レスター・シティの岡崎慎司が移籍希望を明らかにしたのは、1月12日に行なわれたサウサンプトン戦後のことだった。 この試合の2日前、英紙『デーリー・テレグラフ』のジョン・パーシー記者が「ハダースフィールド・タウンが岡崎に獲得オファーを出…
レスター・シティの岡崎慎司が移籍希望を明らかにしたのは、1月12日に行なわれたサウサンプトン戦後のことだった。
この試合の2日前、英紙『デーリー・テレグラフ』のジョン・パーシー記者が「ハダースフィールド・タウンが岡崎に獲得オファーを出した」と、クラブ間交渉があることをツイッターで暴露した。「レスターがオファーを断った」(同記者)ことで商談は成立していないが、ここにきて岡崎の周辺が一気に騒がしくなった。
岡崎慎司は今季リーグ戦で1試合しか先発していない
迎えたサウサンプトン戦で、岡崎は18名からなる試合メンバーから外れた。スーツ姿で観戦した試合後の取材エリアで、岡崎は思いの丈を語った。
「(移籍が成立するかは)もうチーム次第(=レスター)という感じですね。レスターで今は必要とされているのか、されていないのかわからない状況で。試合に出ても3分とか10分とかっていう状況は、選手として満足できない。
3年半いたっていうことも、(移籍に向けて)やっぱりプラスに働いています。もう出る時期かなって思っている。しかも、こんな形でメンバー外になったら、もちろん(自分を)求めてくれるチームが一番だと思うし。
(移籍市場が閉じる)1月の終わりまで、まだ長いんでね。そこまではやれることをやって。もちろん、レスターで試合に出られるならいいですけど、そういう間は、やっぱりなかなかメンバーに入るのは難しいです」
今シーズンの岡崎はレスター加入以来、もっとも厳しい状況に置かれている。
プレミアリーグ第22節まで先発試合はわずか「1」で、途中出場が12試合。ただ、ベンチからピッチに投入されても出番が3〜10分程度の限られた時間しかなく、消化不良のまま試合を終えることが圧倒的に多い。プレー時間は在籍4シーズン目にして、もっとも短い。
加えて、年末年始の過密日程期でも出番がなかった。中2〜4日で4試合をこなすハードスケジュールに入っても、国内リーグ戦で先発の機会は1度も与えられなかった。途中交代で入った2試合のプレー時間を合わせても、わずか13分しかない。
FAカップ3回戦での扱いにも首をひねった。試合日は過密日程の最終日にあたる1月6日。相手は英4部所属のニューポート・カウンティだった。
岡崎は4−2−3−1のトップ下として久しぶりに先発したが、1.5軍メンバーで臨んだレスターはエンジンがかからず、ニューポートに先制点を与える苦しい展開に陥った。だが、それでも試合の主導権を握っていたのはレスター。格下相手に我慢強く試合を進めていけば、状況を打開できるように思えた。
そのなかで、岡崎は前半の2度のゴールチャンスを決めきれなかった。ただ、繰り返すが、この日のレスターはチーム全体が不調。まったくチャンスに絡めないCFのケレチ・イヘアナチョのほうがずっとブレーキになっていたように思うが、ハーフタイムに交代を命じられたのは岡崎だった。
シーズンを通して十分な出番を与えられていない岡崎は、相当な気合いを入れてこのFAカップに臨んだはずだが、まるで懲罰のような不可解な采配で前半だけでピッチを後にした。しかも、後半からMFジェームズ・マディソンなど主力選手を投入しながら、レスターは1−2で敗戦。この試合の采配に、岡崎を戦力として見ていないクロード・ピュエル監督の「答え」を見たような気がした。
それでも、岡崎本人は去就について、「試合に出ている、出ていないだけでは絶対に決めない」と語り、「自分にとって、レスターでやる意味があれば、全然ここに残る。だから3年半、レスターにいたということがすべてなのかな」
レスターとの契約は残り半年。レスターに在籍した3年半でやれることはやった。そうした強い自負があるからこそ、心は移籍ひとつで固まったようだ。
とはいえ、獲得オファーを出したハダースフィールドは、プレミアリーグで厳しい戦いを強いられている。プレミアリーグ第22節終了時点で、順位は勝ち点11の最下位――。直近9試合で8敗1分の超低空飛行を続けており、残留圏17位のカーディフ・シティにも8ポイント差をつけられている。
つまり、来シーズン降格の可能性が高いのだ。理想的な新天地というわけではないが、岡崎はそれでもハダースフィールドに飛び込みたいと話す。
「残留するという目的が決まっているチームなので、僕のこの崖っぷちの状況からしてみれば、全然いい。むしろ、自分のすべてを出したい。新しい目標が短期間でもあれば、やっぱり選手としてもそこに注げる。いいオファーだと思う」
ハダースフィールドの最重要課題は、リーグワーストの13ゴールしか挙げていない得点力にある。FW陣がそろって不振で、1試合平均のゴール数は「0.59」点。これでは勝利につなげるのは難しく、前線のテコ入れが急務である。
ただ、岡崎も約1年前のサウサンプトン戦を最後にゴールを奪っていない。では、なぜ岡崎なのか? それは、ハダースフィールドのプレースタイルと密接に関係している。
ドイツ系アメリカ人のデイビッド・ワグナー監督は、2011〜2015年までドルトムントのリザーブチームを指揮した。そのワグナーをドルトムントに誘ったのが、現リバプール監督のユルゲン・クロップ。ふたりは師弟関係にあり、標榜するプレースタイルもプレッシングサッカーで一緒だ。
プレミア昇格1年目の昨シーズンは、このプレッシングサッカーで「1部残留」を果たした。格上相手にも怯むことなく、前線から積極的にプレスをかけるサッカーは、英国内でも高く評価された。
おそらく、ワグナー監督は前線からのプレスに定評のある岡崎を「チームの着火剤」として期待していたのだろう。もちろん、ドイツ・マインツでゴールを重ねた岡崎を知るワグナー監督だけに、もともと持つ得点力にも注目していたはずだ。
しかし、である。「移籍のキーマン」と見られたワグナー監督が14日に電撃退任した。これで岡崎獲りも先行きが不透明になった可能性はある。
また、所属先のレスターの意向も、退団に向けて大きな障壁だ。選手を安価で売却しないポリシーを貫いており、実際、岡崎への獲得オファーを断った。
現スカッドを見ても、シーズン開幕時に戦力外を通告したMFアンディ・キングやDFダニー・シンプソンの放出を、今も認めていない。ベンチにも入れない「飼い殺し」が続いているポルトガル代表MFアドリアン・シウバの扱いにも、レスターのシビアな経営方針の一端が見えるだろう。
はたして、レスターは今シーズン終了時まで契約のある岡崎の売却を認めるのか。あるいは、レンタルで譲渡するのか――。岡崎は「思いを伝えながらやっていきます」と力を込める一方、ピュエル監督は「岡崎はレスターの選手」と強調しつつ、「冬の移籍期間で様子を見てみよう」と含みを持たせた。