2019年シーズン10大注目ポイント@後編「2019年シーズン10大注目ポイント@前編」から読む>>>フェラーリに大抜擢されたモナコ出身のシャルル・ルクレール(7)ルーキーの台頭、トップドライバーの世代交代はいかに? 2019年シーズン…

2019年シーズン10大注目ポイント@後編

「2019年シーズン10大注目ポイント@前編」から読む>>>



フェラーリに大抜擢されたモナコ出身のシャルル・ルクレール

(7)ルーキーの台頭、トップドライバーの世代交代はいかに?

 2019年シーズンは、3人の新人ドライバーがF1デビューを果たす。しかも、昨年度のFIA F2のランキング上位3名がそのままF1へステップアップするのだから、興味深い。

 そのなかで頭ひとつ抜けているのが、FIA F2王者のジョージ・ラッセル(ウイリアムズ/イギリス/20歳)だ。GP3、FIA F2とそれぞれ初年度でチャンピオン獲得という、シャルル・ルクレール(フェラーリ/モナコ/21歳)とまったく同じ超エリートコースを歩んできた。

 両シリーズでの走りを見ても、一発の速さ、タイヤマネジメントともに、他ドライバーたちとはややレベルが違った。

 レース週末はメルセデスAMGのピットガレージでトップチーム、トップドライバーの仕事ぶりを間近で見て、実際にテストドライブも経験してきた。さらにパドックでは、旧知のフォースインディアのエンジニアたちに直接アドバイスをもらって自身のドライビングに生かし、ウイリアムズでのF1デビューが決まってからはすぐに帯同してチームに馴染もうと全力を注ぐなど、経験も知性も行動力も圧倒的だ。

 昨年からウイリアムズは低迷期に入ってしまい、今季はそのマシンの出来次第というところもある。だが、対チームメイトという意味においても新人ドライバーのなかでもっとも高い評価を集めるのは、やはりこのラッセルなのではないかと予想できる。

 一方、マクラーレンからデビューするFIA F2ランキング2位のランド・ノリス(イギリス/19歳)は、ややインパクトが弱い。ユーロF3を制してFIA F2に乗り込んだものの、レースのバトルで競り負けたり、プレッシャーのかかる場面で踏ん張りがきかない。

 タイトル争いがかかる重要な局面を迎えたロシアラウンドでも、ピット位置を間違えるなどのミスで自滅して無得点に終わってしまった。今年のマクラーレンにどれほどの競争力があるかわからないが、カルロス・サインツという手強いドライバーがチームメイトだけに、かなりの苦戦を強いられるだろう。

 そしてトロロッソ・ホンダをドライブするアレクサンダー・アルボン(タイ/22歳)はFIA F2ランキング3位。メーカー系育成プログラムの支援もなく自力でスポンサーを集めて戦い、2年前のGP3ではルクレールとタイトル争いを演じ、昨年はFIA F2でラッセルとタイトル争いを繰り広げた。その活躍がレッドブル首脳の目にとまり、かつて一度打ち切った支援を復活させ、トロロッソでの起用が決まった。

 イギリス生まれのタイ人で、柔和な性格でナイスガイ。一見するとレースには向いていなさそうだが、ひとたびステアリングを握れば強く速い。そんなアルボンはホンダ製パワーユニットを使うこともあって、これから日本でも人気が出てきそうだ。

 一方、トップドライバーの世代交代にも注目したい。

 レッドブルのマックス・フェルスタッペン(21歳)とピエール・ガスリー(22歳)、そしてフェラーリに抜擢されたルクレール(21)らが、既存のトップドライバーたちに襲いかかる。ルイス・ハミルトン(メルセデスAMG/34歳)、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ/31歳)、キミ・ライコネン(ザウバー/39歳)というチャンピオン経験者に世代交代を促すのは誰か。

 一歩も二歩もリードしているのは、フェルスタッペンだ。速さだけでなく、メンタルの強さも次世代を担うにふさわしい。しかし、ルクレールも新人らしからぬ知性と落ち着きを持っており、初年度から何度もスター性をのぞかせた。フェラーリのチーム内騒動に巻き込まれることなく、彼本来の実力を発揮できれば、2019年は大きく飛躍してベッテルに引導を渡す可能性もある。

(8)ライコネン&クビツァ。「ベテラン名手」の復活はあるか?

 フェラーリのシートを失ったキミ・ライコネンが、ザウバーで心機一転のシーズンを迎える。もともとサッパリとした性格だけに、名門から放出された時点でそのままF1から引退するものと思われていた。だが、周囲の予想を大きく裏切って、まさかのザウバー加入を発表する。

 その背景にはフェラーリの何らかの思惑があるのではないかという見方さえなされたが、当のライコネンは「純粋に走りたいから走るだけ」ときっぱり。「今後は(フェラーリ時代のスポンサーイベントやメディア対応のような)面倒なことにわずらわされることもなく、レースに集中できていいよ」とさえ言ってケロリとしている。

 フェラーリではさまざまな”大人の事情”が絡み合い、なかなか心からレースをエンジョイすることができなかったようだった。だが、フェラーリがお家騒動で騒がしくなり、ライコネンも放出されることが決まって自由奔放に走るようになったシーズン終盤戦は、アメリカGPで2013年以来の優勝を飾るなど速さを増した。

 子どもができてからは完全にパパの顔になり、以前のような「クールなアイスマン」というよりも、自然で人間らしい表情や行動が目立つようになってきた。Instagramでも家族愛あふれる写真を次々とアップするなど、ナチュラル路線になった。

 そんな今のライコネンには、ザウバーのようなシンプルなチームが合っているかもしれない。チームメイトが新人(アントニオ・ジョビナッツィ/イタリア/25歳)とあって、チームの浮沈もライコネンひとりの肩に大きくかかるなか、2019年のライコネンは昨年以上にナチュラルな速さを発揮してくれるはずだ。

