こう言ってはなんだが、まさにイランがドジを踏んだ一戦だった。後半11分、日本が挙げた先制ゴールのシーンはその極めつきになる。 大迫勇也(ブレーメン)のパスを受けた南野拓実(ザルツブルク)が左サイドを前進。ペナルティエリアに侵入したかど…

 こう言ってはなんだが、まさにイランがドジを踏んだ一戦だった。後半11分、日本が挙げた先制ゴールのシーンはその極めつきになる。

 大迫勇也(ブレーメン)のパスを受けた南野拓実(ザルツブルク)が左サイドを前進。ペナルティエリアに侵入したかどうか微妙なところで、相手DFと交錯した。転倒する南野。イランは、すかさず数人の選手がオーストラリアのクリストファー・ビース主審のもとに駆け寄り、これはPKではないと、半分我を忘れて必死にアピールした。

 しかし、南野はすかさず立ち上がりプレーを続行。気がつくと、左サイドでフリーになっていた。おまけに、中央を固めていなければならないはずの選手たちも審判に駆け寄っていたので、大迫も中央でフリーに近い状態だった。

 南野の折り返しを大迫が頭で押し込むシーンは、「プレーは笛が鳴るまで止めてはならないという鉄則を守らないと、こんなひどい目に遭いますよ」という見本になりそうな、日本にとってはニンマリしたくなるイラン側のボーンヘッドだった。



イラン戦で2ゴールを挙げ、日本を決勝に導いた大迫勇也

 なぜイランは、こんなつまらないミスを犯したのか。焦りがあったことは確かだろう。おそらくイランは、もっとゲームをコントロールできると思っていたのではないか。勝てると踏んで臨んだにもかかわらず、前半から日本にゲームを少なからず支配された。こんなはずではなかったと、思惑通りに進まない展開に平常心を失っていた。

 ではなぜ、日本は戦前の予想とは裏腹にゲームを優勢に進めることができたのか。

 大迫に尽きる。彼がスタメンに復帰したことで、なによりボールの回りが滑らかになった。イランが日本にイメージしていたサッカーは、もっと地味で守備的なものだったはずだ。これなら勝てるとイメージしたものと、目の前で起きているものとの差に戸惑い、慌てた。

 イランにとって惜しかったのは、前半23分のシーンだった。ストライカーのサルダル・アズムンが、吉田麻也(サウサンプトン)のマークを外して放ったシュートである。もしこれが決まっていれば、結果はどうなっていたかわからない。

 ちなみにこのプレーは、GK権田修一(サガン鳥栖)が危なっかしいプレーをした直後に起きたピンチだった。ファインセーブもないわけではないが、この大会で1試合に1回の割合で不安定なプレーを見せている権田。この試合も例外ではなかった。

 後半22分、日本は大迫のPKで追加点を挙げたが、このシーンにもラッキーな要素が多分に含まれていた。南野の折り返しが、スライディングで止めにいったイランDFモルテザ・プーラリガンジの左手に当たると、ビース主審はPKスポットを指した。VARを経ても判定は変わらなかった。

 PKを取る人もいれば取らない人もいる、微妙な判定だ。故意ではないし、ボールのほうが勝手に当たってきたという感じさえした。主審の裁量に委ねられる判定だ。かつてのほうが取らない人は多かった。VARの時代だからこそPKになった部分もある。

 手に当たっていることは確かでも、それが許されるケースはある。だが、映像にその瞬間がバッチリ映っていれば、これがいかに例外的なケースかを訴えても説得力は高まらない。言い換えればそれは、あらゆるPK判定のなかでもっとも罪の浅い反則といえた。イラン側にとってみればこれほどの不運も珍しい。

 ボーンヘッドと不運。悪いことが2つ重なればイランに勝機はない。2-0になって、しばらくはイランも頑張っていたが、残り10分を切ると諦めムードを漂わせた。

 イランと日本。プレーの違いは、流れるか流れないかにあった。大迫がスタメンに復帰した日本が流れたのに対し、イランは流れなかった。選手個々の能力で上回るのは、あるいはイランかもしれない。ところが、そのプレーには連動性がない。コンビネーションプレーでもイランは日本に劣った。

 勤勉さという点でも日本のほうが上だ。主審に抗議している間に貴重な先制点を許す――なんて間抜けなことはまずしない。

 日本はロスタイムに原口元気(ハノーファー)のドリブルシュートが決まり、3-0で勝利した。日本は最大限うまくいった試合であり、イランはその逆、大失敗に終わった試合だった。

 次戦、決勝の相手はカタールかUAE。ただし、日本が2試合連続、最大限うまくいく試合をできる保証はない。

 日本に求められるのは、大迫以外のアタッカー陣が奮起することだ。大迫がいなくても流れるようなサッカーができなければならない。南野、原口、堂安律(フローニンゲン)。日本がこれまで苦戦を強いられてきた原因は、CFが決まらなかったこともあるが、この2列目の3人に大きな問題があった。

 周囲とどう絡むか。彼らに問われているのはコミュニケーション能力だ。

 原口は長友佑都(ガラタサライ)と、堂安は酒井宏樹(マルセイユ)ともっと頻繁に絡むべきだし、南野は柴崎岳(ヘタフェ)とパスを交換する回数を増やすべきである。サイドバックが登場する回数を増やさないとサッカーは流れない。

 長友、酒井の位置取りはまだまだ低い。森保監督は試合後の会見で「アグレッシブ」を強調したが、サイドバックの位置が低いとアグレッシブとは言えない。お尻の重たいサッカーに見える。パスコースも増えない。

 UAE、カタールはともに格下だ。イランにアグレッシブにいけたのは、チャレンジャー精神があったからだ。相手をリスペクトした結果、前向きになれたのだろうが、決勝戦の相手はイランのような実力派ではない。

「絶対に負けられない戦い」の呪縛にハマると危ない。番狂わせを許す可能性が高まる。注目したいポイントである。