専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第188回 今回は、ゴルフのテレビ中継は減るのか、というちょっと難しい問題を考えてみたいと思います。 答えから言いますと、野球やサッカー同様、今後地上波におけるゴルフのトーナメ…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第188回

 今回は、ゴルフのテレビ中継は減るのか、というちょっと難しい問題を考えてみたいと思います。

 答えから言いますと、野球やサッカー同様、今後地上波におけるゴルフのトーナメント中継は減る一方でしょう。

 今の若い人はネット社会の申し子ですからね、テレビが絶対とは思っていません。他にもゲームやSNSなど、液晶画面で遊ぶものがいっぱいありますし、さらにフェスやパーティー、サークルなど、実際に仲間たちと遊ぶものもたくさんありますからね。

 おかげで、必然的にテレビの視聴時間は減少。ゴルフのトーナメント中継を見る人も少なくなりつつあります。

 ただその代わり、ゴルフ好きにはたまらない、魅力的なコンテンツは増えています。BSやCS放送では、さまざまなゴルフの企画番組が放送されていますし、ネット配信、はたまた5Gのスマホデータ通信の発達などによって、今後は今まで見ることができなかった下部ツアーなども視聴できるようになり、その裾野はますます広がっていくのではないでしょうか。

 さて、こうした現状を踏まえつつ、あらためてゴルフのテレビ中継における、一連の流れを順序よく説明していきたいと思います。

(1)日曜日の昼はテレビを見ない
 かつて、日曜日は朝からゴルフの練習に行って、午後は”寝て曜日”を決め込むお父さんにとって、午後3時ぐらいからのゴルフのトーナメント中継は、競馬中継と並ぶ楽しみなスポーツ観戦のひとつでした。



日曜日の午後に家でのんびりしているお父さんって、最近はなかなかいないですよね...

 けど、その試合の多くは録画中継だったりして、臨場感に欠けます。ライブ中継だとしても、試合が延びたら時間を延長することがないため、非常にストレスがたまってしまいます。

 ネットでの試合経過報告も、スポンサーに配慮してか、テレビ放送の前までしか出ておらず、おおよそ14ホールあたりまででスコアボードは止まっているありさま。今や超速のネット社会にあって、試合経過の情報なんてあらゆるところからタダ漏れなのに、今さら何を! という感じです。

 そもそもアクティブなアマチュアゴルファーは、日曜日は当然、ホームコースでラウンドしています。それをしない人は、おおよそ家族サービスをしているに決まっています。

 結局、日曜日の午後3時にゴロリとできるのは、リタイヤした年金生活者の方々ぐらいですかね。

 こんなわけで、現役仕事世代のゴルファーは、ゴルフのトーナメント中継をゆっくり見られる時間などほとんどありません。だから、視聴者が減るのです。

(2)見たい選手がいない
 日本男子ツアーの2018年最終戦、日本シリーズJTカップでは、石川遼選手が最終日に追い上げて盛り上がりました。

 ただ最近は、こうして人気選手の活躍が見られる機会って、男子ツアーでは年に数回しかありません。”AON(青木功、尾崎将司、中嶋常幸)”全盛の頃は役者がそろっていて、毎週「誰が勝つんだろう」って、ワクワクしながらテレビ中継を見ていたものですが……。

 正直、今の男子プロはキャラが小粒なんですよね。石川選手以外では「誰が見たいかなぁ……」って悩んでしまうほどです。

 そうそう、小平智選手は結構がんばっていますが、みんなが見たいと思っているのは、小平選手に付いて回っている奥様、古閑美保さんの涙だったりして……。まあ、それはそれで”(夫婦)セット”として見応えはありますかね。

 そんな男子ツアーに比べると、女子ツアーはまだまだ人気があります。実際、毎年たくさんの新人、若手の有望株が出てきて話題を振りまいているので、楽しみです。

 女子の場合、ルックスやスタイルがよろしいと、俄然ビジュアルも冴えますから、余計に応援したくなるんですよね。そして、がっしりした屈強な選手よりも、か弱くてもがんばっている細身の選手を応援しがち。日本の伝統芸、”判官びいき”のなせる業ですかね。

(3)試合中継を見て面白いか
 どのスポーツもそうですが、選手に感情移入しないと、なんら面白くないんです。相撲だって、力士のキャラクターや強さを知らないと、体の大きな人が裸になって押し合っている姿にしか見えないという人もいるのでは。

