「悔しいです」 試合後の記者会見で、流通経済大柏(千葉県)の本田裕一郎監督は、開口一番、偽らざる感情を吐き出した。2年ぶり2度目の高校日本一に輝いた青森山田 昨年大会では、決勝で前橋育英(群馬県)に敗れて準優勝。リベンジの想いを抱いて迎…

「悔しいです」

 試合後の記者会見で、流通経済大柏(千葉県)の本田裕一郎監督は、開口一番、偽らざる感情を吐き出した。



2年ぶり2度目の高校日本一に輝いた青森山田

 昨年大会では、決勝で前橋育英(群馬県)に敗れて準優勝。リベンジの想いを抱いて迎えた今年の決勝でも、青森山田(青森県)に力の差を見せつけられて逆転負けを喫した。2年連続で屈辱を味わった指揮官の心中は察するに余りある。

 途中までは流経大柏のペースといってよかった。持ち前のプレスで相手の攻撃の精度を狂わせ、奪ったボールはシンプルに前線に供給。相手を深い位置に押し込んでは、セットプレーやスローインのチャンスをつかみ、青森山田ゴールへと迫った。

 先制点も得意のセットプレーから。32分、大黒柱のDF関川郁万(いくま/3年)が打点の高いヘッドを叩き込み、狙いどおりの試合運びを展開できていた。

 悔やまれるのは、前半終了間際に浴びた同点弾だろう。ラインコントロールがうまくいかず、オフサイド崩れの形から左サイドを破られると、相手のエース檀崎竜孔(りく/3年)に同点弾を浴びてしまう。

 これで流れを失うと、後半には青森山田の個人技に翻弄されて、逆転ゴールを許してしまう。終盤には関川を前線に上げてパワープレーに一縷(いちる)の望みをかけたが、逆にカウンターから3点目を奪われ、万事休した。

 1-3の完敗。昨年のリベンジを狙った流経大柏が決勝の舞台で直面したのは、残酷なまでの現実だった。

「父兄や応援団、ファンだったらよくやったと言うと思いますが、私は指導者なので、子どもたちにはクソゲームだったと言いました。ただ、そのクソゲームを作った原因は、私にある」

 勝たせてあげられなかった――。名将の胸の内にあるのは、無念の想いだろう。何よりも勝負にこだわる指揮官である。勝てなければ、クソゲームである。よくやったと言わないことこそが、愛情表現でもあるのだろう。

 本田監督にひとつ後悔があるとすれば、攻撃パターンを最後まで構築できなかったことではないか。ハードワークやデュエルの部分を求めるあまり、攻撃の形をうまく作れなかった。大会を通じて奪ったゴールの大半が、ロングスローも含めたセットプレーやリスタートからだった。

「攻撃の部分はもう少しやらないといけないな、というのが今大会の反省です」

 名伯楽は自らを戒めながら、来年度のリベンジを誓った。

 一方、青森山田にとっては、苦しい前半だった。中盤でのつぶし合いが続き、なかなか攻め手を見出せない。しかも、相手の縦に速い攻撃に後手を踏み、セットプレーの機会を次々に与えてしまう。

「準決勝同様ファウルが多くて、相手にFKやロングスローの機会を何度も与えてしまった。あれだけ与えれば、いつかは入るだろうなと感じていた」

 青森山田の黒田剛監督は、相手の術中にハマりつつあった前半に危機感を覚えていた。しかし、40分に生まれた同点弾が、やはり大きかったという見解を示した。

「あれで目が覚めた。1-1で追いついて、フラットの状況になってからは、冷静に戦うことができました」

 落ち着きを取りもどした青森山田は、後半に入ると勢いを加速させる。

 キーワードは、ドリブルだろう。前半はパスがつながらず、なかなか攻め手を見出せなかったが、後半に入るとドリブルで持ち上がる機会が増加。相手のプレスを個人技で剥がすことで、ギャップを生んでいったのだ。

 とりわけ輝きを放ったのが、両サイドアタッカーのふたりだ。右のバスケス・バイロンと左の檀崎。両翼の積極的な仕掛けこそが、流経大柏の堅守を切り刻んだのだ。

「今日はとことん強気でいけと言いました」と、黒田監督はその狙いを説明する。

「流経さんの守備がボールに対して食いついてくるのはわかっていたので、何回でも切り返してゴール前に入っていけと。案の定、相手はそこに食いついてきたので、そうした個人戦術がうまくハマったと思います」

 ボールホルダーに対して複数人で襲いかかる流経大柏の守備は、そこで剥がされてしまえば、他のエリアが数的不利に陥ってしまう。バスケス・バイロンの突破から檀崎が決めた逆転弾は、まさに相手の弱点を突いた見事な一撃だった。

「準々決勝、準決勝、そして決勝と、すべて先制点を奪われ、我々が描いていたゲームプランとは異なった入りとなりました。そのなかで選手たちが平常心を保ち、精神力をコントロールしながら逆転のできるチームになった。選手たちの成長を称えたいと思います」

 2年前に続き、2度目の日本一に導いた指揮官は、選手たちのパフォーマンスに目を細めた。

 黒田監督が、そう感じるのには理由がある。

「本当にヤンチャなところのある学年でしたし、何回ぶち壊れたかわからない」チームだったからだ。

 2年前の優勝メンバーである檀崎も、今年のチームについて、「個の強い選手が多く、なかなかひとつの方向にまとまらなかった」と、一枚岩になれなかったことを認めている。

 22年連続で選手権に出場するだけでなく、世代のトップが集結するプレミアリーグEASTにも参戦し続ける青森山田には、全国から猛者たちが集まる。個性派ぞろいのチームがひとつにまとまるのは、一筋縄ではいかない作業なのだろう。

 夏のインターハイでは昌平(埼玉県)に敗れ、2回戦敗退の屈辱も味わった。今大会前にはキャプテン交代というショック療法も施した。そうした紆余曲折を経ながらも、青森山田は集大成である選手権に向け、着実に結束力を高めていったのだ。

「選手権で優勝するために、青森山田に入った」と檀崎は言う。これは、彼ひとりだけの想いではないだろう。日本一になるために、親元を離れ、寒さの厳しい青森の高校の門を叩く。その環境の厳しさを求め、Jクラブのユースチームから”移籍”する選手も、今では珍しくなくなった。

「雪国だからといって、サッカーでハンデになることはなく、苦しい思いをして春先にボールを蹴れることを待ち望んで数カ月を過ごすのが、我々の指導で重要なこと。雪国が育成には最高の条件だと言われるように、青森のよさを全国に発信していきたい。3年間で2回優勝できたことで、それを発信できていると思う」

 黒田監督は、雪国だからこそ成長できるものがあると主張する。

 柴崎岳(ヘタフェ)ら多くの名手を輩出した強豪校には、今回の優勝で成長を求める全国のサッカー少年たちがさらに集うだろう。個性を伸ばし、メンタルを鍛え、日本一を手に入れるための環境が、ここにはある。雪国の希望――青森山田は今後も高校サッカー界の牽引者であり続けるのではないか。