最後まで戦ってほしかったという願いと同時に、錦織圭のベスト8までの厳しい道のりを踏まえると、疲れが残っていて当然という見方もあった。とはいえ、錦織にとっては後味の悪い幕引きになってしまったことは否めない。悔しさを持ってジョコビッチ戦を…

 最後まで戦ってほしかったという願いと同時に、錦織圭のベスト8までの厳しい道のりを踏まえると、疲れが残っていて当然という見方もあった。とはいえ、錦織にとっては後味の悪い幕引きになってしまったことは否めない。



悔しさを持ってジョコビッチ戦を棄権した錦織圭

 第8シードの錦織(ATPランキング9位、1月14日づけ/以下同)は、全豪オープン準々決勝で、第1シードのノバク・ジョコビッチ(1位、セルビア)と対戦したが、1-6、1-4のところで途中棄権をして、初のベスト4入りはならなかった。

 準々決勝には、「もちろん疲れはありましたし、足やいろんなところにきていましたけど、痛みではなかった。どうにかなるかと思っていましたが……」とコートに立ったが、第1セット第4ゲームで、錦織がサーブを打った時に異変は起きた。

「4ゲームでサーブを打っている時に、強い痛みを右の太ももに感じてから、右足でなかなか蹴ることができなくなった。曲げるのも痛かったので、ほとんどの動きが痛みに変わってしまい、そこから動けなくなってしまった」

 錦織は、第1セットを取られた後、メディカルタイムを取って右足の治療と右太ももにサポーターを巻いてコートに戻ったものの、満足にボールを追えない状況は変わらなかった。そして、第2セット第5ゲームで錦織が2度目のサービスブレークを許した後に、途中棄権を申し出た。

「自分のサーブも思うように打てなかったし、動けなかったので、相手が誰であろうと、打つのは難しかったかもしれないですね」

 こう振り返った錦織は、準々決勝までに5セットマッチを3回も消化し、4回戦では、5時間5分におよぶ2セットダウンからの逆転劇を演じた。5時間以上の試合をして回復しきれなかった錦織をジョコビッチは気遣った。

「痛みを伴った彼を見るのはしのびない。彼がこんな形でグランドスラムを終えるのは本意ではないことはわかっています。彼は、この大会でいくつかマラソンマッチを戦ったから、彼の体はその代価を支払わざるを得なかったんじゃないかな」

 これでジョコビッチとの対戦成績は錦織の2勝16敗となり、連敗も15となった。

 錦織は、昨年日本でのオフを終えて、2019年シーズンに向けたトレーニングを再開させる前に、こんなことを語っていた。

「攻撃的なテニスに加えて、何かさらにタフさや力強さが、ストロークの面でも出てくれば、相手にとってもやりにくくなるのかなと思う。自分が苦手にしているジョコビッチみたいな、ああいうテニスも必要かなと思う。自分の攻めるスタイルにプラスできるものを、さらにつけていきたいと思います。攻めるだけでは勝てないので、もっと強化して、弱点をなくしていきたいですね」

 だが、31歳で世界王者に返り咲いたジョコビッチと、29歳の錦織との差は縮まるどころか、広がったようにも見える。今回のメルボルンを含めて、これまでもジョコビッチへの挑戦権を得るまでの過程で、錦織がエネルギーをほぼ使ってしまっていることは多かった。

 たとえば、2014年マスターズ1000・マイアミ大会では、準々決勝でロジャー・フェデラーを2時間8分におよんだ3セットで倒した後、続くジョコビッチとの準決勝を左股関節の炎症で棄権した。

 また、2018年USオープンでは、準々決勝でマリン・チリッチに4時間8分におよぶ5セットで勝利した後、準決勝でジョコビッチと対戦してストレートで敗れている。

「彼(ジョコビッチ)とやる時は、いつも満身創痍というか、いちばんきつい時に彼との対戦が来るので、なかなかタイミングも味方をしてくれないですけど……。フィジカルも強くなっているし、このままやっていけば、強くなっていけると思います」

 昨シーズン錦織は、右手首のケガから復帰し、強い体を手に入れて戦列復帰を果たしたが、フィジカルだけでなくメンタル面なども、ジョコビッチの域にはまだ達していない。そのことは錦織自身も認識している。

「体の強さはまだまだ必要だろうし、戦っていく気持ちと体力はもうちょっと必要なのかなと思います」

 全豪をベスト8で終えた錦織は、大会後の1月28日づけのATPランキングで7位に上昇する予定だ。開幕週のATPブリスベン大会で初優勝して最高のスタートを切って、全豪ベスト8もけっして悪い成績ではなく、2019年シーズンは上々の滑り出しと言える。

「いいスタートだと思いますけど、やっぱりどうしてもこれからグランドスラムでの活躍が一番重要になってきますし、ベスト8を超えられないというのはすごく悔いは残るので、やりきれない思いはあります。ひたすら頑張っていくしかないので、気持ちを切り替えて次からまたやりたい」

 2019年シーズンの錦織の目標を、ダンテ・ボッティーニコーチは次のように語る。

「これまでと同じです。ATPマスターズ1000のタイトル、そして、グランドスラムタイトルです。そして、シーズンをトップ5で終えることが目標です。圭は必ずトップ5に戻れると思っていますし、トップ5に入ることがとても大切だとも思っています」

 今回の錦織のケガの早い回復が先決だが、マスターズ1000やグランドスラムの初タイトル獲得はけっして簡単な道のりではない。ジョコビッチやラファエル・ナダル(2位、スペイン)らベテラン勢はいまだ健在で、アレクサンドラ・ズベレフ(4位、ドイツ)やステファノ・チチパス(15位、ギリシア)ら若手の成長も著しい。錦織が勝ち抜いていくのはやはり容易ではない。

 今後、グランドスラムでの2週間を戦うビジョン、グランドスラムへピークを持っていくためのスケジュールの立て方や戦略などを、マイケル・チャンコーチやボッティーニコーチらチームメンバーとあらためて話し合うのだろう。

 錦織のいいところはけっしてあきらめないところだ。挑戦の歩みを止めない限り、必ず道は開けて、グランドスラム優勝の可能性はふくらんでいくはずだ。