アジアカップの決勝トーナメント初戦は、日本にとって鬼門として存在している。 初優勝を果たした1992年の日本大会以降、7大会すべての決勝トーナメント初戦で先制点を許しているのだ。新生日本代表の象徴的な存在となった南野拓実と堂安律 その…

 アジアカップの決勝トーナメント初戦は、日本にとって鬼門として存在している。

 初優勝を果たした1992年の日本大会以降、7大会すべての決勝トーナメント初戦で先制点を許しているのだ。



新生日本代表の象徴的な存在となった南野拓実と堂安律

 そのうち3大会は逆転に成功した。3大会は同点に追いつくのがやっとで、PK戦にもつれ込み、2回勝ち上がり、1回敗れた。1996年レバノン大会は、そのまま敗戦を喫している。

 イラクに4−1と圧勝した2000年レバノン大会の準々決勝ですら、4分にゴールを割られているのだ。グループステージと同じような気持ちで、ふわっとゲームに入っているわけではないだろう。負けたら終わりということを肝に命じているはずなのに、なぜ、このようなことが起こるのか。プレッシャーや気負いなのだろうか。

 だからこそ、「日本代表が今後、本当に成長していけるかどうかのターニングポイントになる試合だと思っている」と長友佑都(ガラタサライ)は語る。

 昨年9月に発足して以来、森保ジャパンは4勝1分の好成績でアジアカップを迎えた。とはいえ、そのすべてが国内で行なわれた親善試合で、厳しいゲームを経験したわけではない。アジアカップに入っても、グループステージは負けても挽回するチャンスのあるステージだ。

 しかし、決勝トーナメントは、そういうわけにはいかない。負けたら終わり。そうしたプレッシャーがかかったゲームでこそ、本当の能力やパーソナリティが見て取れるというわけだ。

「動物でもサバンナで暮らしている動物と、危険性のない場所で暮らしている動物とでは、研ぎ澄まされ方や洗練のされ方が違う。こういう厳しい戦いで結果を残せるかどうか。生きるか死ぬかの戦いをやらないと、サッカー選手としての成長はないですよ」(長友)

 むろん、チームとしての真価が問われるのは間違いないが、なかでも、それが問われるのが、新生日本代表の象徴的な存在である南野拓実(ザルツブルク)、堂安律(フローニンゲン)だろう。

 大会前に、内田篤人(鹿島アントラーズ)がこんなことを語っていた。

「チームがうまくいっているときは、誰が入ってもうまくいく。うまくいかなくなったときに、何ができるか」

 先制点を許してチームに動揺が走ったとき、果たして彼らは、どんな振る舞いが、どんなプレーができるだろうか。

 ラウンド16を控えたふたりの心境は、対象的だ。南野が「負けたら終わりのゲームではありますが、とくに何も変わることはないですね。普段どおりです」と、いつもどおりを強調すれば、堂安は「もっと貪欲にいきたいなって思ったし、『もっといったろ』と強く思っていますね。3試合を振り返って、僕が勝たせたと胸を張って言える試合は1試合もないですし、本当にそういうところを目指しています」と力を込めた。

 振り返れば、三浦知良(横浜FC)も、中村俊輔(ジュビロ磐田)も、遠藤保仁(ガンバ大阪)も、本田圭佑(メルボルン・ビクトリー)も、香川真司(ドルトムント)も、アジアカップで日本代表を優勝へと導いて、日本代表での地位を確立していった。そうした存在に、南野は、堂安はなれるのか。サウジアラビア戦は、今後の代表における彼らの立ち位置が決まる試合になるかもしれない。

 一方、サウジアラビアは今大会、 2勝1敗でグループステージを突破した。

 基本布陣は4−1−4−1で、前線にはスピードと突破力を備えたアタッカーがずらりと並ぶ。なかでも警戒すべきが、センターフォワードの19番、ファハド・アルムワラドだ。身長166センチと小柄で、スピードと敏捷性に優れ、豪快な一撃も秘めている。「スピードモンスターですよ、あれは。メチャクチャ速い」と長友も警戒心を強める。

 日本はサウジアラビアとロシア・ワールドカップのアジア最終予選で同組となり、2017年9月のアウェーゲームで0−1と敗れたが、その決勝ゴールを決めたのが、他でもないアルムワラドだった。

 さらに、ゴール前に飛び出してくる両ウイングのサレム・アルドサリやハタン・バハビルなど、危険な選手は多いが、スーパーサブのヤヒア・アルシェハリも厄介な存在だ。アルドサリが出場停止だった第3戦に先発した背番号8は、「サウジのメッシ」と呼ばれ、ドリブル突破とスルーパスで攻撃に違いを生み出してくる。

 指揮を執るのは、スペイン人のフアン・アントニオ・ピッツィだ。これまでサウジアラビアは伝統的に速攻の色が濃かったが、今回のチームはスペイン人監督に率いられているだけに、ボールを握る意識が強い。

 日本としては主導権を譲りたくないところだが、一方で、臨機応変に割り切る姿勢も重要だろう。あえて相手を引き寄せて、カウンターを狙うというような。

 大会前、遠藤航(シント・トロイデン)は「状況によっては相手にボールを持たせてもいいと思う。押し込んでも点が入らないときってあるじゃないですか。だったら、相手に攻めさせて、カウンターで仕留めればいい。そういう割り切りや柔軟性はすごく大事かなと思う」と語っていたが、まさにサウジアラビア戦は割り切りや柔軟性が求められる試合になりそうだ。

 森保一監督のメンバー選考にも注目が集まる。グループステージ第3戦のウズベキスタン戦では、先発10人を入れ替えて勝利した。果たして、サウジアラビア戦では再び総入れ替えして、元に戻すのか。あるいは、数人を残してシャッフルするのか。指揮官がよく口にする「総力戦」「総合力」は、ここから問われることになる。

 いずれにしても、サウジアラビア戦は、過去の悪しき流れを断ち切って、先制点を与えないことが重要になる。これまでは逆転した試合も少なくないが、同じ数だけPK戦までもつれ込んでいる。

 今大会から出場国が8チーム増え、決勝トーナメントでの試合が1試合増えた。ワールドカップより厳しい試合間隔を考えると、ラウンド16から延長戦を戦っていては、決勝までの4試合を戦い抜くことは不可能だろう。8大会続けて、同じミスを繰り返すことは許されない。