1月2日、対マンチェスター・ユナイテッド戦。ニューカッスル・ユナイテッドの武藤嘉紀に出番の声がかかったのは、0−1の相手リードで迎えた78分のことだった。 急いでユニフォームに着替えてテクニカルエリアで交代を待つと、その間にマンチェス…
1月2日、対マンチェスター・ユナイテッド戦。ニューカッスル・ユナイテッドの武藤嘉紀に出番の声がかかったのは、0−1の相手リードで迎えた78分のことだった。
急いでユニフォームに着替えてテクニカルエリアで交代を待つと、その間にマンチェスター・Uに2点目を奪われてしまった。81分に出場し、残り時間は9分。失点の直後に武藤は投入されたが、相手に守備を固められ攻撃のスペースも少なく、大きな見せ場のないままニューカッスルは0−2で黒星を喫した。
ベンチから戦況を見つめる武藤嘉紀
試合後、武藤は静かに語った。
「(運を)持ってないですね。入る前に決着ついちゃった感じで。チームとしても、逆転するという、あれ(=気持ち)がなくなってしまっていた。相手もしっかり後ろを固めて、前にもう任せる感じになった。ただ、(自分の)調子は非常にいいですし、体もキレている。こういう状況になっても、やっぱり点を獲らないといけなかった」
武藤としても、難しい試合展開だった。この日もニューカッスルは、CFサロモン・ロンドンへのロングボール攻撃ばかり。得点チャンスは長いボールやクロスボールの大味なアタックからしか生まれず、武藤はなかなかボールに絡めなかった。
それでも、サイドに開いてボールを受けようとしたり、長いボールのセカンドボールを拾おうとしたりしたが、得点機を掴めなかった。シュート数は0本。6分間のアディショナルタイムを含めて約15分間プレーしたが、試合の流れを変えられなかった。
「今はチームの攻撃が、『ロンドンに全部蹴って』という形。クロス頼りになってしまった。あれで勝ったらOKだけど、勝てないと、今日みたいに雰囲気が最悪になる。
もちろん、それを監督が求めているなら、やらないといけない。とにかく、サロモン(・ロンドン)が前線で収めてくれたら、自分は今日みたいに裏に走る。俺がその裏をとる。その形を徹底することによって、『こいつ使おう』となると思うので」
悔しさを滲ませながら語っていた理由は、結果を残せなかったことだけではない。
1月9日にアジアカップの初戦を戦う日本代表に合流するため、今回のマンチェスター・U戦を最後にチームを離れた。このタイミングで離脱することに、歯がゆさと難しさを感じていた。
W杯ロシア大会以来となる招集に、「代表でプレーするのは特別なこと。モチベーションになる」と気持ちを高まらせている。だが、ニューカッスルでの現状を思うと、諸手を挙げて喜んではいられない。シーズンの真っ只中にいる欧州組は、同じようなジレンマを抱えてアジアカップに参加することになるが、武藤も例外ではない。
理由のひとつは、ニューカッスルのレギュラー争いでさらに遅れをとることだ。現在の立ち位置はベンチ要員。アジアカップの決勝は2月1日に行なわれ、最長で約1カ月もニューカッスルを離れることになる。武藤も「ここでやっぱり(チームを)離れるのはすごく厳しい」と表情を曇らせた。
とくに、1月5日に行なわれるFAカップ3回戦は、武藤にとって絶好のアピールチャンスだった。チームとして大会の優先順位が落ち、しかも、3回戦の相手は英2部のブラックバーン・ローヴァーズ。武藤に先発の機会が与えられていた公算が大きく、本人も「次の試合(=FAカップ3回戦)で、スタメンで出られたと思う」と話す。1月下旬に行なわれるFAカップ4回戦も欠場することになるだろう。
さらに、FWがコマ不足になるため、冬の市場で選手を補強する可能性が高まった。武藤も「1月に補強もあると思う。自分にとっては難しくなる」と、アジアカップ後の立ち位置について危機感を露わにする。加えて、チームは現在、降格圏から2ポイント差の15位につける。降格圏が近づいており、武藤もチームの力になれないことを嘆いた。
もうひとつの理由は、出場時間を確保できないこと。
11月3日のワトフォード戦で左ふくらはぎを痛め、武藤は約1カ月にわたり戦線を離脱した。復帰後もベンチスタート+出番のない状況が4試合続き、負傷から約2カ月後のリバプール戦(12月26日)でようやく実戦に復帰した。
復帰後ピッチに立ったのは、先発フル出場したリバプール戦と、途中出場した今回のマンチェスター・U戦の2試合のみである。アディショナルタイムを含めても、2試合のプレー時間は合計108分しかない。
しかも、日本代表に合流しても先発出場の保証はない。最前線の1トップには大迫勇也(ブレーメン)が君臨し、攻撃的MFには南野拓実(ザルクブルク)や堂安律(フローニンゲン)、中島翔哉(ポルティモネンセ)が頭角を現してきた。浅野拓磨(ハノーファー)の負傷離脱により追加招集を受けた武藤は、あくまでもバックアッパーの位置づけだ。つまり、負傷から復帰後も、約2カ月間にわたり試合に出られるか、出られないかの微妙な状況が続くことになる。
それでも、武藤は気持ちを切り替え、前向きに力を込めた。「総力戦」といわれるアジアカップで日本代表の力になるためにも、結果を残すことに全力を注ぎたいと誓った。
「(代表で試合に)出たいというより、出なきゃならないですよね。(プレーするポジションは)サイドではなく、前線だと思う。サコ君(=大迫勇也)がファーストチョイスだと思いますけど、サコ君が全試合に出られるわけじゃないと思うので。もちろん、サコ君とポジション争いしなくちゃいけない。
森保ジャパンになって、前の選手が結構固定されている印象なので、そこに食い込んでいかないといけない。アジアカップは総力戦でもあるので、とにかく、チャンスをもらえたら、そこで結果を出すことをイメージしています。
途中から出ても、しっかりと点を獲る。さらにコンディションを上げて、自信をつけてここに帰ってこないといけない。代表に呼ばれるってことは、そこで結果を残さないといけない。まずは日本のために結果を出していきたい」
シーズン前半戦を終えたプレミアリーグで、武藤は1得点に終わった。ケガもあり思い描いたような前半戦にはならなかったが、「当たりの激しさ」と「展開の速さ」が特長のプレミアリーグに身を置き、勉強になることも多かったという。
その経験をアジアカップで活かせるか。強い意志とともに、武藤は決戦の地UAEに乗り込んだ。