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2019年シーズン10大注目ポイント@中編

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レッドブル・ホンダのライバルとなるフェラーリはお家騒動で崩壊危機?

(4)ついに結成された「レッドブル・ホンダ」は何勝できるのか?

 レッドブル・ホンダは勝てるのか? 何勝できるのか? その答えは、「0勝」か「たくさん勝つ」かのどちらかだと思う。

 レッドブルの車体性能がこれまでどおりトップクラスなら、あとはホンダのパワーユニット次第だ。ホンダがつまずけば、0勝。メルセデスAMGやフェラーリと比べて差が昨年のままなら、何勝もできる。

 昨年終盤戦のレッドブルがルノー製パワーユニットにもかかわらず、アメリカGP、メキシコGP、ブラジルGPで優勝する力があったことを考えれば、3強チームがほぼ同じ強さで三つ巴の戦いになり、単純計算で21戦の3分の1で「7勝」はできることになる。

 ホンダは昨年終盤戦、2019年型のベースとなるスペック3を実験的に投入した。ここで大きく出力アップを果たした反面、信頼性の問題に苦しんだが、実走したからこそわかった問題を潰し込むことができた。この点は、2019年に向けた大きなプラス材料だ。

 すでにHRD SakuraではRA619Hがほぼ完成し、かなり高いパフォーマンスを発揮しているとのこと。信頼性を確保しただけでなく、スペック3からさらに出力を伸ばしているとの情報もある。レッドブル側から「2強に大幅に近づく」「タイトルを目標にしている」などという発言が再三出ているのは、ただの楽観視ではなく、ホンダから寄せられるデータを受けてのものだという。

 モービルとの燃料・オイル開発がようやく進み、ホンダも2019年からはオイルを燃焼させる「予選モード」が使えるようになる。昨年のレッドブルは、予選で同様のモードを使う2強チームに差を開けられ、苦戦を強いられた。しかし、予選でも決勝と同等の戦闘力があれば、上位グリッドを獲得してさらに力強いレースの駆け引きができるようになる。

 タイムレースではなくポジションレースである今のF1において、このグリッド位置の差は大きい。それも、レッドブルが自信を持っている理由のひとつなのだろう。

 一部では、山本雅史モータースポーツ部長の「平成のうちに勝つ」といった発言が報じられたが、開幕4戦のうちに勝つという意味ではなく、レッドブルが得意とするモナコGPでは当然勝利がターゲットになる、という意味での発言だったという。

「平成って言ったのは僕じゃなくて、僕が言ったのは『モナコとかではかなりチャンスがあるから、5月末のモナコまでに勝ちにこだわったことをやっていきたいね』っていうことなんです。もちろん、開幕戦のオーストラリアGPから(勝利に)こだわっていきますよ。ただ、この世界は謙虚にいかないと」

 レッドブルとの共同作業は順調に進んでいるといい、ミルトンキーンズで田辺豊治テクニカルディレクターらが連携するほか、昨年12月にはエイドリアン・ニューウェイがHRD Sakuraやホンダ本社を訪れ、「年末にエイドリアン(・ニューウェイ)と会ったけど、『すごく手応えがある形で進んでいるから』と言っていました」という。

 それでも、ホンダは浮き足だっておらず、地に足をつけている。2015年に復帰して以来、ホンダはまだF1のトップチームとは組んだことがなく、トップレベルで戦ったことがない。その経験値の足りなさを、ホンダはしっかりと自覚している。

「ホンダはF1に復帰してからまだ勝っていないから、勝つためのツールというものを理解していない。僕はそう思っています。(勝つためには)こういうプロセスで戦わなきゃいけないんだっていうのは、勝って初めてわかるものだと思うし、レッドブルはそれがわかっているけど、僕らのパワーユニットがそこにどれだけ追従できるのかが、最初の肝だと思っています。

 2月のバルセロナ合同テストまでに、そこを潰しきらないといけない。よく報道されているオシレーションの件(シフトアップ時の回転数振動)はもう改善できていますけど、次のハードルをクリアすればまた次の課題が出てくるわけで、そこをどれだけ速く潰していけるかが今のホンダにとって必要なことだと思いますね」

 この姿勢があれば、ホンダが大きくつまずき、0勝に終わるという心配はしなくてもいいのではないだろうか。初優勝は本当に、平成のうちに訪れるかもしれない。

(5)跳ね馬復活はいかに。お家騒動はフェラーリ崩壊の始まりか?

