1月13日に行なわれたトッテナム・ホットスパー戦を1−0で勝利すると、オーレ・グンナー・スールシャール監督は選手、コーチ、チームスタッフらと次々に抱擁を交わしていった。 スールシャール監督のもとで全試合に先発しているポール・ポグバとも…

 1月13日に行なわれたトッテナム・ホットスパー戦を1−0で勝利すると、オーレ・グンナー・スールシャール監督は選手、コーチ、チームスタッフらと次々に抱擁を交わしていった。

 スールシャール監督のもとで全試合に先発しているポール・ポグバともハイタッチを交わすと、ベンチにいたすべてのチーム関係者と勝利を分かち合った。そして、45歳のノルウェー人指揮官は、選手とともにアウェーゲームに駆けつけたサポーターのもとへ挨拶に向かった。



2007年に現役を引退し、現在45歳になったスールシャール監督

 その姿は、自軍の選手たちと衝突を繰り返し、孤立を深めていったジョゼ・モウリーニョ前監督とは対照的であった。暫定監督に就任してから公式戦6連勝――。スールシャールの就任を機に前政権時代に欠落していた「一体感」が名門マンチェスター・ユナイテッドに戻ってきた。

 スールシャールは言わずとしれたクラブOBで、現役時代は1998−1999シーズンにチャンピオンズリーグ、プレミアリーグ、FAカップのトレブル(3冠獲得)に貢献。今シーズン終了時までの暫定監督として就任し、アレックス・ファーガソン前監督時代を知るOBとして、「迷える名門」の再建を託された。

 そんなノルウェー人指揮官の評価すべきポイントは、やはり一体感を取り戻したことに尽きる。モウリーニョ前政権はチームとして体(てい)をなしておらず、ピッチ内外で課題が山積みだった。

 とくに目も当てられなかったのが、ピッチ外での醜態。ポルトガル人指揮官は、ポグバ、アレクシス・サンチェス、ロメル・ルカク、アントニー・マルシャル、ルーク・ショウらと代わる代わるぶつかり、その理由も「スタンド観戦中にSNSに投稿した」「練習や試合に臨む態度が悪い」など、およそ名門クラブの問題とは思えないような首を傾げるものばかりだった。シーズンが進むにつれて選手たちから覇気は消え、モウリーニョのために身を粉にして戦うように見えなくなったのは、けっして偶然ではないだろう。

 英紙『サンデー・タイムズ』のジョナサン・ノースクロフト記者は、新任のスールシャールについて「とにかくナイスガイ」と、その人格を褒める。人選や戦術など最終的な決断は自身で下すが、選手やコーチから積極的に意見を聞き入れる柔軟な姿勢を持ち合わせているという。

 また、地元紙『マンチェスター・イブニング・ニュース』によると、トッテナム戦の前にも「どのような戦術で挑むべきか」と、選手たちと意見交換を図ったようだ。

 スールシャールの「対話重視」のアプローチは、試合中のベンチワークからも垣間見えた。2−0で勝利した前節のニューカッスル・ユナイテッド戦、そして今回のトッテナム戦でも、コーチのマイケル・キャリックやキーラン・マッケナ、マイク・フィーランと言葉を交わしながら戦略を練る姿があった。

 また、テクニカルエリアでも、キャリックやフィーランのコーチ陣がベンチから出向き、指揮官に代わって何度もタッチラインから指示を出していた。前政権ではテクニカルエリアで独りたたずむモウリーニョの姿がお馴染みの光景だっただけに、こうしたベンチワークにも前政権との違いが見て取れた。

 ピッチ内でも、指揮官交代の変化は確認できる。基本フォーメーションを4−3−3とし、ポグバをインサイドMFに固定。ポグバのダイナミックなプレーがもっとも活かせるポジションに配置すると、確かなポジションニングとパスワークでチームプレーを円滑にするアンデル・エレーラでその脇を固めた。周囲を生かす動きに長けるエレーラが入ったおかげで、これまで精彩を欠いていたフランス代表MFは息を吹き返し、5試合で4ゴール&4アシストと別人のような輝きを見せている。

 また、イングランド代表のマーカス・ラッシュフォードをCFのスタメンに固定している点も、スールシャール采配の特長のひとつだ。モウリーニョ前政権では左右両サイドのウィングとしてプレーすることが多かったが、スールシャールはルカクをベンチに置いてでも、ラッシュフォードのCF起用にこだわる。

「マーカスは、イングランド代表FWのハリー・ケインに匹敵するポテンシャルを秘めている」とスールシャール。自身も稀代のストライカーとして名を馳せただけに、21歳のイングランド代表FWに特大の期待を寄せているようだ。そんな指揮官の思いに応えようと、ラッシュフォードもリーグ戦5試合で4ゴールと爆発。試合を重ねるごとにフィニッシュワークに磨きをかけている。

 それでも、スールシャールの手腕に懐疑的な意見もあった。就任から公式戦5連勝を飾ったが、カーディフ・シティ、ハダースフィールド・タウン、ボーンマス、ニューカッスル、レディング(FAカップ3回戦)と、相手はいずれも格下だった。

 実際、ボーンマス戦もニューカッスル戦も「依然として連係構築中」といった印象で、最低限の決まりごとのなか、「個の力」で敵をねじ伏せた感が強かった。それゆえ、英BBC放送も「上位陣のトッテナムとの一戦こそが試金石」と位置づけていた。

 ところが、フタを開けてみれば、そのトッテナム戦も勝利した。後半はトッテナムの猛攻を受け、11セーブを記録したGKダビド・デ・ヘアの神がかったシュートストップがなければ、結果は違っていたかもしれない。しかし、トッテナム対策として、本来はMFのジェシー・リンガードを「偽9番」として起用したり、先制点を奪った後は重心を低くして守備重視でプレーしたりと、これまでの試合にはなかった戦術幅も見せた。

 前任者に比べると守備タスクを大幅に軽減させ、選手の自主性を尊重した。ミスを叱り飛ばすのではなく、積極果敢に仕掛けるよう選手たちにハッパをかけた。「私の仕事は、選手にサッカーを楽しんでもらうこと」。就任の際に発した言葉どおり、スールシャールはマンチェスター・Uを包んでいた閉塞感を払拭したように映る。

 そして気になるのは、アレックス・ファーガソン氏の存在だ。愛弟子の就任以降、2度にわたりトレーニング場を訪問して激励。英メディアの報道によると、ファーガソンの右腕を務めたフィーラン・コーチの入閣も、77歳の御大の意向によるものだという。スールシャール監督もファーガソンの自宅を訪れ、恩師からアドバイスを仰いでいるようだ。

 このまま航海を続ければ、英メディアでも待望論が高まる「正式監督就任」も現実味を帯びてくるだろう。

 ライバルのリバプールやマンチェスター・シティから成績で大きく離された。戦術面で甚大な開きがあるのは事実だが、ここまでのところスールシャールの名門再建は順調に進んでいる。