専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第187回 以前、ゴルフウェアの取材で大きなショップに行ったのですが、自分に合う服のサイズがなくて、愕然としました。 そのショップは、有名ブランドをそろえている最先端ファッショ…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第187回

 以前、ゴルフウェアの取材で大きなショップに行ったのですが、自分に合う服のサイズがなくて、愕然としました。

 そのショップは、有名ブランドをそろえている最先端ファッションの店でした。そこで、ウエストが92cmのパンツを探したら、なかったのです。一番大きいサイズでも、せいぜいウエスト85cmぐらいでしたか。

 ポロシャツも最大でLサイズですから、それを試着するとヘソが見えそうで……。それは、自分の腹が出ているからなんですが。ほんと、すみません……。

 これじゃあ、無理やり我慢して着用したとしても、ドライバーで打った瞬間、パンツもシャツも破けてしまいそうです。ちょっと欲しいなぁと思ったのですが、泣く泣く断念しました。実は値段も高かったので、逆にサイズが合わなくて、ホッとしている部分もありましたが……。

 それにしても、お洒落なゴルフウェアって、現実の客層とだいぶかけ離れていますよね。ポスターに起用されているモデルさんは、たいがい20代後半のイケメン。体が細くて、しかもゴルフがうまそうです。生物学的&経済的に見ても、そんな人なんて、石川遼選手以外いないじゃん!?

 そのうえ、20代前後の若くてきれいな女の子を連れて一緒に写っていますからね。ゴルフ場で、そんなに若くて、きれいで、ゴルフが上手な子なんて、見たことないですよ。貴重性で言えば、イリオモテヤマネコ級です。

 かつて、女性ゴルフ誌の方とお話したことがあるのですが、事実、女性ゴルファーの多くは40歳以上で、30歳代はチラホラいるけど、20代は非常に少ないと言っていました。

 そうして、ゴルフ場にいる多くの40歳以上の女性は”昔取った杵柄”なのか、当時のフリフリで派手なファッションを引きずっているんですよね。ぼんぼりのついたハイソックスって、”ハマトラ(横浜トラディショナル)”かよ~。

 だから、ゴルフ場でショッキングピンクや赤のミニスカを穿いた女性を見つけて、さりげなく顔を覗いてみると、すげぇオバさんだった!?ってことがよくあります。この高齢で派手なファッションの原点は、今は亡き帝人の社長夫人、大屋政子さんじゃないかと思います。



確かにゴルフ場には派手なウェアを着たオバさま方が結構いらっしゃるんですよね...

 そんなわけで、ゴルフウェアを扱っている大きなショップに実際に行ってみると、面白い現象に出くわします。

 たとえば、海外の有名ブランドや、国内でも結構お高めな、ポロシャツやパンツが軽く1万円以上して、トータルコーディネートで5万円ぐらいするブランドは、同じフロアにまとまっています。

 つまり”デブ出入り禁止エリア”を設けているのです。ブランドイメージが下がるから、デブは着ないでください――そう、やんわりと諭しているんですな。

 逆に別のフロアやブースでは、ポピュラーなブランド、あるいは総合カジュアルメーカーがそろっていて、そこではでっかく値段を掲げて、「デブ、ウェルカムだよ」と迎えてくれます。

“デブ、ウェルカム”エリアでは、ゴルフ専門のブランドは少なく、総合衣料ブランドのポロシャツやパンツが勢ぞろいしています。その中でも、オヤジが好むのは『GAP』や『エディー・バウアー』などですが、最強はやはり『ユニクロ』です。

 店舗で販売しているパンツは、ウエスト92cmぐらいまでですが、ネットショップだとウエスト1m超えも購入可能。実にうれしいじゃないですか。『ユニクロ』が流行る理由、わかるわぁ~。

『ユニクロ』のポロシャツは、以前はペナペナで、ゴルフに着ていくのは「ちょっと……」という感じでしたが、今や質感が向上。デザインも一新されて、すごくいいです。

 冷静に考えますと、お洒落な細身ブランドを買う層は、そんなにゴルフ場にいないじゃないですか。じゃあ、どこで売れているのか? それは、単なるファッションとして、街で着ているのです。いわゆる”街着”ですな。

 ここで、タウン着とスポーツウェアの微妙な関係を考察してみたいと思います。

 ファッションというのは、さまざまなジャンルからエッセンスを抽出し、お互い影響を受けます。

 たとえば、ゴルフ場でかぶる帽子。一時、帽子のツバの部分をボロボロにさせるのが流行りました。

 わざと穴の空いたジーンズを穿く、それに似た使用感を演出するのです。3年ぐらい使い込んで、擦り減り感があるのがお洒落、そう言いたいのです。そして、そのツバがよれよれの帽子を、人気の若手プロゴルファーが着用して「カッコいい~」となりました。

 すると、その姿を見た重鎮のプロゴルファーが、「あんな、よれよれの帽子をかぶって……。帽子を買う金がないのか? プロなんだから、新しい帽子を買いなさい」って、ほんとギャグみたいな発言をしていました。

 同様に、最近の若手プロゴルファーは、ジーンズのようなパンツを穿いて試合に出場しています。「これ、まんまジーパンだろ?」「規則とか、マナーに触れないのか?」と、多くのアマチュアゴルファーからも問題視する声が聞こえてきそうです。

 答えから言えば、ゴルフメーカーがゴルフウェアとして作ったものであれば、原則的にゴルフ場でも着用できるそうです。問題となるのは、青いデニム生地。そこさえ避けていれば、オーケーみたいです。

 このように、ゴルフウェアは街のファッションから多大な影響を受けています。

 一方で、ゴルフウェアから街のファッションに影響を与えたことは、さほどありません。

 タイガー・ウッズがデビューした頃は、タイガーが着ていたナイキのポロシャツが爆発的に売れました。ゴルフをしない人も、みんなナイキを好んで着ていました。シャツだけでなく、シューズ、パンツ、キャップまですべて売れていましたからね。あの頃のナイキは、どんだけ儲かったんだろう……。

 その後、タイガーは自らの『TW』ロゴを使用したタイガーブランドを立ち上げ、現在に至っています。タイガーの復活によって、最近久々に『TW』マークのついたポロシャツを着てみたのですが、なかなかいい感じだ、と改めて認識しています。

 さて、今後ゴルフファッションが一般のファッションに影響を与えるには、いろいろな壁を越えないといけないと思います。

 たとえば、ポロシャツの着こなし。ゴルフではポロシャツの裾をズボンの中に入れますが、街でポロシャツの裾をズボンの中に入れている人は皆無です。そういう着こなしをどう解決するか、ですよね。

 パンツも同様です。街でジーパン風のパンツを穿くなら、普通にジーパンを穿けばいいですからね。

 あと、短パンですよね。正式な試合では、事実上禁止になっています。帯同キャディーは、ここ10年ぐらいで認められるようになりましたが……。

 つい最近まで、日本ではダボダボの3タックパンツを穿いた選手がいました。それも、紫色とか。ちょっと信じられません。

 そんな状況では、とても一般のファッションに影響を与えるとは思えません。第一、ゴルフは「オヤジのスポーツ」で、一般的に「ダサい」と言われています。

 ゴルフ業界の復活は、ファッションでも解放政策を採り、”カッコいいスポーツ”として扱われるようにならないといけないでしょうね。そうじゃないと、みんな、興味を持ってくれないと思います。