ジュビロ磐田名波浩監督インタビュー(3)(1)から読む>  (2)から読む> 2018年シーズンを振り返ってみれば、ロシアW杯による中断期間を迎えるまで、ジュビロ磐田はJ1で8位につけていた。ところが、リーグが再開後、ジュビロは勝ち星を…

ジュビロ磐田
名波浩監督インタビュー(3)

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 2018年シーズンを振り返ってみれば、ロシアW杯による中断期間を迎えるまで、ジュビロ磐田はJ1で8位につけていた。ところが、リーグが再開後、ジュビロは勝ち星を取りこぼし続けて徐々に失速していった。

 それにしても、なぜチームの歯車が狂ってしまったのか。その理由と、指揮官として6年目となる2019年へ向けての意気込みを、名波監督に聞いた――。

――2018年シーズンをあらためて振り返っていただきたいのですが、W杯による中断前の成績は、6勝3分6敗で8位。まずまずの位置にいたと思うのですが、そこからリーグ再開後、なかなか勝ち星に恵まれませんでした。何か原因があったのでしょうか。

「言い訳にしたくないことだったから、ずっと言わなかったけど、簡潔に言ってしまえば、ケガ人や負傷者など傷んだ選手が多かったこと。それも、主力として活躍を計算していた選手ばかりだった。でも一番は、得点。得点が少ないことが、自分たちが不振に陥った最大の原因だと思っている」

――確かに2018年シーズンのチーム総得点は35。リーグ全体で17位でした。

「この課題については今季、テコ入れしようと思っている。というか、もっと(攻撃の)形を作っていこうと考えている。

 どちらかというと、自分は守備が”7”、攻撃が”3”の割合でトレーニングをしてきた。だから、攻撃に関しては、あまりパターンを作ることをしてこなかったというか……。もちろん、いくつかの形はあったけど、選手たちのアイデアに任せていたところもあって。ただ、(これまでは)必要最低限すぎたかなと。

 守備に関しては、今いる選手たちは3バックでも4バックでもスムーズに対応できるようになった。だから今季は、むしろ攻撃に特化するくらいでもいいんじゃないか、と思っている」

――攻撃において手詰りな点があったということでしょうか。

「とくにボックス内の厚みだよね。そこでの形も、もっと必要だと感じている。(昨季は)セットプレーからの得点も大きく減ったけど、そこを除いても、あと10得点くらいは増やしていかなければいけない」

――一方、大量失点して負ける試合がいくつかあって、失点の多さも目立ちました。2017年にはリーグ最少の30失点だったのに対して、2018年は48失点も喫しています。

「それは、明らかに自陣でのミスによる失点が原因。自陣のミスだけで、7、8点は失点しているからね。しかも、自陣ゴール前から33~34mくらいのところで多くのミスを重ねて、そこはもう相手にとってはアタッキングサードになるから、失点に直結することが多かった。

 大量失点で負けた話も出たけど、それもこれが原因。ウチは、被シュート数は少ないんですよ。リーグ4位かな。にもかかわらず、それだけ失点が多いのは、自陣でのミスが多かったから。

 1-6で負けた名古屋グランパス戦(第25節)にしても、後半の被シュートが6本なのに5失点。1-5で負けた清水エスパルス戦(第29節)もそう。試合開始早々に自分たちのミスでボールを奪われて失点し、難しい試合にしてしまった。

 もうひとつはDFライン。全体をコンパクトにやっていくなかで、そのラインが(2017年より)1.8mくらい下がっていた。人の身長くらいで、大した距離じゃないと思うかもしれないけど、この幅がものすごく重要なんだな、というのをあらためて感じた。

 これって、出場している選手が代わったことによって”そうなった”では、ダメなんだよね、組織として。誰が出場しても、一定のラインを保って、同じクオリティーの守備ができないといけない」

――名古屋戦、清水戦、さらに(第22節の)浦和レッズでも0-4と大敗を喫して、そこは磐田”らしさ”が感じられませんでした。

「その3試合は確かに目立つよね。でも、本来のジュビロの守備というものが総崩れだったかというと、決してそんなことはない。大量失点が目立つ一方で、無失点で終えている試合も結構ある。2017年が14試合で、2018年にも苦しんだとはいえ、11試合もあるんですよ」

――そうした状況を踏まえると、リーグ再開後、無失点に抑えながらもスコアレスドローに終わったコンサドーレ札幌戦(第17節)やサガン鳥栖戦(第18節)が痛かったですね。

「その2試合を含めて、(再開初戦となる第16節の)鹿島アントラーズ戦(3-3)からの4試合連続引き分けという結果は相当痛かった。2018年を総括する機会では、そこは必ずポイントとして挙げている。そこで勝ち切れなかったことで、残留争いに片足だけでなく、両足を突っ込むことになったし、その時にもそうなるだろうと思っていた。

 それは、そこで1勝でもしていれば、勝ち点が43となって(残留して)いた、ということではなく、あそこでひとつでも勝っていれば、(チームの)流れが変わっていたと思うから。あの4試合連続引き分けで、選手たちも自信を失って、負傷者も出たことで、負のスパイラルに陥ってしまった。

