アジアカップの見方~杉山茂樹×浅田真樹(後編)前編を読む>>杉山 決勝に進出すれば7試合を戦うことになるアジア杯ですが、問題は、日本代表の初戦のスタメンが、ほぼ見えてしまっていることです。それをどう崩して7試合を戦うかがポイントになりま…

アジアカップの見方~杉山茂樹×浅田真樹(後編)

前編を読む>>

杉山 決勝に進出すれば7試合を戦うことになるアジア杯ですが、問題は、日本代表の初戦のスタメンが、ほぼ見えてしまっていることです。それをどう崩して7試合を戦うかがポイントになります。森保ジャパンは去年の秋、月に2試合のペースで親善試合を行ないましたが、それは簡単に乗り切れるんです。問題は短期集中の大会になった時。日本の指導者が往々にして陥りやすいのは、初戦から「絶対に負けられない」という姿勢でメンバーを固定して戦い、結果、途中で息切れして危なくなるというパターンです。



短期集中型のアジア杯で、その采配が試される森保一監督

 7試合、すべて調子よく勝てるなんていうことはあり得ないんですよ。やはりどこかで引っかかる。そのときにどう対処するのか。そのアイデアの数こそ監督の力です。その意味でも監督の力を見る大会になると思います。アジア杯の方式も、W杯に似た短期集中型です。森保一監督に任せて大丈夫なのか、あらかたわかると思います。日本人監督でアジア杯を戦うのは、1996年の加茂周さん以来6大会ぶり。いま、代表監督はもはや日本人監督で大丈夫という雰囲気が浸透しつつあるけれど、それは果たして本当なのか。じっくり観察したいと思っています。

浅田 アジア杯そのものの話をすると、今回から出場国が16から24に増え、今までに比べるとレベルの低い国が出ています。ところが日本の対戦相手を見ると、初戦のトルクメニスタンはちょっと落ちますが、第2戦のオマーン、第3戦のウズベキスタン、決勝トーナメント1回戦以降で当たると想定される国を含めて、そこまで「しょぼいチーム」は見当たらないですね。厳しい相手と真剣勝負を戦えるという意味で、ラッキーだと思います。

杉山 だからこそ、興味があるのはトルクメニスタン戦のメンバーです。まず負けることのないこの試合で、今、なんとなくスタメンだと思われているメンバーを崩していったほうが、最後に余力が残る気がしますし、従来のスタメン以外で誰が確実に使えるのかを読むことができる。

 ベストメンバーで大勝するより、これまでにない選手の組み合わせを試して1-0でいいから勝つことを目指すというコンセプトのほうが、7試合目(決勝戦)にいいサッカーができる可能性は高まります。逆に、3戦目のウズベキスタンはそう簡単に勝てる相手ではないから、その時に合わせてベストメンバーを持ってくるほうがいいかもしれない。

浅田 でも今回は、極端な話、グループリーグで3位に入っても決勝トーナメントに進める可能性があるわけです。万が一、トルクメニスタンに引き分けたところで、大慌てする必要はありません。逆に初戦に勝てば、あとは好きにメンバーを代えてテストしていったっていい。大胆にチームを変えやすくなるかもしれないし、まさに監督の腕の見せどころじゃないでしょうか。

 今回のアジア杯は、出場国が24になったせいで、試合のスケジュールがかなり間延びしています。開催国UAEの入ったグループAの初戦が1月5日(現地時間)なのに対して、日本の入ったグループFは9日。決勝トーナメントに入ると、グループリーグで後のほうに試合をしたチームほど、試合と試合の間隔が短くなっていきます。グループFの第3戦は17日ですが、決勝トーナメント1回戦は最短で20日。準々決勝(24、25日)、準決勝(28、29日)、決勝(2月1日)と、最後のほうになればなるほど、日本は日程的にきつくなっていく。「ここらでひと息、入れられるな」という試合はないと思うんです。それだけに、グループリーグではいかに多くの選手を使うかが重要になってきます。

杉山 今回は、優勝すればコンフェデレーションズ杯に出場できるというご褒美もないし、特段、結果が求められているというわけではないのですが、日本がどこまでいけるのかというと、予想は難しいですね。

浅田 2018年に行なわれたアジア大会や、アジアU-19選手権なんかを見ても、依然として日本がアジアのトップレベルになるのは間違いない。現実的に考えて、日本を倒す可能性があるのは、韓国、オーストラリア、イランなど、限られたいくつかの国だけでしょう。でも、優勝するというイメージはしにくいですね。やはりどこかで脆さが出てしまうんじゃないかというのが妥当な見方。今の日本代表をニュートラルに見たら、そうなるんじゃないですか。

杉山 大迫勇也(ブレーメン)がメチャクチャに活躍しないと優勝はない、という感じじゃないですか。日本が2011年のアジア杯で優勝した時には、メンバーは全般的によかったし、本田圭佑に何人力かの力があったんです。それでも準決勝の韓国戦は大接戦だったし、決勝のオーストラリア戦も苦戦していました。どちらにしても、ベスト4以降ぐらいになると接戦になるんです。そうなると、今の日本はちょっとそこのレベルには至ってないような気がする。他の出場国のメンバーとの比較は難しいですが、過去の日本代表との比較でいうと、そう思います。

浅田 2011年の日本代表が上り調子だったとしたら、前回2015年のアジア杯の日本代表はまさにピークに近い状態のチームでした。しかも、ブラジルW杯のメンバーを中心に計算できる選手で固定して戦っていたから、やはり前回大会の出場国のなかでは抜群に強かったですよね。現在の日本代表はそういう感じはしません。ただし、その圧倒的に強かったチームでさえも、運悪くベスト8でUAEにPK戦で敗れている。

杉山 決勝トーナメントの組み合わせがカギになるけど、ゲームを支配しながらもPK戦負け、というのは十分あり得るでしょう。

浅田 今回の日本代表も、そのときのような強さを見せてくれる可能性はありますが、やはり7試合あったらどこかで脆さが出る可能性のほうが高い。メンバーを見ても、4年前はドルトムントの香川真司にしても、インテルの長友佑都にしても、かなり高いレベルのクラブでずっとやってきた選手がいました。今回、期待をかけられている南野拓実(ザルツブルク)や堂安律(フローニンゲン)ですが、言ってみれば、それよりはだいぶランクが下のほうのクラブでしか、やっていないわけです。

杉山 こういう大会で怖いのはパニックになることです。パニックになりやすい選手というのがいるんですよ。とくに決勝トーナメントに入ると、焦って失敗したり、試合の途中で熱くなってしまったりするようなタイプがいて、それは親善試合ではわからない。若手には大きな国際大会はこれが初めてという選手も多いし、そういう性格が露呈する場面もあるかもしれません。日本の場合、そもそも監督がこういう大会が初めての経験だし、ベテランのなかにも結構、危ないのがいますからね。

浅田 そういうことも含めて、今回の日本代表は楽しみだと思うんです。脆いから不安があると、必ずしも否定的に言っているわけではありません。「ここに頼ればいい」というものがない日本代表が、久々に見られる。怖さもあるけど、可能性もある。どっちもあり得るという意味で「楽しみ」です。