示している。安定した守備で、効果的な攻撃を繰り出す。その準備は整ったのだろう。

 カタール国内リーグには、シャビ・エルナンデス(アルサッド)のような名選手が入ってきた影響も大きい。2022年カタールW杯に向けて盛り上がる気運。その熱を味方にしたフェリックス・カタールが、日本に牙をむく――。