祈るようにマッチポイントの結果を待つ大坂なおみ マッチポイントで、チャレンジのスクリーンを見つめる。大坂なおみは、ラケットを持ちながら手の平を合わせて祈るように結果を待った。時速179kmのセンターへのサービスがラインを捕らえてエースと…



祈るようにマッチポイントの結果を待つ大坂なおみ

 マッチポイントで、チャレンジのスクリーンを見つめる。大坂なおみは、ラケットを持ちながら手の平を合わせて祈るように結果を待った。時速179kmのセンターへのサービスがラインを捕らえてエースと判定され、勝利が決まった瞬間、彼女はコーチたちに向かって両手を上げながらジャンプしてめいっぱい喜びを表現した。

 全豪オープン準決勝で、第4シードの大坂(WTAランキング4位、1月14日づけ/以下同)は、第7シードのカロリナ・プリスコバ(8位、チェコ)を6-2、4-6、6-4で破りメルボルンの地で初の決勝進出を決めた。1968年のオープン化(プロ解禁)以降、日本人選手が全豪シングルスで決勝に進出するのは史上初だ。

 準決勝は、全豪独自の暑さ対策ルール・ヒートポリシーが適用されて、センターコートであるロッド・レーバーアリーナは屋根を閉じて試合が行なわれた。

 試合の立ち上がりは、大坂が最高の出来を見せた。「彼女(大坂)は、すばらしいテニスをした。正直これまでのキャリアでベストではないか」とプリスコバが認めざるを得ないほどで、大坂が得意のフォアハンドストロークでラリーの主導権を握ると、ウィナーを奪い、プリスコバのミスを誘った。

 第2セットでも第1ゲームを大坂がいきなりブレークしたが、プリスコバが第2ゲームをブレークバックして意地を見せる。大坂のストロークのコースを読み始め、フォアのダウンザラインを使って、大坂にバックのストロークをできるだけ打たせようとした。

 ワンセットオールになりファイナルセットに入っても、大坂とプリスコバは、トップ10選手同士のプライドがぶつかり合うハイクオリティーなテニスを展開した。

 第2ゲームで大坂は、プリスコバにブレークポイントを3回握られるが、フォアやバックのダウンザラインへのウィナーを決め、プリスコバのミスを引き出すなどして、サービスキープに成功。直後の第3ゲームでは、まさにピンチの後のチャンスで、大坂がフォアやバックのウィナーを次々に決めてラブゲームでブレークし、再び試合の流れを引き寄せる。

 結局大坂は、フォアウィナー21本、バックウィナー17本、サービスエース15本を含む56本のウィナーを決めてプリスコバを振り切った。また、ファーストサーブでのポイント獲得率が、第1セット81%、第2セット75%、ファイナルセット86%、試合全体で81%。プリスコバを相手に、高い確率を最後まで維持した。

 大坂は、もし決勝で勝てば、全豪初タイトル獲得と初のWTAランキング1位到達となるが、大坂は目標の一点だけを見つめブレがない。

「(世界ランキング)ナンバーワンのことを聞いて、(必要最低条件となる)準々決勝でプレーすることが大きなゴールのひとつでした。でも、私のメインゴールは、この大会で優勝することです。その後にランキングはついてくるものだと思います。ひとつのゴールにフォーカスするのがよりいいことだと思います」

 さらに大坂は、今大会での強さの要因を次のように自己分析している。

「この大会では、勝ちばかりにフォーカスし過ぎないようにしています。毎ポイント確実に100%トライしていくことがやりたいことです。幸いそれがうまくいっています」

 この大坂のスタイルは、彼女のツアーに帯同しているアレクサンドラ・バインコーチの教えに基づくものだ。

 全豪開幕前に、バインコーチに大坂が世界ナンバーワンになれる可能性があることを聞くと、そんな先のことを聞くなんて馬鹿げているという感じで一瞬顔をしかめた後、いつものように丁寧な口調でバイン流のテニス哲学を説明してくれた。

「なおみもチームもそのこと(世界1位)は考えていません。毎日ハードに取り組んで、ランキングは後からついてくるのです。(1回戦の前に)ナンバーワンのことは考えていませんし、グランドスラムタイトルのことは考えません。その日できるベストのことを考えるのです。

 そして、明日できるベストを考え、また明日、そのまた明日……。彼女がそれをこなしていったとき、試合に勝てる日が訪れる。そして、また明日です。できるだけ回復に努めて、また次の試合です。その繰り返しを毎日ゆっくりしていき、最終的にナンバーワンを自分の手に引き寄せることができるのです」

 大坂は、グランドスラムで昨年のUSオープン以来通算2回目の決勝進出。これは、オープン化以降、日本人選手でグランドスラム2大会連続の決勝進出は初めての快挙となる。

 2回目のグランドスラム決勝を戦うにあたって、大坂はやはりバイン流で戦う姿勢を固めている。

「長い期間(大会2週間)たくさんの試合で勝てる能力が自分にあることを知り、USオープンで優勝できた知識があることはたしかに助けになります。この大会(全豪)でプレーしている間、そう考えていました。でも、同時にそのことを考え過ぎたくないとも思いました」

 決勝で大坂は、同じく初めて全豪決勝に進出してきた第8シードのペトラ・クビトバ(6位、チェコ)と初対戦する。28歳のクビトバは、2011年と2014年のウィンブルドンチャンピオンで、最高2位まで上がったことのある左利きのビッグサーバーだ。

「ウィンブルドンの決勝で戦う彼女(クビトバ)を見ました。彼女はすばらしい選手ですから、とてもタフな試合になるでしょう」(大坂)

 注目の世界ナンバーワン争いは、決勝で決着がつくことになる。全豪決勝進出時点で、大坂が6330点、クビトバが6290点で、全豪のタイトルと世界ナンバーワンをかけた大一番になる。

 すでに大坂は、準決勝で新女王になるのにふさわしい世界最高クオリティーのテニスを披露してみせている。全豪初タイトルと初の世界ナンバーワンランキングによって、華を添えられるか。21歳の大坂が、名実共に世界最高の選手に上り詰めるのかどうか、歴史的瞬間まであと1勝だ。