名将と呼ばれた前任の渡辺元智監督の退任を受け、昨年から伝統校・横浜高校を率いることになった平田徹監督。勝つ方法や勝てる方法を詰め込むステレオタイプの指導方法は選択せず、時代や生徒の変化に合わせて、選手の自主性を重視しながら長所を伸ばす野球で…

名将と呼ばれた前任の渡辺元智監督の退任を受け、昨年から伝統校・横浜高校を率いることになった平田徹監督。勝つ方法や勝てる方法を詰め込むステレオタイプの指導方法は選択せず、時代や生徒の変化に合わせて、選手の自主性を重視しながら長所を伸ばす野球で勝利を目指す指導方法を取ることにした。同時に練習内容にも、時代の流れを取り込んだ。

■木製バットを使ったロングティーでの練習で打撃力アップも

 名将と呼ばれた前任の渡辺元智監督の退任を受け、昨年から伝統校・横浜高校を率いることになった平田徹監督。勝つ方法や勝てる方法を詰め込むステレオタイプの指導方法は選択せず、時代や生徒の変化に合わせて、選手の自主性を重視しながら長所を伸ばす野球で勝利を目指す指導方法を取ることにした。同時に練習内容にも、時代の流れを取り込んだ。

 就任後、大きく変わった練習内容は5つある。木製バットの導入、ロングティーの練習時間を拡大、ウエイトトレーニングの導入、基本的な栄養学の指導、そして投手は週2日完全ノースロー調整を行うことだ。この新練習メニューを取り入れた目的と、結果が求められる中でも、個性を伸ばす野球にこだわる理由を語ってくれた。

――高校野球では金属バットが使用されますが、横浜高校ではロングティーの練習時に木製バットを使用しています。その理由を教えてください。

「今どきの金属バットは、すごく性能がよくて振りやすいんですよ。軽いし、ボールがバットに当たれば、詰まった当たりでも飛んでいく。バットの先に当たれば、軽く内野の頭は越えます。でも、木のバットは、そういうごまかしが一切利かない。変な打ち方をすれば折れるし、きちんとボールを捉えて運ぶスイングをしないと打てませんから。さらに、金属バットより多少重量感があるので、木のバットで打つことを当たり前の習慣にしてしまえば、金属バットに切り替わった時『こんな楽なことはない』と思えるんですよ」

――レギュラー陣に限らず全員が木製バットで練習しているんですか?

「そうですね。幸い、卒業生にはプロ野球に進んでいる選手もいるので、彼らに頼んだり、社会人野球に進んだ選手に頼んだりしながら、一生懸命かき集めてやっています。ある意味、選手は贅沢ですよ。高校生が筒香(嘉智・DeNA)のバットを振り回して練習しているんだから(笑)。贅沢ですよね。でも、練習していると、筒香の長くて重いバットを、高校生でも振れるようになってくるんです」

――練習でも柵越えを連発していました。

「手前味噌ですけど、高校生が木のバットで柵越え連発することは、あまりないでしょうね。おそらくロングティーでの打撃練習がよかったんだと思います。冬場からロングティーでの練習に取り組んで、とにかく遠くに飛ばすことを目標にしてきた。そこで木のバットを使って思い切りスイングすることが身体になじんだんでしょう」

■投手は週2日ノースロー調整「高校野球で終わるわけではない」

――身体と言えば、横浜高校の選手は全体練習中にも大きな重りを上げたり、そこかしこで軽いウエイトトレーニングをしています。

「昨年からフィジカルコーチに来てもらって、毎週木曜日はウエイトトレーニングの日にしています。この日はグランドでの練習はなし。自分で動きたいと思えば、個人練習としてキャッチボールなど軽い練習はしています。ウエイトトレーニングといっても、筋力をつけるというよりは、体幹を鍛えることが目的ですね。

 加えて、ザバスさんに強力してもらって、簡単な栄養学セミナーも開きました。そこから選手の食に対する意識が少し変わったと思います。休憩時間におにぎりを頬張ったり、練習が終わった後にサプリメントを取ったり。そういう光景が随分当たり前になったかなと。腹が減ったという状態になる前に、常に栄養補給はしていると思います。この2つのおかげで、身体が格段によくなった生徒もいますね」

――若いうちに正しい知識を身につけて損はありません。

「多感な時期なんで、情報を与えるとどんどん吸収する。精神的なことで言えば、昔ながらの非合理なことが大事な時もありますが、これからは合理的なことを基本にしていかないといけないかなと」

――投手に週2日はノースロー調整させるのも、生徒の将来を考えた場合、合理的な取り組みと言えそうです。

「選手たちの野球人生は高校野球で終わるわけではない。もちろん、高校の3年間という限られた時間の中で成果を上げることも大事です。でも同時に、本当に才能のある子は、先々プロ野球だったり、侍ジャパンだったり、あるいはメジャーリーガーという風に夢が広がる。そういう大事な財産を預かったという意識を持って、慎重に育てていかなければいけないと思っています。

 見方によっては、甘いと言われる部分もあるかもしれない。でも、コンディションにしっかり気を配りながら、選手の優れた個性を最大に伸ばすということと、トーナメントに勝つということは、決して相反することではない、同じ方向に向かうラインだと思うんですよ」

■「選手の優れた部分を最大限に引き出してチームにまとめるのが、監督の仕事」

――選手の個性を伸ばす=勝敗は気にしない、という考え方をする人は多いと思います。

「僕は選手の優れた部分を最大限に引き出して、そこからどうやってチームにまとめ上げていくか、というのが、監督の仕事だと思っているんです。選手の持っている力を、どうやってチームに還元していくか、どうやって生かすか。例えば、桂馬に金の動きをしろと言ってもできない。それは指し手が上手く使わないと、駒は光りませんから。僕の仕事はそこにあると思っています。桂馬なら桂馬、香車なら香車、歩なら歩、その個性を最大限に伸ばしながら、自分のキャラクターをどうやってチームの勝ちに結びつけることができるのかを考えてプレーしてほしい。あとはこちらが上手くまとめていく。そういうことだと思うんです」

――監督にしてみれば、自分の戦法に選手をはめ込んで指導する方が楽に思えますが…。

「いや、そういう指導法を取っている人の方が苦しいんじゃないかと思います。教える指導者も、やらされる選手も息が詰まっちゃうんじゃないかと。やっぱりスポーツですから楽しい方がいい。好きこそものの上手なれ、じゃないですが、『俺のところに打球が飛んでこい』『チャンスで俺に回ってこい』という心境になれない限り、いいプレーって出ないと思います」

――監督の手元には毎年違った駒がそろい、違ったチーム作り、違った戦術を考えなければいけない難しさもある一方で、毎年違った楽しみも生まれそうですね。

「変な言い方かもしれませんが、そこが一番面白いところじゃないですかね。もしかしたら、来年はチームに合っているからと、ステレオタイプの練習をやっているかもしれない(笑)。そろった駒によっては、バントバントという野球になるかもしれない。ただ、選手を内発的なモチベーションに持っていく、やらされる野球をやりたくないっていう軸はぶれたくないですね」

(続く)