 あとは、リーグ全体を見ると、名古屋やガンバ大阪が連勝を飾ったことで、自分たちがどうこうというより、後ろから追いかけられてきているといった危機感というか、そういう感覚のほうが強くなっていたかもしれない。まあでも、(どの試合も)勝てなさそうという感じはなくて、『勝てそうだ』というゲームのほうが多かったんだけどね」

――2017年はそういうゲームをモノにしていました。

「そうだね。そういう意味では、監督としての総括というか、反省になるかもしれないけど、采配で勝たせてあげたかったな、というゲームが(今季は)多かったかな……。もちろん、いろいろと手は打っているんだけど、劇的に変わった試合が少なかったな、と」

――また、シーズン前半戦では前からプレッシャーをかけて、高い位置でボールを奪って、そのままゴールまで持っていくシーンがよく見られましたが、後半戦はそういう試合がなかなか見られませんでした。

「そこは、残留争いをしているなかで、後ろの選手たちが失点をするのが怖くなって、3バックの両ワイドが出ていくシーンがほとんどなくなってしまって。それがないと、ウチの魅力は半減してしまいますからね。

 DFの(高橋)祥平に言わせれば、リスクを考えて自重した、ということなんだけど。負けている状況では出ていくけど、0-0とか、1-1のときとかはなかなか出ていかなかったね」

――勝てない時期が続くなかで、名波さん自身が何か感じたことはありますか。

「う~ん……、(自分は)点を取るためにどうすればいいかを考えていたけれど、選手のほうは(残留争いをしていることもあって)点を取られないほう、どうしたら失点をしないかのほうに着眼点が向いていったというか、重心が傾いてしまったかな、と。そこで、自分がきちんと(チームを)コントロールして、怖がらずに攻めようという姿勢を植えつけてあげられれば、違ったのかなとは思うよね。

 あと、足りないところはもう少しチームみんなで補っていこうよって、そういうチームを作ってきたつもりだったけど、もっともっとそういうふうにしなければいけなかったなと。まあ、そうしたことを言い出したら、反省しかないよ。そこが、一番自信があったはずでしょって思うから」




名波監督がその活躍ぶりを大いに称えた山田大記

――苦しいシーズンではありましたけど、そのなかで成長した選手はいますか。

「MF山田(大記)だろうね。山田がいなかったら、J1参入プレーオフ決定戦も厳しかったと思う。しかも、山田の何がすごいかって、チームが始動した1月から、1日も休まずに練習でフルメニューをこなしたこと。本人は2得点しか決めていないから、物足りなさを感じているかもしれないけど、そこはまた今季、肉付けしていけばいい。

 2017年シーズンは、ヨーロッパから戻ってきて苦しんでいたけど、2018年シーズンは本当に変わった。アウェーの柏レイソル戦(第13節)で初ゴールをマークしたけど、山田にとっては、あのゲームがキーになったというか、ターニングポイントになったんじゃないかな」

――シーズン途中に加入したFW大久保嘉人選手はいかがでしたか。

「試合を重ねるごとによくなっていった。(移籍してきた)当初は、ボールが来ないというストレスがあったと思う。実際、加入して間もない頃の練習試合では、30分間プレーして9回しかボールに触っていないこともあった。

 だから、嘉人にはボールを触ってリズムを作れるように自由を与えて、『ボールを触りながら、ゲームを作ってくれ』というふうに言っていた。ただ、『好きなことをやっていいけれども、その代わり、ボックス内に入っていくことだけは忘れるな』と要求した。『おまえは、ゴール前に入っていかなかったら、ぜんぜん怖さなんてないから』って。『後ろでボールをさばくことなんて、オレでもできるから』と。

 そういうことを言い続けて、シーズン終盤はよかったよね。最終節の川崎戦でもそうだけど、きっちり結果を残したでしょ。

 結局、川崎ではそれほど試合に出ていなかったこともあって、コンディションが出来上がるまでに時間がかかったところもあった。J1参入プレーオフ決定戦での動きは相当よかったから、あのままシーズンが続いていれば、1、2カ月後にはすごかったと思うよ。ほんと、そういう意味では開幕からいれば、と思う。(攻撃の)選択肢もいろいろと増えただろうし。

 あと、嘉人は自分がミスしたとき、奪われたボールを奪い返しにいく速さ、本気度がすごい。あれは、超一流だね。あんな選手見たことない」

――さて、2019年シーズンは、2014年途中から指揮を執りはじめて6年目となります。シーズンに向けての抱負というか、常に変わらず応援してくれるサポーターに向けてのメッセージをお願いします。

「勝てない時期も、”(監督を)辞めろ”という空気になっても、それでもなお、試合前にはチャントを歌ってくれた。そんな監督、Jリーグ全体を見渡しても、自分だけだと思う。それを考えただけでも、身震いするというか、気持ちが引き締まる。

 ホームでも、アウェーでも、試合前のミーティングを終えて、『行くぞ!』とロッカールームから出ていくときに、ちょうど自分に対するチャントが聞こえたりするから、(サポーターには)本当に感謝しかない。だからこそ、2019年シーズンは”恩返しの1年”にしたいと思っている。

 自分としては、リスタートの年にできればと。もう1回……再挑戦の1年になると思っている。自分自身、もっともっとサッカーを学ばないといけないと思っているし、もっともっとサッカーに対してピュアな心で取り組んでいかなければいけないと思っています」

(おわり)