4年に一度開かれるワールドカップは、日本ではもっとも注目を集めるメインイベントになっているが、サッカーの”日常”に照らせば、実はかなり特殊な大会だ。 歴史的、かつ世界的に見て、サッカーではリーグ戦、すなわち毎週…
4年に一度開かれるワールドカップは、日本ではもっとも注目を集めるメインイベントになっているが、サッカーの”日常”に照らせば、実はかなり特殊な大会だ。
歴史的、かつ世界的に見て、サッカーではリーグ戦、すなわち毎週末に1試合ずつ、ホーム&アウェーの総当たりで優勝を決める方式が、競技運営のベースになっている。ときにカップ戦の試合が、水曜日前後に入り、週に2試合こなすこともあるが、それが毎週続くわけではない。
ところが、ワールドカップの場合、1次ラウンドのみリーグ戦が行なわれるが、その後は一発勝負のトーナメント方式。しかも、中3、4日程度の試合間隔で、約1カ月間の大会期間中に最大7試合を戦わなければならない。
週に1試合のリーグ戦なら、「勝っているときは変えるな」の格言にならい、メンバーを固定して戦うことも可能だろうが、ワールドカップで同じことをすれば、疲労の蓄積から選手のパフォーマンスが低下していくのが当然のこと。ましてや、息つく暇のないハードワークが求められる現代サッカーにおいては、その傾向が顕著である。
だからこそ、ワールドカップのような特殊な大会では、ターンオーバーとか、ローテーションとか言われる”選手の入れ替え”が不可欠になる。
仮に本来的な力では対戦相手が上でも、選手を入れ替えながら戦うことでパフォーマンスの低下を抑えられれば、相対的な力関係を縮める、あるいは逆転することもできる。つまりは、登録メンバー全員をフル活用することは、決して苦肉の策などではなく、積極的に活用すべき武器になりうるのだ。
翻(ひるがえ)って、現在、UAEで開催中のアジアカップである。
日本はグループリーグ第2戦で、オマーンに1-0で勝利。2連勝の日本はグループ2位以上が確定し、第3戦を待たずして、決勝トーナメント進出を決めた。
内容的に言えば、ほめられる試合ではなかった。
立ち上がりから次々に決定機を作りながら、それを得点に結びつけられず、相手のやる気に火をつけてしまう。得点を取れるときに取っておかないと痛い目に遭うという、典型的な試合である。実際、幸運なPK判定を味方につけて1点をリードしたあとは、日本のチャンスが減少する一方で、オマーンの攻撃を受ける回数は増加した。
グループリーグ第2戦、オマーン相手に苦しんだ日本代表
とはいえ、「(1点リードの後半は)”事故”が起きないようなパス回しをした。(追加点を取りにいく)思い切りのよさに欠けたという見方もできるが、これもひとつの策というか、戦術だと思う」とMF柴崎岳(ヘタフェ/スペイン)。スコアのうえでは最少得点による辛勝だが、両チームの実力差を考えれば、勝敗に関しては妥当な結果だろう。
わずかな事前準備で臨んだ大会の2試合目。加えて、明らかに力が劣る相手と戦うことの難しさも考慮すれば、キャプテンのDF吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)が言うように、「(今の日本代表は)新しいチームで、新しい選手。苦しい試合を一つひとつ勝っていくことが自信になる」と、前向きに捉えてもいい試合ではないだろうか。
むしろ、そんなことよりも気になったのが、森保一監督の選手起用だ。
オマーン戦での日本の先発メンバーは、初戦のトルクメニスタン戦から、DF槙野智章(浦和レッズ)がMF遠藤航(シント・トロイデン/ベルギー)に、FW大迫勇也(ブレーメン/ドイツ)がFW北川航也(清水エスパルス)に入れ替わったのみ。そのうち、大迫の欠場はケガによるものなのだから、積極的な入れ替えは、実質ひとりだけだったと言っていい。
選手交代にしても、ひとりしか代えなかった初戦に続き、この試合でもふたりしか代えず、3人の交代枠を使い切らずじまい。結局、この2試合でピッチに立った選手は、全部で15人である。これではあまりに少なすぎる。
しかも、対戦相手のレベルが上がる決勝トーナメントはもちろん、ウズベキスタンと対戦するグループリーグ第3戦を含めても、第1、2戦がおそらく最も楽な対戦相手だったはずである。つまりは、比較的余裕を持って選手を入れ替えられる状況だったにもかかわらず、現状におけるベスト(と思しき)メンバーを固定した選手起用は、どうにも解せない。
すでに決勝トーナメント進出が決まったことで、何人かの選手からは、第3戦ではメンバー変更があることを予想する声も聞かれた。だが、そうだとしたら、負けが許されない一発勝負の決勝トーナメントは再び、ベストメンバーで固定されてしまうのだろうか。決勝まで戦うとして、7試合のうち6試合は、(ほぼ)同じメンバーで戦うつもりなのだろうか。
新生・日本代表の立ち上げから4カ月ほどの現在、多くの選手をテストしながら、国際舞台での真剣勝負を経験させることは、日本代表候補のパイ全体を広げるという点で大きな意味を持つ。2022年ワールドカップまでを長い目で見るからこそ、もっと多くの選手を使ってもらいたい。そんな気持ちは、もちろんある。
だが、森保監督の選手起用に疑問を感じるのは、それだけが理由ではない。
アジアカップはワールドカップと同じか、日程的にはそれ以上に特殊な大会なのである。決勝までの7試合すべてを中3日以内で戦わなければならない日本にとっては、肉体的な消耗を避けることが、今大会の優勝に近づく合理的なアプローチなのではないだろうか。
目先のタイトルにこだわるのだとしても、選手の入れ替えは有効だと思う。