森保一監督にとって、アジアカップの準々決勝で対戦するベトナムは、因縁の相手と言っていい。 昨年8月に行なわれたアジア大会で森保監督率いるU−21日本代表は、グループステージ第3戦でU−23ベトナム代表と対戦し、0−1で敗れているからだ…
森保一監督にとって、アジアカップの準々決勝で対戦するベトナムは、因縁の相手と言っていい。
昨年8月に行なわれたアジア大会で森保監督率いるU−21日本代表は、グループステージ第3戦でU−23ベトナム代表と対戦し、0−1で敗れているからだ。
「永遠に走れるんじゃないか」とベトナムの運動量に驚く長友佑都
前日会見で、そのことについて問われた森保監督は、「私のなかでベトナムと対戦するにあたって、心境の変化はありません」と答えた。おそらく、その言葉は本心だろう。大会も、カテゴリーも異なるから、リベンジを果たすという考えはないに違いない。
だが、アジア大会で敗れたことは、今回の対戦において大きなメリットとして働く。少なくとも森保監督自身は、ベトナムに対して細心の注意を払うはずだからだ。
FIFAランク100位だからといって、侮ってはいけない。今、アジアでもっとも成長著しいチームがベトナムなのだ。
近年、育成に力を注いできたベトナムは、2017年にU−20ワールドカップに初出場を果たすと、昨年1月に行なわれたU−23アジア選手権で準優勝に輝く(日本はベスト8敗退)。さらに、前述したアジア大会ではグループステージで日本を破り、ベスト4まで勝ち進み(日本は準優勝)、昨年12月に開催されたスズキカップ(東南アジア選手権)では10年ぶりにチャンピオンに返り咲いたのだ。
チームを率いるのは、アンダーカテゴリーの代表監督も兼任する韓国人のパク・ハンソ監督で、U−23ベトナム代表の選手の多くがA代表に引き上げられている。アジア大会に出場した12人の選手が今大会にエントリーし、そのなかには日本戦で先発した8人が含まれている。
アジア大会では、開始早々からハイプレスを仕掛けてきたベトナムが、ディフェンスラインから攻撃を組み立てようとする日本のミスを誘い、先制点を奪っている。日本の若き代表選手たちはベトナムの激しいプレスに腰砕けのような状態になり、ハーフタイムに森保監督は思わず厳しい檄を飛ばしている。
こうした彼らの勇敢な姿勢は、今大会でも引き継がれている。
たとえば、0−2と敗れたグループステージ第2戦のイラン戦でも、この優勝候補筆頭のチームに対して真っ向勝負を挑み、ゲームモデルに基づいてボールを前進させ、アタッキングサードでは4人、5人の選手が飛び出した。基本布陣は3−4−3で、押し込まれた際には4−5−1のブロックを敷いて守るが、ただ自陣に引きこもっているわけではないのだ。
中心選手のひとりは1トップを務める10番、「ベトナムのメッシ」ことグエン・コン・フオンだ。多彩なゴールパターンを誇るストライカーで、今大会でも2ゴールをマーク。かつてJ2の水戸ホーリーホックに所属したこともあるから、「日本サッカーに関しての知識はある」と本人も自信をのぞかせる。
右シャドーに入る19番のグエン・クアン・ハイもクオリティの高い選手だ。左利きのアタッカーで、カットインしてゴールを陥れる。U−23アジア選手権では5ゴールをマークし、アジア大会の日本戦でゴールを奪ったのも、この21歳のアタッカーだった。
さらに、今大会ではスーパーサブとして起用されている9番のグエン・バン・トアンも警戒したい。金髪がトレードマークで、圧倒的なスピードでディフェンスラインを切り裂き、果敢にゴールを狙ってくる。
全体的に運動量が豊富なのも特徴で、これには長友佑都(ガラタサライ)も「彼らは永遠に走れるんじゃないかっていうくらい走りますよ。(ラウンド16の)ヨルダン戦を見たけれど、ヨルダンのほうが身体は大きくてフィジカルが強いんだけど、彼らは走りで圧倒していた」と警戒心をのぞかせる。
一方、日本の焦点のひとつは、右臀部痛の大迫勇也(ブレーメン)が試合に出られるのかどうか、だろう。
このベトナム戦は、ラウンド16のサウジアラビア戦から中2日で行なわれるため、とりわけ消耗の激しい攻撃陣は、可能ならメンバーを入れ替えたい。加えて、ラウンド16のサウジアラビア戦で通算2枚目のイエローカードをもらった武藤嘉紀(ニューカッスル・ユナイテッド)の出場停止が決まっている。
それゆえ、大迫の出場が可能なら、攻撃陣はサウジアラビア戦の武藤、原口元気(ハノーファー)、南野拓実(ザルツブルク)、堂安律(フローニンゲン)の4人をすべて入れ替え、大迫、乾貴士、北川航也(清水エスパルス)、伊東純也(柏レイソル)を送り出す。大迫の出場が難しければ、南野を残すことになるだろう。
反対に、ボランチから後方は、サウジアラビア戦で完封勝利を飾り、安定しているだけにメンバーを変更しにくい。ボランチに塩谷司(アルアイン)を、右サイドサイドバックに室屋成(FC東京)を起用するかどうか。変更があったとしても、最小限に留めるのではないだろうか。
また、高さにおいては日本のほうに明らかに分があるだけに、サウジアラビア戦同様、セットプレーがカギを握るに違いない。その意味でも、キッカーを務めるボランチの柴崎岳(ヘタフェ)は、ベトナム戦に出場するはずだ。
いずれにしても、FIFAランク100位とはいえ、ベトナムは油断のできない相手であることに違いはない。だから、昨年8月のアジア大会で対戦し、敗れていてよかった。試合に乗り切れないまま開始早々に失点したアジア大会を教訓に、手堅く、賢くゲームを進め、前回大会で敗れた8強の壁を乗り越えたい。