 年が明けて、フェラーリはマウリツィオ・アリバベーネ代表を解任して技術責任者マッティア・ビノットをチーム代表とする人事を発表した。これによって、昨シーズン中ずっと続いてきた「お家騒動」に、ひとつのピリオドが打たれた形になる。

 そもそも、フィアットのセルジオ・マルキオンネ前会長がアリバベーネを代表に据えてチーム改革に乗り出したのが2015年。以来、チームの技術力はたしかに向上し、2018年はついに「最速のマシン」と言われるところまできた。

 それにもかかわらず、レース戦略やドライバー管理で失態を繰り返し、タイトルを逃してしまった。さらに後ろ盾であったマルキオンネ前会長が7月に急逝したことにより、ビノットとの権力闘争が勃発。チームはさらに混迷を極めていった。

 最後の最後までどちらに転ぶかわからないまま、2019年に向けた準備が進められ、そしてようやく年が明けて決着した。

 ビノットはパワーユニット部門の責任者からテクニカルディレクター、そしてチーム代表へと昇進してきた。チーム内はイタリア化が進み、技術者であるビノットにマラネロの組織を統率できるのかどうかには疑問が残る。アリバベーネはマルキオンネの顔色ばかりをうかがっていたと指摘する声もあるが、実質的なマルキオンネの後任としてフェラーリ会長となったフィアット創業家のジョン・エルカンに頭を押さえられたビノットも同様だろう。

 最速と言われた2018年型マシンも、実際には低速コーナーでも中高速コーナーでもメルセデスAMGには及ばず、パワフルなパワーユニットの威力が発揮できるサーキットでなければ厳しかった。タイヤマネジメントの面においても、メルセデスAMGやレッドブルには劣っていた。もちろん、レース戦略面でも彼らとは比べるべくもない。

 ようやくお家騒動が収まったとはいえ、今のフェラーリにはネガティブな要素ばかりが目立つ。ジャン・トッドとロス・ブラウン、ミハエル・シューマッハという「非イタリア連合」が揃い黄金時代を築く前の、20年間に及ぶ低迷期と似た様相を呈している。

 そう考えれば、フェラーリの復活はかなり難しい。この状況でフェラーリが復活するとすれば、こうしたネガティブ要素を取り返すくらいマシンパッケージがよかった場合だけだろう。

(6)大混戦の中団グループから抜け出すのはどのチームだ?

 中団グループは、さらなる大混戦になるだろう。

 ルノーはいよいよ本腰を入れて予算を投じ、開発やファクトリー施設、人員の拡充を整えてきた。レッドブルからダニエル・リカルドを引き抜いたのは、ドライバーとしての腕もさることながら、レッドブルのノウハウや手法を学び取りたいからだ。

 重要な情報を握るポジションのエンジニアには、最新情報の流出を防ぐために半年から1年程度の「ガーデニング休暇」というものがあり、すぐには獲得できない。しかし、ドライバーならすぐに加入が可能なのだ。

 とはいえ、昨年時点で同じパワーユニットを積むレッドブルに対して、車体だけで1秒近い差をつけられていたルノーは、一気に車体性能をトップレベルに上げることは現実的ではない。昨年もスペックCと呼ばれる第3弾のアップデートに失敗するなど、パワーユニット性能も依然として苦境に立たされている。

 中団グループのトップに立ち、表彰台に手を伸ばすことはできるかもしれない。だが、常に上位で争い「4強」になるというのは現実的でないように思われる。

 一方、昨年のハースは取りこぼしが多かったものの、車体性能は高かった。また、フェラーリ直系の提携チームはアルファロメオ・ザウバーとなり、今年はフェラーリのチーフデザイナーを務めていたシモーネ・レスタが製作指揮を執ったマシンとなる。

 昨年のフォースインディアは、財政難でパーツ製造ができないほど開発が滞るような状況で戦いながら、中団トップの速さを維持してきた。マシンパッケージもさることながら、レース戦略やチーム運営の面で極めて安定しており、効率的な戦い方ができるチームだ。

 そのフォースインディアは今季からチーム名がレーシングポイントとなり、ランス・ストロールの父ローレンスを筆頭としたコンソーシアムから潤沢な資金を得て戦うことができる。昨年8月というけっして遅すぎないタイミングでその移行が果たされているだけに、彼らが初めて実力をフルに発揮して生み出すマシンの性能には注目が集まる。

 そしてトロロッソ・ホンダは、レッドブルの昨年型マシンをベースに共用可能なパーツを多く使う。パワーユニットよりも後方はレッドブルの最新型マシンと同じになるなど、車体のレッドブル化が進む。

 つまり中団グループでは、メルセデスAMG(フォースインディア)対フェラーリ(ザウバー)対レッドブル(トロロッソ)の代理戦争が繰り広げられることになる。コーナリングマシンのトロロッソに対し、フェラーリユーザーはパワーユニット性能を生かしたマシンになるはずで、フォースインディアはメルセデスAMG同様にオールマイティな総合力での勝負だ。

 となれば、グランプリごとにサーキット特性によって勢力図が刻々と入れ替わるはず。そのなかからルノーが抜け出すことができるのか、それとも他のチームがトップに立つのか、予測不可能でエキサイティングな戦いが繰り広げられることになりそうだ。

(後編)へ続く>>>