今大会の日本の試合のなかでは、間違いなくベストゲームだ。 明らかに実力が劣る相手に苦戦していたチームが、同等以上の力を持つ相手との対戦で”目を覚ます”ケースがサッカーでは珍しくないが、この試合がまさにそれだった…
今大会の日本の試合のなかでは、間違いなくベストゲームだ。
明らかに実力が劣る相手に苦戦していたチームが、同等以上の力を持つ相手との対戦で”目を覚ます”ケースがサッカーでは珍しくないが、この試合がまさにそれだった。アジア最強のライバルを相手にしても、日本はまるで危なげなかった。
アジアカップ準決勝。日本はイランを3-0で一蹴した。これで、2011年カタール大会に続く、2大会ぶり5回目の決勝進出である。
強豪イラン相手に3-0と快勝した日本
近年、FIFAランキングでアジア最上位を保ち続けるイランと、昨年のワールドカップで、アジア勢として唯一決勝トーナメントに駒を進めた日本。アジアの頂上決戦と言ってもいい試合は、しかし、思わぬ大差で勝負がついた。
試合前の段階で言えば、イラン優勢の声が圧倒的だったと言っても大袈裟ではないだろう。
準々決勝までの5試合すべてが1点差の勝利だった日本に対し、イランは全5試合で12得点、無失点。グループリーグ最終戦こそスコアレスドローに終わったものの、それ以外の4試合は、相手を蹴散らすような強さで勝ち上がってきた。
何よりイランは、日本の弱点と言うべきフィジカル能力に優れている。高さやパワーで優位に立てる点は、日本劣勢の見立てを後押しする材料になりえた。
しかしながら、結論を先に言ってしまえば、イランは”対日本”を意識し過ぎた。
本来のイランは、技術的にも戦術的にも高い水準にあり、サイドからコンビネーションで崩していくこともできるチームである。ところが、日本に対しての強みを生かそうとするあまり、前線へのロングボールを放り込んでは肉弾戦を挑んできた。
確かに前半は、それなりの効果を発揮した。とくに20分過ぎからは、日本はほとんどイラン陣内に入ることができず、押し込まれる展開が前半終了まで続いた。
だが、その一方で、イランもさしたるチャンスは作れなかった。ロングボールはことごとくふたりのセンターバック、DF吉田麻也(サウサンプトン)とDF冨安健洋(シント・トロイデン)にはね返され、効果的な攻撃にはつながっていなかった。
そして後半11分、イランのカルロス・ケイロス監督曰く、「Innocent(よく言えば、純粋。悪く言えば、お人よし、といったところか)」なイランの選手たちが、インプレー中にもかかわらず、主審への抗議に夢中になるという大チョンボを犯し、そのスキを突かれて日本に先制を許すと、ロングボール一辺倒の攻撃はさらに加速。前がかりになってはセカンドボールを拾われ、カウンターを受ける悪循環に陥った。
有り体に言うならば、イランの自滅である。
とはいえ、決勝トーナメントに入って以降、試合内容の悪化が進行していた日本が、この試合では一転、攻守両面でチームとしての高い機能性を示していたのも確かだ。3-0の快勝は、けっしてイランが勝手にコケたことだけが理由ではない。
「(前までの試合と)何が変わったかと言われても……、基本的には変わっていない。勝利にこだわって戦うことは変わらない」
そう話す森保一監督の表現を拝借すれば、「やるべきベースや理想を持ったうえで、試合の現実と向き合って、(攻撃的か守備的かの)どちらかだけでなく、いろんな戦いを臨機応変に」やっている結果が、ときに辛勝であったり、ときに快勝であったりするだけのことなのだろうが、少なくとも過去2戦よりは、格段に試合内容はよくなっていた。
では、なぜこうも試合内容が一変したのか。
実力が拮抗したチーム同士の対戦でも、ときにちょっとしたかみ合わせの具合によって、一方のチームだけがやることなすことうまく行き、思わぬ大差がついてしまうことがある。このイラン戦もそんな試合のひとつではあるのだろうが、あえて日本側にその理由を求めるなら、もはや思い当たることはひとつしかない。
FW大迫勇也(ブレーメン)の復帰である。
ケガでしばらく戦列を離れ、グループリーグ初戦以来の先発出場となった大迫の存在が、攻撃を滑らかに回転させる中心軸となっていたのは間違いない。背番号15が縦パスを引き出し、それを合図に、2列目、3列目から選手が飛び出してくる。そんな流れるような攻撃が、久しぶりに何度も見られた。
大迫が日本代表をチームたらしめたのは、攻撃面だけではない。印象的だったのは、後半40分のシーンだ。
(イランから見て)右サイドでのイランボールのスローインが、相手の右センターバックに渡ると、大迫はそこへ目がけて猛ダッシュ。大迫のプレスを逃げるように、パスが左センターバックにつながれると、大迫はなおもボールを追いながら、視線を右に送った。大迫の動きに連動して、MF堂安律(フローニンゲン)が相手の左サイドバックにプレスをかけていれば、そこで”詰む”ことができるからだ。
しかし、堂安はすでに下がった位置にポジションを取っていたため、大迫はスピードを緩めてボールを追うのを止めた。すると、堂安が「ゴメン」とでも言うように右手を上げ、大迫に合図。結果的にプレスからのボール奪取は未遂に終わったが、プレーの意図やタイミングを周りに伝えようとする様子は、守備面においても大迫が、チームをチームとして機能させるためのリーダー的役割を担っていることをうかがわせた。
5度目の優勝を目指す日本にとって、頼もしいセンターフォワードの復帰は、これ以上ないほどに明るい材料である。
とはいえ、裏を返せば、大迫依存の度合いが目に見えて強まっているとも言える。その依存度の高さは、大会前に想像していた以上であり、大迫の復帰でこうもチームが変わってしまうことに、逆に不安も覚えてしまう。
この状況を、素直に喜んでいいものか。心境は複雑である。