事実上の決勝戦――。そう言ってしまうと、UAEとカタールに失礼だろうか。 だが、やはりアジアでもっとも力のあるふたつのチームの対戦ということで、各国メディアからの注目はすこぶる高い。ベトナム戦で試運転を済ませた大迫勇也が満を持してスタ…

 事実上の決勝戦――。そう言ってしまうと、UAEとカタールに失礼だろうか。

 だが、やはりアジアでもっとも力のあるふたつのチームの対戦ということで、各国メディアからの注目はすこぶる高い。



ベトナム戦で試運転を済ませた大迫勇也が満を持してスタメン復帰する

 50位の日本に対して29位というFIFAランクを持ち出すまでもなく、イランは現在、アジア最強のチームである。昨夏のロシアワールドカップでは、モロッコを下し、スペインには0−1の惜敗、ポルトガルとは1−1のドロー。グループステージ敗退を喫しながら、すばらしいファイトを繰り広げたのは記憶に新しい。

 ワールドカップ後にチームを刷新した日本とは異なり、イランはワールドカップのチームでそのままアジアカップに臨んでいる。メンバーを入れ替えたイラクとのグループステージ第3戦こそ0−0のドローに終わったが、残りの4試合もすべてクリーンシートで勝利。12得点0失点と、無類の強さを誇っている。

「アジアで一番強いと言われるイランに勝ってこそ、本当のアジアチャンピオンになれる」

 堂安律(フローニンゲン)はそう意気込むが、逆に言えば、日本の選手たちにとってもイランがアジア最強と認めざるを得ないほど、その強さは際立合っている。

 チームを率いるのは、かつてレアル・マドリードやポルトガル代表を率い、1996年〜1997年には名古屋グランパスの監督を務めたカルロス・ケイロスである。2011年からイランを率いるポルトガル人指揮官は「明日の相手はアジアでもっとも成功しているチームだ。偉大な選手、フットボールをしている」と日本のことをベタ褒めしたが、そのリップサービスは自信や余裕からくるものだろう。大会終了後の退任が決まっており、8年間の集大成として今大会にかける想いも強いはずだ。

 まるでヨーロッパの強豪国――。それが、イランの印象になる。パワー、スピード、テクニックに優れ、組織的なボール運びや豊富なビルドアップのパターン、意図的に作り出したスペースを使う3人目の動きなど、洗練されたチームだ。

 もっとも警戒すべきは、センターフォワードの20番サルダル・アズムンだ。ドリブル突破と高い決定力を併せ持ち、ひとりで決定的なシーンを作り出してしまう。

 だが、怖いのはアズムンだけではない。右ウイングの18番アリレザ・ジャハンバフシュは昨シーズンのオランダリーグの得点王で、どこからでもゴールを狙え、総合力の高いオールラウンダーのアタッカーだ。

 左ウイングで今大会3ゴールのメフディ・タレミは出場停止だが、代わりに出てくる選手も一級品。スーパーサブとして起用されてきた14番のサマン・ゴドスは飛び出しに長けたアタッカーで、10番のカリム・アンサリファルドも得点力を備えている。

 さらに、インサイドハーフの11番ヴァヒド・アミリは左利きのプレーメーカーで、流動的に動く攻撃陣の潤滑油になる存在。同じくインサイドハーフでキャプテンの21番アシュカン・デジャガはゲームメイク力に優れ、自らドリブルで運んだり、フィニッシュまで持ち込む”イランの心臓”だ。つまりは、タレント揃いなのだ。

 果たして、日本に勝算はないのか。いや、そんなことはないだろう。

「(イランの)失点はゼロですけど、決定機を作られている場面もあるし、穴はゼロではないと思うので、しっかり分析して、そこを突いていきたいと思います」と柴崎岳(ヘタフェ)は、きっぱりと言った。その数少ない穴が、アンカーのオミド・エブラヒミの脇のスペースや、敏捷性に欠けるセンターバックの裏のスペースだろう。また、オマーン戦、中国戦ともに、前半の早い時間帯に決定的なピンチを招いてもいる。日本としては、その試合への入り方の甘さを突きたい。

「積極的に行くと思います」と原口元気(ハノーファー)は、前からプレスを仕掛けていくことを示唆したが、ビルドアップの際にイランは、エブラヒミやデジャガがディフェンスラインに落ちて3バックを形成する。そこにどう圧力をかけるのかにも注目したい。

 日本にとって朗報なのは、右臀部痛だった大迫勇也(ブレーメン)にスタメン起用の目処が立ったことだ。準々決勝のベトナム戦の72分から試運転を済ませ、満を持してスタメンに復帰する。

「間違いなくバリエーションが増える」と長友佑都(ガラタサライ)が言えば、「困った時にボールをキープして収められる、時間を作ってくれる選手」と吉田麻也(サウサンプトン)もエースの復帰を歓迎する。

 そもそも武藤嘉紀(ニューカッスル・ユナイテッド)や北川航也(清水エスパルス)が”周りに生かされる”タイプであるのに対し、大迫は”周りを生かす”タイプ。大迫にボールが入ることで、2列目の選手たちがコンビネーションを発揮したり、前線に飛び出したりすることができる。

「彼のところですごく収まるので、僕らは出ていける。逆にあそこでタメがないと、僕らもなかなか出ていけない」と原口が言うように、大迫の復帰によって2列目が輝き始める可能性が高い。

 1992年以降、日本はイランと8回対戦していて、結果は日本の3勝2分2敗。決着のついた5試合はすべて1点差のゲームだったが、今回も1点を争う接戦になるのは確かだろう。その1点をもぎ取るために、あるいは勝負を決める2点目を奪うために、ポストプレーはもちろん、セットプレーにおいても大迫の存在は心強い。

 イラン戦前日、原口は過去何大会かの準決勝、決勝の映像を見てイメージを膨らませたという。そこには開催国のカタール、宿敵・韓国、そしてオーストラリアをなぎ倒し、「アジアのバルサ」と讃えられた2011年大会のザックジャパンの映像もあった。

 だが、本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)や香川真司(ドルトムント)を擁し、日本の強さを知らしめたあの大会でも、韓国との準決勝はPK戦までもつれ込み、決勝も延長戦へと突入したのだ。

「ちょっと奇跡的なことが重なる試合が多かったので、優勝するには少し、大ピンチじゃないけど、そういうところを切り抜けるような力が必要かなと」(原口)

 大ピンチを切り抜ける力、奇跡を呼び込むような存在になるのは果たして大迫か、あるいは原口を含む2列目の選手たちか、それとも北川や武藤といったスーパーサブか――。いずれにしても、このイラン戦が5度目のアジア制覇を成し遂げるための最大の山場であり、このチームの今後の成長を占ううえで大きな意味を持つ一戦になるのは間違いない。