勝利を重ねるごとに症状は悪化の一途をたどっている。森保ジャパンは、勝利という事実以外に喜ぶ箇所が見当たらない試合をここまで続けてきた。アジア杯5試合目にあたるベトナム戦も、残念なことに例外ではなかった。 北川航也以外はサウジアラビア戦…

 勝利を重ねるごとに症状は悪化の一途をたどっている。森保ジャパンは、勝利という事実以外に喜ぶ箇所が見当たらない試合をここまで続けてきた。アジア杯5試合目にあたるベトナム戦も、残念なことに例外ではなかった。

 


北川航也以外はサウジアラビア戦と同じスタメンで戦ったベトナム戦の日本代表

 サウジアラビアもそうだったが、日本のメディアは試合が近づくにつれて相手をリスペクトしだす。ベトナムがどれほど簡単ではない相手かをいっせいに謳う。森保一監督しかり。「固い守備。それに加えて、攻撃陣にも何人かいい選手がいる」と、サウジアラビア戦後、コメントしていたが、ベトナムとの一戦を1-0で終えた後の記者会見でも、同じことを話していた。そう言わざるを得なかったのだろう。

 ベトナムは強くなかった。日本が対戦した5カ国の中ではウズベキスタン、サウジアラビア、オマーンに次ぐ4番手。トルクメニスタン級だった。

 確かに、かつてのような貧弱さは解消されていた。プレーに力強さが増していたが、各局面におけるパスの選択肢はほぼひとつで、そこが消されると出しどころがなくなる、まさにレベルの低いサッカーだった。日本より2ランク下のチームと言うべきだろう。

 そのうえ5バックである。後ろで守ろうとするサッカーだ。堅守である理由をそこに求めるのだとすれば、その堅守はたかがしれている。旧態依然たるサッカーの典型だ。マイボールに転じた時、その分だけ攻撃は人数不足を招く。韓国人の朴恒緒(パク・ハンソ)監督率いるベトナム代表のサッカーは、率直に言って前時代的。もっと言えば弱気だった。評判倒れ。買いかぶり過ぎと言った方が適切な、日本にとってはやりやすい、歓迎すべき相手だった。

 ところが日本は攻めあぐむ。引いた相手にどう対処するか。共通理解のないサッカーを繰り広げた。常套手段であるサイド攻撃の精神はゼロ。原口元気(ハノーファー)はなぜ外に開かず、真ん中にポジションを取るのか。ディフェンダーに背を向けてプレーしようとするのか。まったく理解できなかった。

 初めてつかんだチャンスは、なんと前半24分という遅さである。その原口が、北川航也(清水エスパルス)から受けたパスをコーナーキックにする。キッカーは柴崎岳(ヘタフェ)。そのボールを吉田麻也(サウサンプトン)がヘディングで叩き込んだかに見えた。

 しかし、ゴールを決めた吉田に笑顔はない。今大会、初めてVARが導入された瞬間だった。吉田にハンドが認められ、判定はノーゴール。それまでまるで面白みに欠けていた試合は、これを機に活気づいた。

 28分。ベトナムのエース、グエン・コン・フォンが左サイドから単独ドリブルで突破。ゴール右ポスト脇に、際どいシュートを放つ。

 日本はその1分後、右をえぐった柴崎の折り返しを冨安健洋(シント・トロイデン)がヘッド。相手GKがこれをストップしたが、日本の対戦相手のGKの際どいセーブを見たのは久しぶりだった。少なくとも前戦のサウジアラビア戦では一度も拝むことはできなかったのだ。

 ところがこのシュートシーンは、この試合で一番のビッグチャンスになった。さらに、日本はシュート数でもベトナムを下回ることになった(11本対12本)。

 だが、森保監督の試合後の分析は独善的だった。「決定的なチャンスを何度もつかんだ。いつも言われていることですが、決定力さえあれば……」と、述べたが、事実誤認もはなはだしいとはこのことである。日本は何となく押していたにすぎない。

 日本が招いた最大のピンチは前半39分。自軍ゴール前で権田修一(サガン鳥栖)と吉田が行なったパス交換だった。権田が出した余裕のないパスを吉田がトラップミス。そこを相手に突かれドタバタしたシーンだが、彼らのやりとりに、自らが2ランク上回っているという余裕を感じなかった。

