専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第189回 昨年のゴルフ界のニュースで一番激しく心を揺さぶられたのは、韓国のチェ・ホソン選手(45歳)が日本男子ツアーのカシオワールドオープン(2018年11月)で優勝したこと…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第189回

 昨年のゴルフ界のニュースで一番激しく心を揺さぶられたのは、韓国のチェ・ホソン選手(45歳)が日本男子ツアーのカシオワールドオープン(2018年11月)で優勝したことです。

 チェ・ホソン選手の何が凄いか?

 それは、独自の左回転スイングをやってのけるからです。

 ドライバーでボールをかっ飛ばすとき、彼は極端なクローズドスタンス、簡単に言えば、右を向いて構えます。そこから、ドローというよりは強いフック系のボールでナイスショットを放ちます。

 その勢いで、なんとフィニッシュのときには右足が地面から離れ、左足1本で立っている体が左に回転。ひどいと90度以上回って、フィニッシュの際にはフェアウェーに背中を向けています。その従来の常識では考えられないスイングに、世界中が唖然としました。

 最初は「ちょっと変なプロゴルファー」といった扱いでしたが、今では愛嬌のあるキャラクターも受けて、日本では「ゴルフ界の虎さん」(※名前の漢字表記『崔虎星』から引用)と呼ばれるようになりました。

 そして、優勝後のゴルフ雑誌ではついに表紙に登場。しかも、使用された写真が、あの変則スイングのままの、そっくり返ったフィニッシュのものでした。

 これは、画期的なことです。チェ・ホソン選手の変則スイングがゴルフ界で正式に認められた、ということですから。

 そんなわけで、今回はチェ・ホソン選手の”変則スイング”の登場によって起こった現象や、ゴルフ界に与えた影響などに迫ってみたいと思います。

(1)変則スイングのルーツ
 チェ・ホソン選手の変則スイングはどうして生まれたのか?

 これは、彼が以前勤めていた水産加工工場で指を切る事故を起こしたからです。以降、指にさほど力が入らなくなってしまって、ゴルフを始めた際にそれをカバーするため、ボディーでスイングを加速させる独特の打法を編み出しました。

 これは、あくまでも推測ですが、彼の「より遠くへ飛ばしたい」という願望がそうさせていると思います。

(2)私はチェ・ホソンの”先輩”
 チェ・ホソン選手のスイングを見て、何がうれしいかって、私の仲間が増えたことが最大の喜びです。実は、私もチェ・ホソン選手とまったく同じスイングをしており、しかも彼より先に実践していたかもしれないのです。

 私は過去に、四十肩、五十肩をかれこれ3回は患って、そのたんびに肩が固まって全然動かなくなりました。ゴルフ雑誌の仕事をしているので、ラウンドを休むこともできず、痛い肩を気遣いながらプレーせざるを得ませんでした。

 そのとき、自然と出てきてのが、チェ・ホソン選手と同じ”クルリンパ左回転打法”なのです。

 これは、いったいどういう原理なのか。

 四十肩、五十肩を患った私は、肩の稼動域が狭くなり、通常のトップを形成できなくなりました。そこで、7割程度のトップで打とうとするのですが、今度はフォローがきれいに作れない。つまり、右手が伸びないのです。

 じゃあ、どうするのか。打ったあと、右手をクラブから離す人がいるでしょ? その代わりに、右足を地面から外す――そうしたと思ってください。

 ゴルフというのは、クラブフェースがボールに当たった瞬間、インパクトでだいたいの弾道が決まります。だから、フォローでなんぼ力を入れて飛ばそうとしても”後の祭り”状態で、それが結果に伴うことはありません。

 まあ、理屈はそうですが、フォローにおける「飛ばそう」と思う気持ちと、「ドローをかけよう」とする魂が、ボールに乗り移ってナイスショットを生み出す。やや大げさに見えるフォローでの左回転は、そういうことだと理解されたし。

 最近、五十肩を患った知り合いが、フェイスブックにスイングをアップさせていたのですが、それも見事な”チェ・ホソン風”スイングでした。彼の活躍以降、SNSなどで「オレ(のスイング)もそうだ」と手を挙げている人が続出しています。こんなにも”チェ・ホソン打法”を実践している人がいたのだと思うと、非常にうれしいです。

 何を隠そう、今までは「へんてこりんなヘボ野郎」として、私は正統派の人たちから迫害を受けていました。それが今や、一気に形勢逆転。「変則スイング、バンザイ!」といった気風になってきました。


今や完全に市民権を得た

「チェ・ホソン風」スイング

(3)それでいいのだ
 チェ・ホソン選手の登場以前は、こういう”邪道なスイング”はスクールに入って「矯正しましょう」という風潮でしたが、「これでいい」となったら、レッスンプロ業界はお客さんが減るでしょうね。

 昔、プロ選手とラウンドしたときも、その選手から私は「すごく変わっている(スイング)。理論的にはあり得ない。90度、左を向いていますよ」とボロクソに言われました。けど、『天才バカボン』のパパじゃないけど、今ではそのスイングが「これでいいのだ」とまかり通ってしまう。これが、2019年のゴルフなのです。

 むしろ、「こっちのほうが飛ぶから、あなたもやってみれば」と”釈迦に説法”まで、できてしまいそうです。

(4)プロの教えを学ぶ方式の終焉

 今までのゴルフ雑誌では、トッププロやレッスンプロが模範となるプロのスイングを伝授。それが、最大の”教え”でありましたが、今後スイングに関しては、なかなか教えづらい雰囲気になりそうです。

 どんなスイングでも許されつつある今、「完璧なプロのスイングを教えるから、1年間、毎週レッスンを受けてください」なんて言ったら、「それは、レッスン料を稼ぐためじゃないの?」と言われそうです。そうして、「スイングなんて、かっこ悪いままでいい」と、お客さんに開き直られたら、商売あがったりです。

 じゃあ、レッスンプロは何を教えるべきか?

 答えは、次です。

(5)スコアの出し方を教える
 そもそもレッスンにおいては、スコアアップのために”正しいスイングを教える”というのが、従来の考え方でした。でも、今ではそんな大それたことはどうでもよくなっています。

 へんてこなスイングでも、「とにかくスコアアップしたい」――それが、アマチュアゴルファーの要望です。レッスンプロは、それに応えていかなければいけないわけです。

 これは、困りましたね。レッスンプロは、お客さんの多様性に応えていかなければいけないのですから。

 お客さんのレベルにまで自分を下げて、同じ目線で教える――そんな優秀なレッスンプロって、なかなかいないですよ。

 たとえば私の場合、アイアンのシャンク病はもはや持病で治りません。それを治すことは諦めました。

 その代わり、ユーティリティーを多用。万が一のときは、アイアンなしでラウンドできるようにしています。現在、8番と9番アイアンは使っていますけど、それで1回でもシャンクが出たら、即アイアンは撤収。別のユーティリティーで対応しています。

 しかし、こうした状況であることをレッスンプロに話をすれば、まずはシャンクを治すことに専念。そこに、必死にエネルギーを注ぎます。

 でも今の時代、そうじゃない、逆転の発想が必要なんです。普通のレッスプロでは、アイアンを使わないゴルフをすればいい、というところにはたどり着けないでしょうね。

 今後のレッスン業界のトレンドは、アマチュアの個性をのびのび生かして、なおかつスコアアップさせる方法を模索すること。そう思う、今日この頃です。