1月16日、クラブ・ブルージュのMFハンス・ファナケンが2018年のベルギー年間最優秀選手(ゴールデンシューズ)に選ばれた。185cmという長身MFだが、けっしてパワー系の選手ではない。繊細なテクニックを誇り、左右両足から決定的なパス…
1月16日、クラブ・ブルージュのMFハンス・ファナケンが2018年のベルギー年間最優秀選手(ゴールデンシューズ)に選ばれた。185cmという長身MFだが、けっしてパワー系の選手ではない。繊細なテクニックを誇り、左右両足から決定的なパスを出すことのできる、サッカーセンスにあふれた選手だ。
ゲンクの巨漢MFサンダー・ベルゲと対峙した鎌田大地
以下、2位MFメフディ・カルセラ=ゴンサレス(スタンダール・リエージュ)、3位MFアレハンドロ・ポズエロ(ゲンク)、4位MFエジミウソン・ジュニオール(前スタンダール・リエージュ/現レフウィヤ)、5位FWレアンドロ・トロサール(ゲンク)、6位MFルスラン・マリノフスキー(ゲンク)、7位MFルート・フォルマー(クラブ・ブルージュ)、8位MFルイス・ガルシア(オイペン)と、ベルギーリーグのスター選手が続いた。
今季前半戦をプレーオフ1圏内の6位で終えたシント・トロイデンからは、MFロマン・ベズスとMF鎌田大地がともに11位につけた。1年半前、サガン鳥栖からフランクフルトに移籍したものの、出場機会を失った鎌田は、昨年8月31日の移籍市場最終日にシント・トロイデンに期限付き移籍した。
第7節のゲント戦で途中出場した鎌田はいきなり決勝ゴールを奪い、その後わずか15試合で10ゴールをマーク。あっという間にベルギーリーグを代表する選手の仲間入りを果たした。
鎌田が決めた10ゴールは、相手のペナルティエリアの狭いエリアのなかで、落ち着き払ったボール扱いから生まれたゴールばかりだった。ひと言で表現するなら、センスが詰まったゴールだった。ベルギー人が惚れ込むのも無理はない。
ベルギーのスポーツ週刊誌『スポルト・フットボール・マガジン』最新号は、シント・トロイデンでもっとも価値のあるプレーヤーとして鎌田を推し、「彼の10ゴールは小さなクラブ相手だけではなく、強豪のアントワープや、ビッグ3のクラブ・ブルージュ、アンデルレヒト、スタンダールからも決めている。マーク・ブライス監督は1月、鎌田がアジアカップの日本代表に招集されなかったことを喜ぶべきだ」(抄訳)と記している。
そう、ベルギー人にとって、鎌田がアジアカップを戦う日本代表のメンバーから漏れたのは、驚きだったのだ。
しかし、アジアカップのタイミングは、鎌田がコンディションを落とした時期と重なっていた。昨年夏にシント・トロイデンに移籍し、秋までに急ピッチでコンディションを上げた鎌田だったが、12月半ばごろから疲労の色が濃くなり、パフォーマンスを下げてしまった。
やはり、年末から年始にかけて鎌田はしっかり休息してリフレッシュし、所属クラブの冬合宿でコンディションを作り直す必要があった。そう、私は思っている。
束の間のウインターブレークが明け、1月18日の「リンブルフ・ダービー」シント・トロイデンvsゲンクでベルギーリーグが再開。ピッチの上には、すっかり新鮮な気持ちを取り戻し、生き生きと動く鎌田大地の姿があった。昨年はシャドーストライカーのように前線に張ってゴールを狙っていた鎌田だったが、2019年のスタートはゲームメーカーとしてのタスクを担っていた
開始28秒、鎌田のプレスを受けた相手DF がバックパスで逃げると、GKがボールを掴んでしまってシント・トロイデンに間接FKが与えられた。味方が短く蹴ったキックから、鎌田がシュートを放つ。それによって相手ゴール前で混戦となり、FWジョルダン・ボタカが蹴り込みシント・トロイデンが先制した。
それから45分間、鎌田がシント・トロイデンの攻撃を指揮した。なかでも17分、自陣から鋭いスルーパスをストライカーのヨアン・ボリに通し、相手GKと1対1になる場面を作ったシーンは、彼の卓越した視野の広さとキック技術の高さが発揮されたものだった。
1−1で終えた前半を振り返ったテレビスタジオの解説者たちは、「前半のベストプレーヤーは鎌田大地だ」と褒め称え、「これでアジアカップに行けないのか」というテロップが流れた。
だが、後半は「今季ベルギーリーグ最高のチーム」との誉れ高い首位ゲンクが本領を発揮する。シント・トロイデンは試合の流れを奪われ、2−3の逆転負けを喫した。
「我々はけっして、自陣に引いて下がるサッカーをしようとしたわけではなかった。だが、ゲンクのクオリティの高さの前に、引かされてしまった」(試合後のブライス監督)
この日のシント・トロイデンは、中盤も含めてマンツーマンディフェンスの戦術を取った。鎌田が対峙したのはノルウェー人の若手巨漢MFサンダー・ベルゲ。前半は鎌田がイニシアチブを握ったが、後半はベルゲの縦へのドリブルに対して守備に回って苦労した。
10点満点で評価すると、前半の鎌田は7点、後半は5点――平均すると6点。そんな90分間だった(実際に現地メディアも鎌田に6をつけている)。鎌田にとっては、手応えと反省の入り混じった一戦だったのではないだろうか。
『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』紙に対して、鎌田は「今日の僕のプレーは悪かった」とコメントした一方、日本人記者陣は試合後、彼のこんな肉声を聞いている。
「今日の僕はどちらかというと、No.10(トップ下)というよりNo.8(インサイドハーフ)か、ボランチをやっていた感覚です。やっぱり僕は、そこを本職としてやりたい。もちろん、あれだけ(ポジションが)下がれば得点するチャンスは減りますが、僕自身はいいプレーができたと思います。あれがやっぱり、本来の自分かなと思います」
ベルギー人記者たちに向かって言った「今日の僕は悪かった」。私たち日本人記者に対して語った「僕自身はいいプレーができた」。どちらの言葉も、鎌田の本音なのだろうと、私は思う。そして、前半のプレーが「本来の鎌田大地」なのだろう。
鎌田はここまで10ゴールを決めていながら、アシストは1個と極端に少ない。しかし、ゲンク戦の前半のプレーが90分間続くようになれば、自ずとゴール数とアシスト数が並ぶようになるはず。その時、日本代表のユニフォームに袖を通す鎌田の姿に期待したい。