世界の一流スポーツ組織や関連企業の最新トピックが一度に聴ける『Sport Innovation Summit Tokyo 2018(スポーツ・イノベーション・サミット・トーキョー・2018)(以下:SiS)』が、2018年11月29日から…
世界の一流スポーツ組織や関連企業の最新トピックが一度に聴ける『Sport Innovation Summit Tokyo 2018(スポーツ・イノベーション・サミット・トーキョー・2018)(以下:SiS)』が、2018年11月29日から2日間にわたって、東京・六本木のアカデミーヒルズにて開催された。
SiSは2014年にメキシコでスタート。スポーツやその周辺で起きているイノベーションに特化したカンファレンスとして、世界各地で起きているトレンドを紹介し、ディスカッションの『場』を提供することを目的として行われている。
日本初開催となった今回、スポーツビジネスに関わる第一線のプロフェッショナルたちが集結し、熱い講演・ディスカッションが繰り広げられた。後編では、FCバルセロナのバルサ・イノベーションハブ最高知識責任者アルベルト・ムンデット氏と、ラ・リーガ(リーガ・エスパニョーラ)のデジタル戦略ディレクターであるアルフレッド・ベルメージョ氏の講演模様をお届けする。
取材・文/佐藤主祥
世界最高峰のサッカークラブであるFCバルセロナ(以下、バルサ)は、2015〜21年にかけて、“バルサ・イノベーションハブ”というプロジェクトを進めている。これは、バルサが保有するスポーツ知識を多くの専門家に知ってもらい、サッカー以外の分野にも貢献していこうという考えのもと立ち上がったプロジェクト。何十年にもわたって蓄積してきたノウハウを各国のスポーツクラブや選手たちと共有し、全スポーツ界の変容を手助けしていく。
そのひとつとして、プレースタイルの共有がある。バルサは常に試合を支配するというプレースタイルに忠実なクラブ。多くの選手たちはカンテラ(下部組織)時代からポゼッションサッカーを追求しているため、ヨーロッパのどのクラブよりも高い支配率を残している。現在、Jリーグ・ヴィッセル神戸に所属するアンドレス・イニエスタもカンテラ出身選手として知られている。
そのプレースタイルを構築し、他クラブとも共有しているという技術を、今回のカンファレンスで公開してくれた。
「AI技術を使って、選手間の距離やスペースをデータ化したものです。我々は毎試合このデータを分析し、プレイヤーの1つの動きによってどれだけスペースが生まれるのか、ということを数値化しています。それにより、自分たちのスペースの作り方、逆に相手チームのスペースの作り方がわかり、最終的にどのようにしてゴールにつながったのかが理解できるわけです」
バルサはこうした緻密なデータをクラブ全体に共有しているため、下部組織からトップチームまでプレースタイルが一貫している。そしてこのシステムをサッカーだけではなく、他のプロスポーツにも活用。ヨーロッパサッカーにおいて圧倒的な地位を築き上げたこの知識と技術を使い、一人ひとりのアスリートとしての可能性を見出していきたいのだと、ムンデット氏は話す。
だが、そういったクラブの情報を、ライバルである他のチームにも公開することに対して抵抗はなかったのだろうか。
「みなさんと共有することに対しては、なんの戸惑いもありませんでした。多くの人にバルサのサッカーを知っていただくことができますし、共有することで、我々としても学ぶことがたくさんあると思ったからです。システムやサービスを開発することはもちろん重要ですが、最終的にはクラブ以外のところでも影響を与えていきたい。そう考えています。
もし秘密裏に物事を行っていったならば、我々は何か大事なものを見落としてしまうでしょう。ですから才能を培っていくスポーツの素晴らしさを実証していくためには、オープンでなければいけません。毎週末、しっかりとアスリートが活躍し、チームが勝っていくためにはシェアリングはとても重要です。我々は、シェアすることで前に進むことができ、クラブとして常に発展していくことができるのです」
本当に強いクラブだからこそ、価値のある情報は包み隠さずオープンに伝えていき、それによって寄せられた反響をもとに、さらなる改善・進化を目指していく。こうした努力の積み重ねが、世界のサッカーシーンにおいて最も強力なブランドとして成長し、各国のフットボールファンを魅了し続けている。 続いて、バルサが加盟するラ・リーガのデジタル戦略ディレクターであるアルフレッド・ベルメージョ氏が登壇。サッカーリーグにおけるスポーツマーケティングについて語った。
ラ・リーガといえば、世界で最も人気のあるプロスポーツリーグのひとつ。バルサやレアル・マドリード、アトレティコ・マドリードなど、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でお馴染みの強豪クラブが揃う。
そんなフットボーラーなら誰しもが憧れる『世界最高峰のリーグ』では、どのような経営戦略を掲げているのだろうか。ベルメージョ氏は、リーグ運営において現在大きな柱となっている“デジタル戦略”についてこう説明する。
「現代はスマートフォンやSNSなどの普及によってIT化・デジタル化が進んでいます。それはスポーツ界も同様で、つねにウェブ・ITを取り入れていかなければなりません。その中で我々は、1年半前にラ・リーガ専用のアプリを作りました。それまでフェイスブックやツイッターといったSNSはありましたが、将来を考え、よりグローバルにリーグを盛り上げていこうと考えたからです」
ベルメージョ氏が生み出したのは、『La Liga − Spanish Football League』という新しいサッカー公式アプリ。ラ・リーガや国際サッカーの最新情報を入手できるだけではなく、お気に入りチームのカラーとチームのコンテンツをカスタマイズし、クラブ最新ニュース、選手の配置、統計、ソーシャルネットワーク、ビデオサマリー、試合プレビューなど、全ての情報をすばやく簡単に手に入れることができる。
そして、ブランドの認知度を高めていくべく、開催国のスペイン以外の国や地域にも対応したサービスへと改良を加えていった。 「我々は、このアプリをさらにグローバルなものにしていくために、言語を増やしていきました。最初はスペイン語と英語だけだったのですが、現在は中国語やアラビア語など計10以上の言語に対応しています。国や地域に応じて、ユーザーにメッセージやコンテンツを提供していくことが、ファン層の拡大を目指す上では大きな戦略なのです」
しかし、ユーザーを増やすことには成功しても、週末に試合が行われるサッカーならではの課題があった。リーグ戦は主に金〜日曜日に試合が組まれているため、アプリの視聴時間・利用頻度が、試合がない平日に大きく落ちてしまっていたのだ。ベルメージョ氏は、その課題を改善するべく、ある施策を打った。
「各試合のハイライト動画を制作する中で、ただゴールシーンやスーパープレーをまとめるだけではなく、試合の様々なデータを数値化し、より分かりやすくプレーを振り返ってもらえるようにしました。1つのゴールに結びつくまでにパスが何回つながったのか、ゴールにはどの選手が関与していたのかなど、アプリでしか見られないハイライト動画を楽しむことができるようにしています。そういったオリジナルコンテンツを提供することで、試合がない平日にもアプリを利用してもらえるようになったのです」
ベルメージョ氏は、こうしたコンテンツを制作する際、ユーザーがどのタイミングで利用し、どう評価しているのか、というフィードバックを参考にしながら何度も改良を繰り返しているという。クラブとして『世界最高峰』と呼ばれるバルサ同様、ラ・リーガが世界のトップリーグに成長している裏には、類まれな努力の蓄積がある。