 権田の不安定さは言うに及ばず、キャプテン吉田もあり得ないミスパスを数本提供していた。年齢のことは言いたくないが、現在30歳。2022年W杯時は34歳になる。向こう4年間、代表の中心にい続けることは難しいのではないか。

 期待の若手の富安も、相手の10番、グエン・コン・フオンにやられていた。ドタドタしたステップを踏み、不安定さを露呈させた。センターバックとGK。その人材難ははなはだしい。

 MFでは柴崎に元気がない。冴えのないプレーを続けている。調子が上がってきている様子がない。

 前線は4人全員が不合格だ。原口は代表歴が長いのにポジションワークに難がある。その結果、プレーにうまく絡めずにいる。南野拓実(ザルツブルク)は試合を重ねるごとにプレーの質が落ちている。もはやすっかり並の選手だ。

 堂安律(フローニンゲン)は、通常より開いて構えていた。ボールを受ける機会も原口に比べて多かったが、その分、力不足が目立ってしまった。なにより、局面を打開する力に欠ける。これはアタッカーにおいては致命的とも言える問題である。プレーの種類が少なく単調。スピード感もない。代表でスタメンを張り続ける力はない。現在20歳。これから伸びる要素があるのか、現在がマックスなのか、微妙だ。将来はバラ色という感じではない。

 センターフォワードの北川は、いったい何度ボールに絡んだのだろうか。1トップ下で構える南野とのコンビネーションの悪さも問題だが、CFはチームの中心だ。CFを中心にゲームが回っているチームは強いと言われるが、森保ジャパンはその反対なのだ。あらゆるポジションの中で、CFの存在感が最も希薄なサッカーをしている。

 疎外されていると言うべきか、入り込もうとしていないのか。サウジ戦で先発した武藤嘉紀(ニューカッスル)にもあてはまる問題だが、チームで一番偉くなくてはいけない人が、一番偉くないチーム構成に問題がある。

 ただし、真っ先に選手を責める気にはなれない。スタメンはこの日も「Aチーム」だった。中2日で行なわれた試合にもかかわらず、前戦から武藤(累積警告)と北川が入れ替わっただけ。調子の上がらない選手、休ませたほうが得策に見える選手を使い続け、さらに状態を悪化させているという印象だ。

 森保監督は試合後こう述べた。「トレーニングできない状況だったので」。

 言葉足らずで、本当にわかりにくいのだけれど、中2日で、新しい選手を入れて練習している時間がなかったから、変えなかったと言うことらしい。監督に向いているとはいえない思考法だろう。

 その一方で、こうも語った。

「チームとしての経験値がこれでまたひとつ上がった」

 前戦、サウジ戦の後はこうも述べていた。

「チームとして守り切るというオプションが増えた」

 森保監督が言うチームとはいったい何か。代表チームはサンフレッチェ広島ではない。限定されたメンバーで戦う集団ではない。2022年、カタールW杯本番に、このメンバーで生き残っている選手はどれほどいるか。半分いればいい方である。代表には循環する宿命がある。チーム作りの作り方に問題ありと言わざるを得ない。

 残念ながら、森保監督に「おっ、この監督やるな」と思ったことは、これまで一度もない。逆にダメだなと思うことが急増している。

 ベトナム戦の決勝ゴールは、後半、堂安が蹴ったPKだった。堂安への反則を主審は見逃したが、VAR判定で相手の足が掛かっていることが判明。事なきを得た恰好だ。

 ベトナムは終盤、5バックから4バックに布陣を変更し、攻撃的に出た。しかし、テンポは上がらずじまい。0-1で敗れた。日本は大苦戦を強いられたが、それはベトナムが健闘したからではない。日本は自分自身に問題を抱えているのだ。

 喜べない勝利と言いたくなる理由を、森保監督は気がついていないようだ。この状況が続くなら、監督のクビをすげ替えるしかない。とりあえず次戦、準決勝のイラン戦のスタメンに注目したい。ベトナム戦と同じなら完全にアウトだと思う。