 その一方で、ウイリアムズから現役復帰を決めたロベルト・クビツァ(34歳)を待ち受けているのは、けっして平坦な道ではないだろう。現役時代は「フェルナンド・アロンソと並ぶ才能の持ち主」と誰もが評価したクビツァだが、2011年開幕前のラリーで右腕切断寸前の大事故に遭い、そこから8年のブランクが空いた。

 2017年末の時点でウイリアムズのシートを争ってテスト参加したものの、最終的にセルゲイ・シロトキンが選ばれたのは、持ち込み資金額の多寡もさることながら、一発の速さの点でもシロトキンに軍配が上がったからだという。

 それでもクビツァは1年間、チームに帯同したことで多くを学び、さらに成長できたという。

「コクピットからではわからないいろんなことが見え、今のF1マシンを速く走らせるために何をどうすればいいのかがわかった。今の僕は、明らかに1年前の僕よりも成長している。多くの人が腕のハンディキャップを気にして、本当に大丈夫なのかと思うのもわかる。だけど、もし無理だと思ったらここにはいないよ。恐れのようなものはない」

(9)全25戦&土曜・日曜の2日間開催。F1改革はさらに進む?

 F1を統括するリバティメディアは、すでに2020年からのハノイ市街地でのベトナムGP開催を決め、さらにフェルスタッペン人気で盛り上がるオランダ、ケビン・マグヌッセン(ハース)人気のデンマークなど、グランプリ開催地の拡大路線を狙っている。

 2019年はまだ従来どおりのスケジュールで、全21戦の開催。だが、2020年以降に向けては年間25戦前後の開催を目指しており、土曜・日曜の2日間開催にして参戦者たちの負担を減らすと同時に、フリー走行時間を減らして不確定要素の拡大も狙っているという。

 ただし、チーム関係者は短くても木曜から日曜、スタッフによっては前週の日曜からレース翌日まで働き続ける者もおり、1日短くなったからといって負担が大幅に減るわけではない。フリー走行の短縮についても、実走行時間が短ければ短いほどシミュレーションのリソースが豊富なトップチームに有利になると見られ、格差拡大につながるのではないかと懸念されている。

 演出面では、どんどんアメリカナイズが進むと予想される。昨年はロゴを刷新し、ハリウッド映画のようなテーマソングを制作し、エンタメ性を向上させた。テレビ中継にもさまざまなテロップを入れて、わかりやすさを追求すると同時に、好きな車載カメラや無線音声が選べるインターネットでのデジタル映像配信『F1TV PRO』を開始。さらにYouTubeやSNSでの動画配信も積極的に行ない、視聴者数の拡大を狙ってきた。

 2019年も改革はさらに推し進められることになるだろうが、グリッドガールの復活だけはなさそうである。とはいっても、すでに各グランプリは「各グリッドに立たない」「男女混成」という形で類することをやっており、2019年にそれがどこまで拡大するのかも期待したいところだ。

(10)F1のチャンスを掴む日本人ドライバーは登場するのか?

 今季もF1に参戦する日本人ドライバーはいないが、F1のチャンスを掴む可能性のあるドライバーはいる。

 FIA F2に参戦する松下信治(まるした・のぶはる/25歳)は以前のコラムで紹介したように、夢をあきらめずに自力で再挑戦のチャンスを掴み取った。カーリンという名門チームに乗り、ランキング4位以内に入ればスーパーライセンス取得の要件を満たす。その思いの強さと行動力、そしてヨーロッパで戦っていくためのメンタリティという意味では、現状で松下に並ぶ日本人ドライバーはいないだろう。

 過去3年間の挑戦ではエンジニアが離脱し、チームの弱体化が進んでいたARTグランプリで苦戦を強いられた。だが、かつてのチームメイトは3人全員がF1に辿り着いたように実力者ばかりで、ヨーロッパでは松下の速さも高く評価されている。ようやく戦える場が手に入った松下は、今年こそやってくれるに違いない。

 FIA F3(旧GP3)に参戦する角田裕毅(つのだ・ゆうき/18歳)と名取鉄平(なとり・てっぺい/18歳)は、160馬力のFIA F4からリージョナルF3を飛ばし、380馬力のFIA F3へ1級飛びの昇格を果たした。よって最初は、苦戦を強いられるかもしれない。経験のないヨーロッパのサーキットとピレリタイヤを使い、走行時間の少ないFIA F3を素早く習熟するのは容易ではないからだ。

 角田は旧F3マシンでのテストでレッドブル陣営をうならせ、日本人としては初のレッドブルジュニアドライバー入りを果たした。フォーミュラ・ヨーロピアン・マスターズ(旧ユーロF3)にも並行して参戦し、経験値を蓄積していくつもりだ。ランキング2位以内に入ればスーパーライセンスが取得できるが、イェンツァーという中堅チームで初年度どこまで戦えるか。

 一方、名取もタイトルを獲れば、スーパーライセンスポイント要件を満たす。ただ、名門カーリン所属ながら角田よりもF3経験は少なく、まずは焦らずに経験を積み重ねていくことが重要だろう。

 昨年スーパーフォーミュラとスーパーGTを制した山本尚貴(やまもと・なおき/30歳)は、そのスーパーライセンスポイントを手にトロロッソ・ホンダでフリー走行出走を目指す。日本GPでの走行はもちろん、それ以前のどこかで出走・テスト走行のチャンスも視野に入れているという。国内レースとバッティングしないレースとなると、ベルギーGPかドイツGPしかない。そのどちらかで山本がステアリングを握る姿が見られることを期待したい。