 そう考えると、ゴルフの試合だって、ゴルフの知識が乏しい人からすれば、パターを打っている人を見ても、そのすごさは伝わらないでしょう。「私にもできる」とか「カーリングのほうが難しい」とか、好き放題言われて終わりじゃないですか。

 ゴルフのダイナミックさって、やっぱりドライバーで300ヤードぐらいぶっ放して、アイアンで200ヤード先のグリーンへドスンと落としてピンそばにつける――これに尽きます。

 これを見られるなら、録画でもいいかな。そんな感じです。

(4)視聴率の低下
 ゴルフ人口が1200万人いた頃は、ゴルフ中継も視聴率10%超えが結構ありました。現在はゴルフ人口が500~600万人と半減していますから、当然視聴率も5~6%に減少、いやそれ以下かもしれません。

 それは昔、プロ野球の巨人対阪神戦が視聴率20%超えだった頃から、徐々に視聴率が低下。地上波での放送が激減していったことと同じでしょう。今ではクライマックスシリーズでさえ、地上波は珍しくBSやCSで放送する時代ですから、ゴルフ界もそうした現実を直視しなければいけません。

(5)視聴率から視聴者数へ
 テレビの視聴率というのは、諸説あって正確な数字はわかりませんが、仮に1%で約100万人が見ているとしましょう。そうなると、テレビを見ている100万人以下は、視聴率で言うと1%以下、つまりコンマいくつの世界になります。

 AbemaTVなどのネットテレビでは、将棋や囲碁のトーナメントを見ていると、今何万人が観戦中と、視聴者数がリアルに表示されます。

 おそらくゴルフ界も今後、ステップ・アップ・ツアーや海外のトーナメントなどは、そうしたネット配信が増えていくんじゃないですか。そこでは、視聴率ではなく、視聴者数を表示していくことになるでしょう。

 要は、その何万人単位のマーケット、視聴率で言うとコンマいくつの世界で、どう採算を取っていくのか。それが問題となっていくんでしょうね。

(6)ゴルフ中継の歴史
 ゴルフのテレビ中継はもともと1960年代あたりから、全米で始まって大ブームが起きました。アーノルド・パーマーがロングホールで果敢に2オンを狙ったりして、そのダイナミックなプレーに視聴者は釘づけとなりました。そう、実はテレビがゴルフをメジャーにしたのです。

 しかし、日本のゴルフ中継は今や下火。プロ野球も同様です。ただ、プロ野球の中継はゴールデンタイムの座から転がり落ちてしまいましたが、今でもなんだかんだ、うまくやっているじゃないですか。

 同じように、ゴルフもテレビに頼らない運営をすべきかと思います。そんな矢先に、こんなことが起こりました……。

(7)LPGA対テレビ局。ゴルフ中継問題
 ゴルフ中継の重要さをみなさん痛切に感じつつも、その方法論でさまざまな意見が出ています。そうしたなか、LPGA(日本女子プロゴルフ協会)では、今後は放映権をLPGA側が管理する方向で調整していくと、小林浩美会長が発表しました。

 これに反対して、トーナメント中継から降りたのが、日本テレビです。もともとテレビ局主導でトーナメントを開催していたのに、それを反故にして、将来的に放映権はLPGA側が持つとは何事だ、と怒っているのです。

 その結果、今季は日テレ系列の3試合が開催中止と発表されました(※ただし、現在は開催復活に向けて3大会とも再協議中)。

 試合がなくなったら、放映権をどうのこうのと言っている場合じゃないですよね。とはいえ、放映権は大会を実施・運営するスポーツの協会が管理する、というのが世界的な流れです。

 はたして、日本の女子ツアーはどうなっていくのか。今後の行方をしっかりと見守りたいと思います。

 5Gのデータ通信が開始されると、スマホでクリアな動画が長時間見られるようになります。そうなると、総務省が管理する電波行政、放送法の許認可問題を含めて、さまざまな変化が起きます。

 テレビ局とゴルフ団体が”放映権バトル”をやっている間に、人気のユーチューバーなどがスマホで勝手にトーナメントを中継し、そっちを見る人が多かった――なんてことが起こるかも……。

 ゴルフのトーナメント中継においては今、大きなターニングポイントを迎えていることは間違いないようです。