森保一監督就任後の日本代表が挑む最初のメジャータイトル、2019年1月5日開幕のアジアカップは、UAE各地で行われる。要するに、中東で開かれる大会だ。 日本サッカーにとって、中東の地は必ずしもゲンのいい場所ではない。日本代表は過去、何…

 森保一監督就任後の日本代表が挑む最初のメジャータイトル、2019年1月5日開幕のアジアカップは、UAE各地で行われる。要するに、中東で開かれる大会だ。

 日本サッカーにとって、中東の地は必ずしもゲンのいい場所ではない。日本代表は過去、何度となく彼の地で苦杯をなめさせられてきた。

 その最たる例が、「ドーハの悲劇」だろう。

 1993年10月、カタール・ドーハで行なわれた、ワールドカップ・アメリカ大会のアジア最終予選。現在とは予選方式が異なり、中立地での集中開催で行なわれていた当時の最終予選は、出場全6カ国が総当たりで対戦し、上位2カ国にアメリカ行きのチケットが与えられた。

 日本は4試合を終えて、2勝1敗1分け。最後のイラク戦に勝てば、自力で初のワールドカップ出場を決めることができる状況にあった。

 ところが、日本は2-1でリードしながら、後半ロスタイムに同点ゴールを許す悲劇的な結末で、ワールドカップ初出場を逃したのである。森保監督はそのときの日本代表メンバーのひとりだ。

 当時はまだ、今ほど中東が身近な存在ではなかった時代である。日本ばかりか、欧米ともまったく文化や習慣が異なるイスラム圏の中東には、今以上に未知のことも多く、ある種の不気味さがあったのは事実だ。そんな背景もあり、中東での試合では何が起こるか分からない。そんなネガティブイメージが定着していったのだろう。

 嫌な思い出は、ドーハの悲劇だけではない。過去のワールドカップ予選やオリンピック予選を振り返っても、日本は中東で星を落とすことが多い。結果的に、本大会出場を逃す最悪の事態には至っていないものの、なるほど日本サッカーに中東コンプレックスが生まれても不思議はない状況ではある。

 とはいえ、四半世紀も前の出来事に、いつまでも引っ張られ過ぎているという側面があるのも、また事実である。

「(中東だからといって)やりづらいっていうイメージはない」

 そう語るのは、24歳の右サイドバック、室屋成である。



アジアカップの日本代表メンバー入りした室屋成

 2016年リオデジャネイロ五輪に出場している室屋は、そのアジア最終予選を兼ねたアジアU-23選手権で優勝した経験を持つ。2016年1月、その大会が行なわれたのが、同じ中東のドーハだった。

「メディアの人たちからもドーハの悲劇とか、そういう話をよく聞くが、自分たちは結構(中東に対して)いい感覚がある」

 今回のアジアカップ登録メンバーのなかでは、室屋の他に、MF遠藤航、中島翔哉、南野拓実が、U-23でのアジア制覇を知るメンバーだ。

 もちろん、一発勝負のトーナメントでは何が起こるかわからない。だが、それはどこで行なわれる大会でも同じこと。今後の日本代表を担うであろう若い世代の選手たちに、不要な中東コンプレックスがないのは喜ぶべきことだ。

 ワールドカップ・ロシア大会が終わり、森保監督が就任した日本代表は、一気に世代交代が進んだ。

 その結果、新監督就任後の5試合で、4勝1分けという結果ばかりでなく、内容的にも期待感が高まるものを示している日本代表だが、それはあくまでも親善試合でのことだ。各国が本気で日本に一泡吹かせてやろうと挑んでくるシビアな試合で、若い選手がこれまでと同じように力を発揮できるかどうかはわからない。

 若返りが進んだ日本代表は、アジアカップ登録メンバー23名を見ても、リオ五輪世代以下(1993年以降生まれ)の選手が10名を占める。彼らの国際Aマッチ出場数は、遠藤の15試合を除けば、残る9名はすべてひと桁。A代表経験という点ではまだまだ未熟だ。

 しかし、その一方で、彼らの活躍が2大会ぶりのアジアカップ制覇だけでなく、今後の日本代表強化のカギも握っている。

 若い選手たちにとって今回のアジアカップは、A代表として初めて臨む大きな大会である。つまりは、上々の船出となった新生・日本代表の、真価が問われる第一関門と言っていい。室屋が語る。

「とにかく自分が今できることにフォーカスして、こういう期間にどれだけ自分が成長できるかを考えながらやっていきたい」

 おじさん世代にとっては忌まわしき中東の地で、”ドーハの悲劇を知らない世代”が、どんな活躍を見せてくれるのか。日本代表の新たな挑戦を楽しみにしたい。