帝京長岡のベスト8進出は、新潟県勢として史上4度目。そのうちの3度は第91回大会(2012年度)以降のものであり、今大会のベスト8は昨年度の日本文理に続く、2年連続である。 かつては初戦敗退が当たり前だった、新潟県代表校の躍進が目覚ま…
帝京長岡のベスト8進出は、新潟県勢として史上4度目。そのうちの3度は第91回大会(2012年度)以降のものであり、今大会のベスト8は昨年度の日本文理に続く、2年連続である。
かつては初戦敗退が当たり前だった、新潟県代表校の躍進が目覚ましい。帝京長岡の古沢徹監督が語る。
「新潟は北信越の”お荷物県”だったが、今は北信越プリンスリーグ(での成績)も含め、レベルは上がっており、県予選を勝つのも難しくなっている。2年連続ベスト8はフロックじゃない」
第97回全国高校サッカー選手権大会準々決勝。帝京長岡は尚志(福島県)に0-1で敗れ、新潟県勢初のベスト4進出はならなかった。
「すばらしい雰囲気に飲まれ、本来やらなければいけないことができなかった。ガチガチだった」と古沢監督。キャプテンのDF小泉善人(よしひと/3年)も「立ち上がり、会場の雰囲気に飲まれてしまった」と振り返る。前半なかばの決勝点は、ちょっとした呼吸のズレから生じたパスミスを突かれての、やらずもがなの失点だっただけに、何とも悔やまれる敗戦ではある。
しかしながら、帝京長岡が今大会で残したインパクトは、決して小さなものではなかった。
帝京長岡のサッカーは見ていて面白かったが...
帝京長岡のスタイルは、大まかに言えばポゼッションサッカーだ。ショートパスをテンポよくつないで、相手ゴールに迫っていく。
しかも、必要以上に横パスを使わず、前方向への進みがいいから、見ていてフラストレーションがたまらない。準々決勝でも、1点をリードして守備を固める尚志に対し、手詰まり感を漂わせるようなパス回しはほとんど見られず、尚志が築く砦を強引にこじ開け、際どいシュートを何本も放った。
狭いスペースに縦パスを打ち込み、あえて局地戦を挑む。そんな戦いぶりは、日々の練習で磨き上げた足もとの技術を誇示するかのようだった。昨夏のU-18全日本フットサル選手権を制した実績が、帝京長岡の武器を端的に表している。
攻撃の組み立てにおいて、中心的な役割を担うMF田中克幸(2年)が語る。
「見ていて面白く、また見たいと思ってもらえるサッカーを目指している。相手のプレスがハマったように見えても、実はハマっていない。空いているところは絶対にあるし、必ずウラを取れる。相手をよく見ていれば、相手が何枚来ていても(プレスを)はがせると思ってやっている」
実際、1点を追う後半の攻撃には迫力があった。エースストライカーのFW晴山岬(2年)が、「入ったと思ったシュートは何本かあった。(試合中も)崩せていると思っていた」と語ったように、相手守備を完全に崩し切ったチャンスは何度かあり、帝京長岡の控え選手が思わずベンチから飛び出すシーンもあったほどだ。
結果的に同点に追いつくことはできなかったが、「後半は誇らしいサッカーをしてくれた」とは古沢監督の弁。準々決勝に限らず、1回戦からの4試合を通じて、帝京長岡の痛快なサッカーを堪能した人は多かったのではないだろうか。
とはいえ、これでは”いいサッカー”止まり。本当の意味でのインパクトを与えるためには、結果が必要なこともまた事実だ。
かつては、弱小県のなかでさえ、お世辞にもサッカーが盛んな地域とは言えなかった長岡から、全国の舞台でこれほどの戦いができるチームが出てきたことのウラには、中学生年代以下の強化がある。古沢監督は、その影響の大きさを知るからこそ、「小・中学生年代に夢を与えるためにも、勝ちたかった」と言い、「(帝京長岡のサッカーが)本当に長く記憶されるためには、優勝しなければいけないと思う。たとえ準優勝でも、きっと1、2年で忘れられてしまう」と続けた。
たとえば、高校サッカーに革命をもたらしたとさえ言ってもいい、第84回大会優勝の野洲(滋賀県)。当時の高校サッカーは、まだまだ蹴って走る従来のスタイルが幅を利かせていた時代である。野洲が見せた、ドリブルとパスを組み合わせた個人技主体のサッカーは確かに斬新だったが、最終的に旧態依然としたサッカーにねじ伏せられていたら、どうなっていたか。これほど大きな印象を残し、10年以上経った今でも語り草となるようなことはなかったかもしれない。
また、第94回大会で旋風を起こした国学院久我山(東京都)にしても、準優勝に終わりはしたが、テクニックを全面に出したスタイルで優勝候補の青森山田を準決勝で下し、決勝に駒を進めたインパクトは大きかった。
やはりベスト8止まりでは、”弱い”のだ。
きっと周囲は、帝京長岡の健闘を称えるだろう。しかし、自分に厳しすぎるようにも聞こえる指揮官の言葉こそが、実は真理を突いている。
「ツイッターとかを見ていても、(帝京長岡は)いいサッカーしているとか、面白いと言われていても、絶対に勝てるとか、必ず勝つとは言われていない。そう思われるようにならないといけない」
田中もまたそう語り、結果を残すことの重要性を口にする。
幸いにして、と言うべきか、帝京長岡は準々決勝の先発メンバーのうち、6人が2年生という若いチーム。この経験を来年度に生かすチャンスが残されている。古沢監督が語る。
「惜しかったではいけない。美しく勝つサッカーを追求していきたい」
目指すは、新潟県勢初となる選手権制覇。それが成し遂げられたとき、”面白くて強い”帝京長岡は、見る者にさらなる強烈なインパクトを与えてくれるに違いない。