今シーズンを締めくくる皇后杯決勝は、日テレ・ベレーザが延長の末にINAC神戸レオネッサを4−2で下し、大会連覇で13度目の優勝を手にした。 ベレーザは、今シーズンから永田雅人監督のもと新たなサッカーに取り組んできた。多くの選手がゴール…

 今シーズンを締めくくる皇后杯決勝は、日テレ・ベレーザが延長の末にINAC神戸レオネッサを4−2で下し、大会連覇で13度目の優勝を手にした。

 ベレーザは、今シーズンから永田雅人監督のもと新たなサッカーに取り組んできた。多くの選手がゴール前で目まぐるしく入れ替わりながら、スペースとリズムを作ってきたこれまでのスタイルを一新。すべての動きに意図を持たせ、高い予測力から導き出すポジショニングが命のスタイルで、90分間神経を研ぎ澄ましていても、ハマるかハマらないかは紙一重という難しいミッションだ。



今季も圧倒的な強さを誇った日テレ・ベレーザ

 INACも今シーズンから、ベレーザのコーチとしても活躍していた鈴木俊監督が就任し、チーム改革の真っただ中。過去、INACは2011年から3シーズンはタイトルを総ナメにし、黄金期を迎えていた。その後、澤穂希、川澄奈穂美、近賀ゆかり、大野忍といったビッグネームがチームを去り、世代交代の過程で低迷する時期もあった。今シーズンは一から足元を固め、かつての粘り強いサッカーが戻ってきている。

 ここまで2冠のベレーザに対して、カップ戦、リーグ戦でともに2位に甘んじ、何としても一矢報いたいINAC。シーズン最後の皇后杯決勝での両者の激突は、まさに意地と意地のぶつかり合いとなり、120分でそれぞれに手応えを感じて戦っていた。

 最初に狙っていたゲームプランを進めたのはINACだった。ベレーザの1ボランチシステムと、2ボランチを組むINACのズレが生じるポイントをボールの奪いどころとして、ベレーザの攻撃の勢いを削いだ。たとえそこから最終ライン裏を突かれても、鮫島彩と三宅史織のCBが徹底して潰しにかかる。24分の場面はまさにそれだった。

 INACのDFライン裏へのボールに、ベレーザの1トップの田中美南が完璧なタイミングで走り出す。ボールのコースもズレはなかった。いつものINACであればゴール前で1対1に持ち込まれていただろう。しかし次の瞬間、ボールを鮮やかにカットしたのは鮫島だった。パスコースに対して準備を整えた鮫島の判断力が、田中のゴールへの動きを上回った。

 もちろん、三宅がしっかりとカバーに入り、リスクマネジメントも抜かりない。INACの守備がハマった前半は、得意のカウンター攻撃から増矢理花のゴールで先制する展開に持ち込んだ。

「ベレーザに対して1-0はリードじゃないと監督にも言われていましたし、後半はきっとペースを上げてくるからそれにひるんで下がらないように、後ろで1対1になったとしても思い切って行こうと話し合っていました」とは、何度も体を投げ出してベレーザの攻撃を防いでいた三宅だ。後半のベレーザのギアアップは想定済みだった。

 一方、ベレーザのロッカールームでは、誰一人焦っている選手はいなかった。

「前半でだいぶ相手を走らせたから、後半は(チャンスが)来るねっていう感じの雰囲気があった」。

 前半、右サイドで攻撃に絡めていなかった籾木結花はこう感じていた――。「後半で逆転できる」

 実際にそのとおりになり、後半のベレーザは、この1年で作り上げた引き出しから、最適な選択肢を全員で具現化しているようだった。ボールを受けられる選手がひとりいるだけでは、ベレーザが志向するスタイルは実行できない。2手3手先にボールがつながるように、全員がポジショニングを調整し続け、ピッチ上で選手が同じ絵を描いていく。それができたとき、ベレーザの攻撃は一気に速度が上がる。

 植木理子が決めたベレーザの同点弾が54分と後半の早い時間帯に入り、さらに、後半動きがスムーズになった籾木が勝ち越しゴール。これで勝負あったと思われたが、INACは皇后杯で調子を上げてきていた京川舞の豪快なゴールで同点に追いつく。ラスト10分の攻防は実に見応えがあった。

 延長戦――試合を決めたのは、後半に入り全得点に絡む動きを見せていた籾木。DFライン裏へ出た田中のトラップがこぼれたところへ走り込み、ギリギリの角度から再び勝ち越しゴールを叩き込んだ。

「逆転した後に同点にされたときはさすがに”あ~……”って少し落ち込みかけましたけど、この1年自分たちがやってきたサッカーと、試合の中でも前半から積み上げたものが後半や延長戦のゴールにつながった。すごく自信を持って臨めた試合でした」(籾木)

 ケガからの復帰から始まった2018シーズンは、籾木にとって試練の年でもあった。それでも、「大きな成長の年だった」と胸を張る。

“進んでは戻り、戻ってはまた進む”。今シーズン、ベレーザの選手がよく口にしていた言葉だ。目指すスタイルはそれだけつかみどころがなく、ピッチ上で形にしていくことは難しい。3冠という結果を出しながら誰にも真似できない理想を追求し続けていることこそ、ベレーザが比類なきチームであることの証明だ。

 そのベレーザをあと一歩のところまで追いつめたINAC。最後は4失点での敗戦となったが、ここにも差し込む光はあった。

 試合後、悔し涙が止まらなかった三宅だが、タフな展開の試合に可能性も感じていた。

「3失点目があるかもしれないことは予想していました。でも、延長戦で2点差になるゴールを自分のミスで許すなんて悔しいです。ファウルしてでも止めるべきだったのかも……」

 試合中に成長を実感できたという三宅。だからこそ、悔しすぎる失点だった。三宅自身初めて経験する皇后杯決勝。やはりベレーザは強かった。ボールを奪える楽しい時間や、一瞬でゴールを奪われる恐ろしさもあった。一番の自信になったのは、最後まで怯まなかったことだという。

「INACは今シーズンすべて2位で終わっています。しかもベレーザの3冠すべてを目の前で見ている。こんなチームはないと思います。来シーズンはこの悔しさを結果につなげたい。でなきゃ、この悔しさはなんだったんだってなりますから」(三宅)

 理想とするスタイルに挑戦することで、結果を出し続けようとするベレーザと、そのベレーザに跳ね返されながら、チャレンジャーとして成長のきっかけを拾い集めて強くなろうとするINAC。来シーズンも両者の熱い戦いが見られそうだ。