オイペンはカタール資本のクラブということもあって、冬のキャンプ地はドーハだった。ストライカーは3人。ともに191cmのダビド・ポレ、サムエル・エセンデがセンターフォワードでプレーし、豊川雄太は右サイドハーフに回った。よって、ベルギーリ…
オイペンはカタール資本のクラブということもあって、冬のキャンプ地はドーハだった。ストライカーは3人。ともに191cmのダビド・ポレ、サムエル・エセンデがセンターフォワードでプレーし、豊川雄太は右サイドハーフに回った。よって、ベルギーリーグが再開したら自分はベンチスタートするものだと、豊川は思っていた。
ベルギーリーグで今季5ゴールをマークしている豊川雄太
だから、2019年最初の試合となった1月19日のロケレン戦で、ストライカーとして先発することが決まった時、豊川は少し驚いた。
「チーム内にワントップが3人もいるじゃないですか。冬の合宿では、俺がサイドに追いやられた。監督も試す機会を与えたと思う。今日、途中から出てきた9番の選手(ポレ)は調子がよく、ドーハの練習試合でも点を獲っていたので、自分はサブかなと思っていたんです。(ポジション争いが激しいのは)自分の成長につながるからいいですね。だから、自分の色を出そうとしています」
ポストプレーを得意とするポレ、力強さのあるエセンデ、ゴール前の嗅覚、献身性、俊敏性に秀でた豊川――。そのような三者三様のストライカー陣から、クロード・マケレレ監督は年明けの初戦に豊川を抜擢した。そして、豊川は指揮官の期待に見事に応えて40分、右からのクロスのこぼれ球に反応して今季5ゴール目を決めた。
このゴールで勢いに乗った豊川は、43分にも相手の死角を突いてニアに走り込んで惜しいシュートを放っている。豊川は80分、サポーターのチャントを受けながらベンチへ下がった。このクラブで個人チャントを持っているのは、豊川ただひとりである。
試合は4-1でオイペンの快勝。上機嫌のチーム関係者が「パーフェクト!」と、豊川を労いながら帰っていく。「個人としても、チームとしても、いいスタートが切れました」と、豊川もうれしそうだった。
「ワントップの評価は、やっぱりゴール数。だから、ふたケタは獲らないといけない。プレーオフも含めたら、10点獲るのは当然。できればレギュラーシーズンだけで、ふたケタにいきたいですね。そうしたら自信になると思うし、周りからの見方も変わると思う」
つまり、ふたケタゴールは、豊川にとって今季のノルマ。それをレギュラーシーズン30試合で達成することを目標としている。ロケレン戦を終えた時点でレギュラーシーズンは残り8試合だけに、固め取りする試合を作れば可能な数字だ。
一方、守備の面では、明らかにひとりで相手のボールを追いに行くシーンが減っていた。
どうやら、豊川はマケレレ監督から「追いすぎ」「走りすぎ」と言われたらしい。そのことは、私も昨年から気にかけていた。豊川がチームとの意図とは別にひとりでプレスをかけに行き、それがかわされてしまうと、オイペンは数的不利に陥ってしまう。また、守備のエネルギーをもっと攻撃で使ってほしいという思いもあった。
「自分ひとりが追うんじゃなくて、ミリセビッチが前に出て、俺が下がったりして。それで少し楽になりました」
ミリセビッチとは、ゲントが2014-2015シーズンにリーグ優勝したときの中心選手、MFのダニエル・ミリセビッチのことだ。オイペンには中盤にミリセビッチ、ルイス・ガルシアという秀でたパサーがいるだけに、もっと彼らから豊川がパスを引き出せないものかと私は思うことがある。その懸念は1月27日のアンデルレヒト戦、豊川が前線で孤立する形で表れてしまった。
アンデルレヒトは、今季クラブが揺らいで低迷しているとはいえ、やはりCBのカラ・ムボジとジェームズ・ローレンスはレベルが高く、強さ、速さ、しなやかさを誇っていた。前半に一度だけ豊川にチャンスが巡ってきたが、シュートを打つ直前にボールが高くバウンドしてしまい、空振りしてしまった。
ビルドアップの型を持たないオイペンは、なかなかボールを前に運べず。たまに豊川に向けてパスを出しても、カラかローレンスを背負った状況でボールを収めることは難しかった。
ストライカーとして先発した豊川は、1-2のビハインドを負った67分からトップ下に移り、79分でベンチに退いた。試合はそのままのスコアで進み、アンデルレヒトが勝利を収めた。
「全然、ダメでした。孤立していました。センターバックのふたりがやっぱり、今までやったなかでもいいと感じました。上に行くためには、ああいう規格外のでっかいCBふたり相手に、ある程度やれないと駄目だなと感じました。身長差(豊川は171cm、カラは192cm)なんて言っていられない。もっと頭を使ったプレーをやっていかないと」
豊川は「もっと足もとでボールを受ける回数を増やすように」と、マケレレ監督から要求されていたのだという。その観点からも、豊川の口からは反省の言葉ばかりが出た。
「僕が前でボールを収められなかったのは駄目なこと。だけど、キープできなくても、1秒だけでもタメを作って、味方にボールを落として、そこから攻撃に流れていく作業の手助けをしたい」
守備の負担は減ったものの、押され気味の試合展開だったので気持ちが守備に行きすぎ、攻撃のアクションが少なかったことも反省材料だった。
森保ジャパンが参戦する6月のコパ・アメリカについて、豊川は「出たいです」と言う。
「でも、今の結果では駄目。レギュラーシーズンで、どれだけ点を獲ることができるかどうか。そのことが、今後のサッカー人生に生きてくるのかなと思っています」
しっかりと自身の課題と向き合いつつ、豊川は初のA代表入りを狙っている。